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男の人に抱きしめられたことなど初めてで、なんだか気恥ずかしく、早口になっている自覚があった。
麗は今度こそ財布を出し、自分のお金でおみくじを引いた。
「いいね、俺もやろう」
明彦もおみくじを引いたので、恋人がいるなら無意味ではないかと思ったが、優しいから麗に付き合ってくれたのだと思い直す。
麗は少しだけ緊張しながら、ピリッと糊を外し、おみくじを開いた。
「あ!吉です! 『恋愛、近親者から素晴らしい人を紹介されたり職場で思わぬ恋人を見つけ出したり、とにかく恋の花開く嬉しい時期である。』って、ほんまかいなー。姉さんがそんなんしてくれるわけないわ。それに、学校でもほとんど男子とは話したことないのに」
麗は思わず、おみくじにツッコミを入れた。
麗が唯一近親者だと思っている姉は麗が恋人を作るなど、まだまだ早いと言っているので、紹介はしてくれないだろう。
「じゃあ、まずはクラスメイトの男の子と話してみないとね。麗ちゃんは麗音の幸せばかり考えているけど、自分の幸せも探さないと」
明彦の言葉に麗は困惑した。
「幸せですよ? 私。姉さんの幸せが私の幸せです」
それは麗にとって当然の事だった。姉が幸せだと、麗の心も幸福になるし、姉が傷つけられると、麗の心も傷つく。
「麗音にとっても、麗ちゃんの幸せが麗音の幸せなんじゃないかな。麗ちゃんは少しだけでもいいから自分の幸せを考えて、周りを見てみるといいと思うよ」
明彦の言葉は優しいはずなのに、麗はどこか厳しく感じてしまった。
「……はい」
「ごめん、踏み込んだ事言っちゃったね」
麗は困った顔をしている明彦を見て、頭を下げた。
「アドバイスありがとうございます。私が姉一辺倒なのは事実ですから。でも、そうですよね、姉にとっても愛が重いでしょうし。ちょっと頑張ってみます」
「いい子だね。じゃあ、今度は俺の番」
明彦がおみくじを開いた。
「凶だね」
「……凶、ですね」
麗はまじまじとおみくじを見てしまった。凶って本当にあったんだ。この目で見たのは初めてである。
「愛情におぼれすぎる傾向がある。このままではダメ。理性を生かして進むこと、だって。うーん、そんなことないと思うんだけどね」
「む、結んで帰りましょう!」
麗は苦笑する明彦より危機感を持って、会ったことのない恋人との未来のために、そこまでする?と言う明彦におみくじ結ぶべきだと強固に主張したのだった。