―あなたは輪廻を信じますか?
―あなたは輪廻したいですか?
―あなたは、犬です。
1.犬になった。
朝、初めて嗅ぐ匂いで、まず理解した。私は犬になった。無論、私は前から犬だったわけではない。昨日まで人間だった。昨日はまだシーツの匂いだった。まてよ、私は犬小屋の中にいる。昨日まで私はベットの上だったが今は犬小屋の中だ。
(…どういうことだろうか?)
そもそも私はただ犬になったのではないのかもしれない。犬と入れ替わった…あまり想像したくないがそういう可能性もある。
とりあえず私は犬だ。
2.飼い主
犬小屋の中ということは飼い主がいるだろう。幸いなことに犬小屋は室内で、自由に出入りできるのでそれなりの生活はできるだろう。それに、環境も悪くない。この部屋は暖かくて本当に丁度良い温度だ。
突然「ととと…」と音が聞こえた。恐らく誰かの足音だろう。
私はなぜかとても鳴き声が漏れそうになるのを人間的な意識で抑え込んだ。私は犬じゃない。人間だ。
素早くドアが開いた。私はドアから少し離れた。
相手の顔が見える。更に心拍数が高まる。ああ見えてしまう。
飼い主の顔が見えた。年齢は13歳前後で女子の飼い主だった。…あれ?
3.二度目の人生
自分の過去が少しずつに蘇える。僕は男で、中学生だった。
そして、僕の死因も。僕は、なぜかは分からないが、自分で人生を終わらせたようだ。
つまり僕は「犬になった。」のではなく犬に輪廻したといった方がいいだろうか。そもそもこの犬の身体は前から存在していたのか…?
そんなことを考えていたら突然彼女が飛びついてきた。
「輪音(りね)!今日も大変だったよ!!!学校でね…」
抱きしめながら犬の僕に向かって話し始めた。
僕は人間なので一応彼女の話が分かるが、心底どうでもよかったので何んとなく聴いていた。
そういえば僕は鳴けるのだろうか、さっき鳴き声が漏れそうになったのを抑えたが何故かまた鳴きたくなってきた。
どうしてだろう?まあ彼女の前で鳴いても何も問題はないだろう。
僕は「ワン」と鳴いた。
4.輪音
彼女は大きく目を見開いた。そして
「ママッママ!初めて鳴いたよ輪音が!」
もう一つの足音が聞こえた。
ふむ、どうやら僕は最近この家に来たのだろうか。
彼女の姿が見えた。そしてまた彼女も目を大きく見開いた。
「まあ!良かったわね!凛奈(りな)!」
なぜだかわからないが、僕は彼女の名の漢字がわかった。
犬になったことで身に着けた特殊能力だろうか。
それはさておき、凛奈は僕のことを輪音と呼んだ。
前世の僕は犬を飼っていたことが無いような気がするので、どのような名前が性別に割り当てられているのかわからない。
しかし、恐らく凛音はメスの名前だろう。
おや、そうすると僕は…メスなのか?
あれがある部分を少し見た。なかった。
不思議な気分になった。僕は性転換したのだ。
大丈夫だ。落ち着け、犬のことだから大したことではない。
5.犬生
凛奈と母親が立ち去った後僕は犬小屋に閉じこもって何が起きているのかもう一度考え直した。
どうして僕は犬になってしまったのだろう?
僕は、まえから犬と接点がなかったはずだ。
自殺という罪はきっと重いはずだ…。
どんな理由があろうとも分け与えられた命を自ら捨てることはきっといけないんだ。
それでも僕は自殺した。
だが、そう考えると「犬」という生物に輪廻したのは何だか、制裁が軽い気がする。
そもそも輪廻させる側はいないのだろうか?もしかしたら全てランダムかもしれない。
結局、僕はどうして犬に輪廻したか全くわからない。
僕にできることは、ただ犬の人生を生き抜くだけだ。
おっと、犬になったので犬の人生じゃなくて「犬生(けんせい)」か!
そう思うと笑えてきた。思わず…
「ワン!」
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