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ciel
34
KOKUGA
513
#初投稿
ほーぉる英智
91
華
266
古い商店街の、細く錆びついた建物を上った2階。そこに「あおば珠算教室」があった。文字の塗装が所々雨風に曝されたせいか、ボロボロと剥げている。
そこから差し込む太陽の光は、青くなる。いつしかこのそろばん塾は、商店街の人々から
「あんざんぶるー」──そう呼ばれるようになっていた。
教室の主は、青葉みどり35歳。数年前までは、大きな会社の経理部に勤めていたが、日々の激務がたたり、倒れてしまいそのまま退職した。
「数字だけは、裏切らない」
みどりは、それだけを信じた。体調が回復して、計算の楽しさを知ってもらおうとそろばん塾を開き、もう3年になっていた。入れ替わりは何度もあったが、小学生からおばあさんまで、幅広い年代の生徒を17人受け持っている。
今日も、授業を始めると同時に、教室は珠を弾く音でいっぱいだった。
青いジャケットを羽織り、みどりは唱えた。
「そろばんを始める時は、願いましてと言うわよね。珠を弾くように、心もまっすぐ揃えるの。計算だけじゃなく、気持ちをキッチリ整える練習をしていきま─」
みどりが言い終わらないうちに、教室のドアが勢いよく開いた。
新しく入会した少年が、肩で呼吸をしながら席に座った。彼は佐藤空(さとうくう)小学3年生。
「空くん、元気いっぱいね。…あれっ?そのそろばん」
そろばんは、黒い枠に茶色の木目調の珠が主流なのだが、空のものは青いそろばん、シールやペンで青くアレンジされていた。
変わった色、と言ったら非難されてしまう為、言葉の続きを敢えて言わなかった。
「勝手にそろばん、青くしちゃったけどいいですか?おれ、ブルーが大好きなんです!これで計算すると、風の音がするんだよ!」
教室はどっと笑った。空の目はキラキラと輝いていて、純粋そのものだった。
コメント
1件
**寺島あおいです🤍** 読ませていただきました。商店街の錆びついた2階にある「あおば珠算教室」、そろばんを弾く音が聞こえてくるような描写が素敵でしたね。特に空くんのセリフ「これで計算すると、風の音がするんだよ!」に心がじんわり温かくなりました。みどり先生が「気持ちをキッチリ整える」と言うあたり、単なる計算教室じゃない予感がして。続きが気になります!