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海の紅月くらげさん
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ついに潤と放課後デートの日。
そわそわしてしまって授業に全然集中できなかった。
待ち合わせまであと少し。潤が教室まで迎えにきてくれるらしい。というか、デートって何するのかな?
「も~、ましろってば気合いいれなよ〜!」
奈々子がブラシで私の髪をとかしてくれる。
「そういえば、伊代はー?」
「もう部活行ったよ」
伊代はテニス部のエース。奈々子は女の子らしくて憧れるけれど、伊代は運動神経抜群でかっこよくて憧れる。
「はい、じゃあ口閉じて!」
奈々子が私に色つきのリップを塗ってくれる。甘酸っぱいフルーツのような、いい香り。リップを塗っただけで自分が少し女の子らしくなれた気がする。
続いて、薄紅色のチークを軽く頬に落とされる。
普段メイクはほとんどしないから、ふわふわする不思議な気分。
「うん、可愛い!」
満足げに奈々子が微笑む。なんだかちょっとくすぐったい。
「あ、王子様のお出まし~」
奈々子の視線の先には栗色の髪の男の子。
「ましろん、行ける?」
「う、うん!」
慌てて立ち上がり鞄を掴むと、奈々子に小声で「ありがとう」と言って潤の元へと駆け寄った。
「行こっか」
潤は柔らかい笑みを浮かべ、私の隣を歩く。
いつもと違うのは今日がデートのせい?緊張をするのは、奈々子にしてもらったメイクが原因?
心臓の鼓動が速まる。今日は一体どんな放課後になるんだろう。
***
学校外で潤と二人っきりなんて初めてで緊張する。こういうときってどんな話をして、どんな場所に行くべきなんだろう。
「ましろん、クレープ食べよっか」
「う、うん!」
近くにあったクレープ屋さんに向かって歩いていると、人とぶつかりそうになって庇うように肩を抱かれた。
「ごめん、急に」
「……ううん、ありがとう」
ぎこちなくて変に思われちゃうかな。だけど今日はいつもとはちょっと違う放課後だから落ち着かない。
出来立てほやほやのクレープを持って、お店の隣にあるベンチに腰をかける。
「はい」
クレープ代を渡そうとすると、潤は首を横に振った。
「俺が誘ったデートだから」
にっこりと余裕な潤の微笑み。
「え、でも!」
「今日のために可愛くお洒落してくれたお礼だと思って、ね?」
「あの……っありがとう」
素直に伝えると潤は嬉しそうに目を細めて微笑んでくれた。
ボリュームが結構あると思っていたクレープは、あっという間に食べ終わってしまった。潤の買ってきてくれた冷たい紅茶を飲んで一息つく。
「美味しかった〜!つれてきてくれてありがとう」
「俺もここの食べてみたいなって思ってたんだ」
空が橙色に色づき、街の雰囲気も夕方になるにつれて少しずつ変化していく。
先程までは子どもや主婦の人達が多かったけれど、制服をきた人や大学生くらいの若い人達が増えているように思えた。
「実里が……暗闇がダメな理由なんだけどさ」
「少しだけ実里くんから聞いたよ。昔……その」
言い淀んでしまう。あまり軽く口に出してはいけない事柄な気がする。
「泉の父親にされたこと?」
「……うん。どうしてそうなったかは聞いていないけれど」
「実里があんな目に遭ったのは……俺のせいでもあるんだ」
潤は力なく微笑み、悔いるように目を伏せた。
「小学生の頃、実里と泉を二人公園に置いていったんだ。そこで、泉が怪我をして責められたのは…………一緒にいた実里だけだった」
「どういう、こと……?」
潤は紅茶のペットボトルをギュッと強く握りしめている。その手は少し震えているように見えた。
「泉は俺たちと遊ぶことを父親から許されていなくて、内緒で抜けだしてきたんだ。実里を除く4人が喉が渇いて家に戻っている時、実里と泉はブランコで遊んでいて怪我をしてしまったんだ」
「まさか、それが原因で?」
「そう。別に実里が悪いわけではなかった。けれど、泉の父親の怒りの矛先は全て実里に向けられた」
言葉が出なかった。子どもが遊んで怪我をするなんてよくあることだし、実里くんが怪我をさせたわけでもないなら……どうしてそこまでするのかわからない。
「……あそこまで実里にしたのは、今考えると俺たちに対する見せしめだったんだ。たまたま実里だっただけで、俺や他の人がああなっていた可能性だってあったんだ」
未だに傷が残るほど、痛めつける必要なんてあったの?
実里くんだけじゃない。その日のことをみんな引きずっている。どう考えてもおかしいのは泉くんの父親。
「俺……子どもの頃ずっと実里が邪魔だって思ってた。実里は要領が良くて何でもこなせて両親も実里ばっかりでさ」
生温い風が吹く。潤の栗色の髪が緩やかに靡き、緩いパーマがかかっているように見える。その横顔は実里くんに少し似ていた。
「あの日も、わざと置いていった。くっついてくる実里が邪魔だったから」
寂しげに伏せられた長い睫毛。実里くんと同じ悲しげな表情。まるで幼い頃のまま時間が止まっているみたいに痛々しい。