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大人なんて大嫌いだった。
困ったことがあったら大人に相談しようなんて言うけれど大人に相談しようなんて全く思わない。
そんな嫌いな大人に近づいていく自分が嫌だった。
自分も綺麗事ばかり言う人間になってしまうのか。
そう思うと嫌で嫌で。
そんなどうにもならないことを願ってしまう自分も嫌いだった。
そんなときに私は出会った。
周りが恋だの愛だの言って騒いでいるとき、私は思った。
私には関係ない。あんなのは自分を大切にできる人にしかできない。
これはそんな私が人に愛される喜びを知る話。
「あ~、眠い」
そんなことを言いながら私はのろのろと立ち上がった。
「ほら練習再開するよ 」
そう言われて私は卓球台の前に立ってピンポン玉をラケットでとばした。
この部活に入ってもう1年ほど経った。
顧問が優しい顧問になったのでちゃんと休みの欄ができるようになった。
前の顧問と変わって一番嬉しいポイントだ。
「じゃあ、ちょっと休憩しようか」
一緒にラリーをしていた友達がそう言ってくれたので私も休憩に入る。
「あ、ちょっとあっち行ってきていい?」
「···10分ぐらいしたら戻ってきてね」
「おけ!」
私は、そう言ってあの人のいる方に向かった。
「先生ー、遊びに来ました 」
「おう」
私は毎日先生のもとに行ってお話をする。
理由は単純。暇だからだ。
暇な時のこの人との会話はとても心地がいい。
クラスでいつも「変人」と言われている私とこんなにいっぱい話してくれる人はあまりいない。
ときどき話す人は部活内にもいるけど特別仲がいい人はいないし、親友なんてものも、一回もいたこともない。
そんな私を構ってくれる先生はいい人だと思う。
男子卓球部から見たら「なんだコイツ」って感じだと思う。
そりゃそうだ。
こんなに男子卓球部の顧問と話している女子卓球部がいたらそう思うのは当然だと思う。
先生とは、女子顧問が変わってからたくさん話すようになった。
前の顧問は喋ってる暇があったら練習しろ!みたいな考えの人だったのであまり先生とはしゃべる暇がなかった。
今はそれがなくなって部活が少し楽しくなった。
「ていうか、俺と話してるくらいなら素振りくらいしてたら?」と前は言われていたが数カ月ずっと先生のところに来ていたら何も言われなくなった。
もう何言っても無駄だとわかったのだろう。
「そういえば前に少しいいことがあったんです!」
「ほう」
そんな会話を交わしながらふと1年前を思い出す。
当時は、こんな人とは思わなかった。
私の先生の最初の印象は話しかけにくい人だった。
キリッとした瞳に、スッと通った鼻筋。きゅっと閉じている唇。
厳しい感じを先生から感じた。
いつもの私だったら絶対話しかけなかっただろう。
だが、そのときの私は先生に話しかけた。
理由は自分でもよくわからない。だけど話しかけてみたくなったのだ。
話しかけてみて、先生は少し不思議そうな顔をしてこちら側に振り向いた。
いつも横顔ばかり見ていたから気づかなかったが顔の左目の下にほくろがあった。その近くの鼻の上あたりにもう一つ。
綺麗な顔立ちだな、と思った。
だけどあまり顔をジロジロ見られるのは嫌かもしれない、と思ったので私は少し目線を逸らした。
そして私は先生と会って最初の話をしたのだ。
話の内容は確か「一番辛くない死に方、辛い死に方は?」みたいな内容だった気がする。
いや、改めて考えるとやばい質問してんな。
初見でこんな内容の話をふっかけられたら普通やばいヤツ認定される。
だが、先生は真面目に話を聞いてくれた。
そして、話し終わって先生が一言。
「望月さんって面白い人だね」
笑いながらそう言った。
先生の笑顔を見たのはそれが初めてだった。
この人はこんなふうに笑うんだ。
ていうか、この人ってこんなに笑ってくれたんだ。
少し先生のイメージが変わった、そんな日だった。
そして現在に至る。
1年生のときはあまり話さなかったけど、女子卓球部の顧問が変わって人と話しても怒られなくなったので今では休憩のとき、毎回先生の席に話に行っている。
ただの世間話から小さい相談まで聞いてくれるので話のネタは尽きない。
ついつい話しすぎて友達に練習に連れ戻される。
「ほらお迎えが来たぞ」
横を見ると、友達が「練習再開するよ」と言って立っている。
「じゃあ、先生また後で」
そう言って私は練習に戻った。