テラーノベル
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今日の天気は風が冷たく、俺には似つかわしい冬の快晴。
メンバーで仕事を共有して使ってるカレンダーには多分メンバーの誰かが勝手に書いたのだろう。2月9日にだけ少し気合いが入ってるように書かれてる赤丸。
今日は俺の誕生日、、らしい。
毎年実感もなく、昨夜の配信でも誕生日っぽい話もしていない。
でも、いつもより通知が鳴るスマホには、俺が生まれてきてくれた祝福をリスナーが祝ってくれている。 なんもない日なのに俺のグッズで祭壇を作ったり、わざわざケーキを買っていたり、馬鹿みたいで、少しだけ愛おしい。
こんな日でも俺はソファに腰をかけて仕事のメールを確認していた。自分のスマホを触っていた時、
「なつ?」
「ん?」
隣から聞こえてきたのは俺の恋人のいるま。
だいぶ前から付き合い始めた彼からは、勿論毎年プレゼントを貰えてる。 いるまは毎回俺に欲しい物を聞いては、貰ったものは全てセンスが良い。好きな物も種類も当ててやがる。
「誕生日プレゼント、」
「いきなりだな笑」
いつも見せてくれる大好きな笑顔だけで、まだ貰えていないのに俺は満たされていた。
だが、いるまの手元は後ろに隠していたけれどラッピングされたプレゼントも、紙袋すらない。ていうか、 何も持ってない。
「…どっかに隠してんの?」
「隠してねぇよ笑」
笑いながら後ろに隠していた手を前に出された。紙袋が落ちた音も、出された手にも何も無い。
何をしたいのか分からず、俺は思わず怪訝そうにいるまを見てしまった。そんな俺の顔が面白いのか吹き出すように笑う。
何も分からずにいる俺に、いるまは笑顔で言った。
「10個、お前が欲しい物をあげるわ」
「……は?」
「…そんな金なんてねぇだろ?笑」
「いーや?あるかもしれんやん?笑」
少し自信ありげな顔をしてこちらを見てくる。俺の金とか使わねぇよな?コイツ
いやな予感を感じてしまい自分でも分かるくらいの歪むように嫌そうな顔になってしまった。そんな俺の顔でもいるまはクスクスと笑っている。
そりゃあ誰だっていきなり突きつけられても困るものだろ。それに、今まで人を信じ込まなかった奴がいきなりこんな事言われたってどうすればいいのか分からないし。
それでも、彼はきっと俺に喜んでもらいたい気持ちがあってそんな事を発したのだろう。
だから毎年彼からプレゼントを貰っている。アニメを忠実に再現されているシンプルなリング、俺が好きなアニメのワンシーンが描かれているTシャツ、
これだけで見ると恋人同士のプレゼントなのか分からないけれど笑
でも今年のプレゼントは、俺だけの神になってくれるらしい。ゲームだって、買い物だって、金だって、下ネタばっかの話だって全て乗ってくれるんだろう。
でも、彼には悪いが願い等なにもなかった。
必死に頭をフル回転させながら悩ませる。
「……時間まだあるし、ゆっくり考えな?」
「…そうだな 」
「ちなみに今日中な?」
「は?」
しかも条件付き。そうやって後に含ませてくるのも、ムカつくけれど彼らしいプレゼントなもんだ。
そうしてる間に いるまは他の用事をしに、部屋から出ていった。 俺しかいない広いリビングで1人、欲しいものを考える。
すると、俺の誕生日を祝うリスナーの通知に紛れてたツイートを見つかった。開いてみて確認すると、俺が大好きで止まないDGのフィギュアのラインナップが書かれていた。
そういえば、今欲しいフィギュアが3つある。今年の目標としてる貯金をするために、その中から厳選した1つだけを買って満足しつつも、欲しかったフィギュアの写真を見て歯を食いしばった記憶がある。
「よし、3つはこれにしよ」
残り7個なんてもうない。頑張って考えた方だ。
でも、今日しか頼めない貴重な1日でもある。他に欲しい物がないか、スマホをスワイプさせながら必死に探す。
すると、軽やかな音と一緒にスマホが震える。上の方を見てみるとたまに一緒に撮影をしてる活動者からの連絡だった。
探す手を止めて、ソイツからの連絡を確認する。
『今日撮影しない?』
きっと撮影のネタをするに、人が足りないんだろう。了承の返信をしてからリビングから自分の防音室へと向かう。
日中つけっぱにしてるパソコンのカーソルを動かし、ディスコードを開く。ディスコードに来てる輩を見て少し疑問を感じる。
いつもより大人数だと。
そう思った疑問は頭の片隅に置いたまま、俺はそこのサーバーへと入ってしまった。
「あ、来た!」
その第一声と共に、サーバーにいる奴らはいきなり騒ぎ出した。高い声や低い声に合わさった声に鼓膜が痛くなる。字幕もないし聖徳太子でもない俺が聞けた一声は、誕生日だの主役だのと俺の祝福を祝う単語。
少し嬉しく思う反面、流石に長すぎる地獄の空気に耐えれなくなっていた。
「うっさぃッ!ありがとぉ”ッッ!!」
