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欲 。
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#禪院直哉
欲 。
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#禪院甚爾
欲 。
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「あっはは! なんやそれ、弱すぎやろ! 禪院家の面汚しもええとこやわ」
昼下がりの道場に、直哉の軽薄で傲慢な笑い声が響き渡る。術式の修練で同輩を徹底的に打ちのめし、見下すような視線を浴びせる。それが「禪院直哉」という男の日常であり、エリートとしての正しい振る舞い方だった。周囲を威圧し、誰も自分に逆らえない強固な「硝子の城」を築き上げる。そうしてプライドを肥大化させていなければ、歪んだこの家の中で自分が壊れてしまうと、若き日の直哉は本能で知っていた。しかし、その頑丈な城が、一瞬でただの脆いガラス細工に変えられてしまう場所があった。
「おい、ガキ。そんなに大声で吠えてっと、喉が枯れるぞ」
稽古場の隅の影から、のっそりと現れた甚爾。呪力を持たない「落ちこぼれ」のはずなのに、その存在感だけで道場の空気が一変する。直哉の心臓が、ドクンと嫌な音を立てた。たった今まで周囲を嘲笑っていた傲慢な仮面が、甚爾の冷ややかな三白眼に見つめられた瞬間、ピキピキと音を立ててひび割れていく。
「……甚爾くん。見てたん?」
「あぁ? いや、うるさかったからな。お前、相変わらずくだらねぇことでイキってんのな」
甚爾はフッと鼻で笑い、近くの柱にもたれかかった。直哉の拳が、着物の袖の中で小刻みに震えだす。本当は、甚爾にだけは「強くなったな」と認めてほしかった。けれど、この男の前に行くと、自分がどれだけ虚勢を張っても、中身が空っぽの子供であることを見透かされているような恐怖に駆られる。
「くだらなくないわ……! 俺は、禪院家の次期当主や。強うて当たり前なんや……っ」言い返す直哉の声が、かすかに震えていた。周囲には決して見せない、弱さと、傷つきやすい内面。今にも涙が溢れそうなその瞳を、甚爾はじっと見つめていた。甚爾は、直哉が傲慢さという鎧を着ていなければ生きられない、傷だらけの生き物であることを完全に看破していた。
(あぁ、こいつ、今にも泣きそうなツラしてやがる――)
甚爾は一瞬、煙草を取り出そうとした手を止め、直哉の頭に手を伸ばそうとした。その脆い硝子の城を、優しく壊してやることもできたのかもしれない。けれど、甚爾はすぐにフッと目を逸らし、ポケットに手を突っ込んだ。
「……勝手にしろよ。お前がどんなツラして生きてようが、俺には関係ねぇしな」
甚爾はあえて気づかない振りをし、冷たく突き放した。ここで自分が直哉の脆さに触れてしまえば、直哉が命がけで保っている「エリートとしてのプライド」を完全に殺してしまうことになる。それは甚爾なりの、極めて冷酷で、しかし不器用な配慮だった。
「……そうやな。あんたには関係ないわ」
直哉は消え入りそうな声で呟き、歪んだ笑みを再び顔に張り付けた。甚爾の手が届くほどの距離にいるのに、二人の間には決して超えられない、透明な硝子の壁が立ちはだかっている。傷つきやすい素顔を見抜かれながらも、交わされるのはいつも冷たい言葉だけ。直哉は壊れそうな硝子の城の中に一人で閉じこもったまま、去りゆく甚爾の背中を、ただ痛みを堪えるように見つめ続けるしかなかった。
コメント
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わあ……第1話からもう胸がぎゅっとなりました。直哉の傲慢な仮面の裏にある、認めてほしくてたまらない脆さ。甚爾は気づいてるのに、あえて冷たく突き放す――あの距離感の描き方が本当に繊細で。硝子の城という比喩が、二人の間に立ちはだかる透明な壁を象徴してて、読んでて切なくなりました。次が気になります!