うるさい声を掻き分けるように俺も大声をあげた。
喉が痛くなったのか、言うことが無くなったのか静かになった後、全員していつものノリのように撮影が始まった。
いつもの撮影でも変わらない下ネタやくだらない話を静かに聞く方へと回っておく。けれど、今日だけ何故か違和感がある。
「なあ?暇なっちゃん?」
「ぅえ??」
いきなり謎のトークを振られ、思わず上擦って掠れた可愛くない声が出てしまった。そんな声に触れないはずもなく、みんなして真似をし始め、恥ずかしくて歯を食いしばった。
それからも、よく分からないタイミングで俺に振ってくるコイツらのノリに困惑しつつも頑張って着いていき、なんとか撮影が終わった。
「俺をいじってくんのマジでやめろよ」
「だって、お前絶対今日喋んねぇもん」
撮影の後、文句を垂れ流すとここでの撮影中の俺の弱点をつついてくる。前の撮影の事もあって地味に心臓に刺さってくる。
「今日くらい沢山喋ってくださーい」
彼の言葉に数人が納得するように首を縦に振る声と音がした。彼らの行動に1つの理由がわかった気がした。
「…あんがと」
だけど自意識過剰だといじられたくないため口にしなかった。でも、納得してくれた事に誇ったような鼻息が耳に届いていた。
こういうサプライズみたいな誕生日も、案外悪くないとも思ってしまう。メンバーの誕生日にもやってやろうかと1人で計画をしていた。
そんな思考も一旦頭の片隅に片付けておいて、数本分の撮影が終わりサーバーから抜けると、時間はもう夕方になっていた。 ゲーミングチェアに背もたれをかけながら考える。
途中から誘われた撮影に集中していたからか、 結局欲しい物なんて何も考えられていない。欲しいっちゃ欲しいけど使わない物ばかり考えてしまい、頭が痛くなる。
早くしないとこの後は俺のチャンネルに歌みたが上がり、そのまま配信になってしまう。 悩んでる時、脳内に1つだけ仮説が立った。 だったら欲しい物じゃなくてやって欲しい事でもいいんじゃないか、と
デスクに飾られてる小さなカレンダーに目を向ける。誕生日の翌日は特に仕事も入っていない、タスクも期限までには終わらせる余裕もある。
「……最近溜まってんだよなぁ…//」
付き合ってから数ヶ月は経つが、エッチなんてまだ1回しかしていない。それも去年のクリスマス以来。だが、嬉しいことに毎日忙しくしてもらってるため、互いに仕事ばかりで恋人らしい事をしていなくて当然だ。 いるまもきっと、明日は午後からの仕事しか入っていないはず。
「一応、入れてみっか…」
性欲がないと言っておきながら、クリスマスに俺から誘った時は嬉しそうに俺の事を貪り食ってたヤツだ。ちゃんと乗ってくれるんだろう。
それからも俺は1日頭を使っておかしくなったのか、子供っぽいお願いからエッチで意味の分からない変なものまで出てきてしまったまま、 なんとか10個埋めるのだった。
そして無事、歌みたの投稿も3時間に渡る誕生日配信も終わり、世間が静かに眠る時間へと変わってしまった。
夜行性な俺らは、ほんの少しだけ眠気を感じつつもまだ仕事や自分のやりたい事をして過ごしている。
配信を切り、凝っている肩や長時間座っていた腰を揉みながら片付けをしていた。飲んでいたジュース缶やつつきながら食べていたケーキのゴミを片手にまとめて、自室を出る。
「いるま? 」
「お、おつー」
リビングの扉が開くと、さっき配信で喋ったばっかのいるまがソファに座っていた。手元にはスマホを横にして、よく見る緑色のアイコンが映し出された画面が見えてしまった。
「お前見てたのかよ」
「いいだろ?配信くらい見ても」
気恥ずかしさを紛らすように片手に持っていたゴミをくしゃりと握る。そんな俺を見たのかいるまは手に持つスマホを隠してやるように画面を伏せて、ローテーブルに乗せてくれた。
「…誕生日、もうそろ終わるな?」
「………」
「今度は俺だし、沢山祝えよ?」
出る前に渡されたプレゼントを忘れてるフリをするように、淡々と喋る恋人。別に急かしたりしていないんだろうけど、タイムリミットが近づいてると言いたいんだろう。
彼の隣に座って、考えていた欲しい物を思い出そうと行き場のない手で指遊びをしていた。
そんな俺を見て微笑んだ彼は、今度は俺の近くに座り直すように腰を沈めた。座っていた身体が少し揺れて、隣からは彼の温もりと匂いが感じられる。
「…ねぇ?」
「ん?」
「…欲しい物、10個決めた」
誕生日が終わる数十分前、夜の静けさが俺たちの呼吸音を目立たせた。
「……なに?」
俺の答えを待ってくれてるいるま。1番最初に決めたものから順を追って話してく。
「まず、フィギュア3体でしょ?」
「はっ、お前らしい笑」
あとは____
「………____」
「ん?なつ?」
話そうとした口が、開いたままになってしまった。
「…ちょっと、待ってな?笑」
思い出せない。何が欲しかったんだっけ?
頭を悩ませた数時間前の俺を思い出させる。配信に他の仕事ばっかやっていたからか、頭から抜けてしまったんだろう、メモしておけば良かった。
「___…あ!」
そう思っていた時、ようやく自分の欲しい物を思い出せた。悩んでる俺を見守っていたいるまが隣で反応する。
「あとは…」
『……最近溜まってんだよなぁ…//』
そしてまた喉に何かつっかかったように言葉が発されなくなった。そしてそれが枷になったかのように、頭に自分が考えた欲しい物を思い出していく。
「っ……//////」
誕生日に浮かれていたのか、動画を撮って疲れたのか、数時間前の自分を殴りたい。思い出すのはくだらなくてはしたないものばかり
今更になって、恥ずかしくなってきた。
「っ、っ……///////」
「おーい?なつー?」
いきなり顔を赤くして顔を俯いた恋人に、流石にいるまも心配そうに見つめてくる。
なんで、冷静に居られなかったんだ
やっぱり全部なしでって訳にもいかないし
正直に言っちゃうと引かれる可能性もある
どうにもならないこの状況に、数分でまた考え直そうと、また頭を悩ませてしまった。
「……なつはどうしたいん?」
すると、隣から優しくて聞き心地の良い低音が聞こえてくる。
思わず俯いた顔を上げてしまった。すれば俺の俯いてた頭まで一緒に下げて、顔を覗き込んでるいるまの姿。
俺が悩んで、行き詰まった時によく聞く、彼の声色と優しい笑顔
「欲しいもの、なんでもいいんよ?」
「………」
「フィギュアとか、サプライズして欲しいとかも良いけど、そんなんじゃなくてもさ、」
「お前に足りないものとか、なかったら不安なものは本当にねぇの?」
小さく笑って細めた柔らかい黄色に光る三白眼を思わず見つめてしまう。フィギュアとか、彼との愛行為なんか微塵子に見えてきてしまった。
本当に、欲しいもの。
多分、 ずっと言ってる小さな自殺願望
それでも、今メンバーと馬鹿やって
目の前にいる大好きないるまと愛し合う
それだけで、十分なのかもしれない。
「…俺をずっと、愛して欲しい」
「…うん」
「…俺を、信じてもいいって思わせて欲しい」
いるまの目を見て、口にしてみる。すると嬉しそうにはにかんで頷いてくれる。俺の口からは壊れた蛇口のように止める事ができない言葉が流れていく。
限界な時は、寄り添って欲しい
面倒臭いところも、受け入れて欲しい
俺の熱量に、着いてきて欲しい
俺の動作にかわいいって言って欲しい
でも、かっこいいとこも分かってて欲しい
連絡はできるだけ、未読無視しないで欲しい
たくさんオススメのご飯食べに行きたい
「俺の事、絶対に幸せにしろッ…」
恥ずかしい。顔が熱い。でも、嬉しい。
絶対に消えることがないお願い事。
すると、いるまに抱きしめられた。勢いのあるハグに、俺も驚いて肩がビクリと震える。
その癖に、俺に触れる手は暖かくて優しくて、俺もゆっくりと背中に腕を回しては香水をつけてない柔軟剤の柔らかい匂いを楽しむ。 心が少しずつ高揚し、心臓が握りつぶされてるみたいに苦しくなる。
「ずるっ、離したくなくなんじゃんッ…笑」
「…ふふふ、でしょ?笑」
そう言うと抱きしめる腕がキツくなる。
きっと、いるまなら最後まで叶えてくれる。 どうせ、お前は俺が何年経っても可愛いって思ってくれて、これからも俺に甘いままなんだろうから。
「お願い、聞いてくれるん?」
「…どうかな?笑」
抱きしめた身体を離される。 ていうかお前から聞いてたのと全然違う答えに納得がいかない。
不機嫌な表情が分かるように右頬に空気を含ませて膨らませた。でも、いるまは吹き出すように笑っては、愛おしそうな笑顔で俺の 膨らんだ頬に人差し指を刺した。
「やっぱ、10個全部は無理だわ笑」
「…おい」
「だって、ずうっといっしょにいんじゃん」
活動だって、私生活だって、過去もこれからだって、1回も離れたことなんてなかった。
親友として関わった時間も、こうやって愛し合ってる日常も、恋人が終わってしまっても、俺は絶対にコイツと一緒にいる。
「…今から用意しろ。明日、高級寿司な?」
「ったく、はいはい笑、何食いたい?」
「んー………ちゅーとろ…」
「……なっつw」
今までプレゼントを貰っているけれど、来年からはこれでもいいのかもしれない笑
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最高すぎてしねる