この作品はいかがでしたか?
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「あのー、あんぱん誰かいります?」
─その言葉で、部室の雰囲気がガラリと変わった。戸の目の前で唖然と立ち尽くしているクロが可哀想なくらいに、彼に視線が集まる。
……かっこよく言ったが、実際は部員がみんな空腹状態であったために、空腹しのぎになりそうなあんぱんに目をつけたのだ。
俺も、持っていたチョコレートバー2本のうち1本を奪われそうになった(結構怖い)ので、気持ちがよくわかる。
「欲しい」
「ちょうだい」
「くれ」
「俺のですし〜」
「いや、僕のだし?」
「え、うわあっ…」
「おいこら。クロが可哀想やろ?」
まず、この空腹状態の怪物たちを何とかするのは、決まって伊織先輩。それに続いて、文月先輩とたま〜にヰロハが続くのだ。
「ここはひとつ、ゲームで決めたらどうかな」
「じゃんけんとか…奪い合いはうるさいからやめて。埃舞うし」
「そうだね。トーナメント戦でもしよっか。誰か審判できる人いる?」
「俺、やる…ここのホワイトボードに適当に振り分けするから」
3年生ってすごい。あの怪物たちを一瞬で黙らせられた。ことごとくこれを分からせられたところで、鳴がいらない提案をする。
「ねえ、こんだけじゃ面白くならないから罰ゲーム設けていいですか〜?」
「いらない提案すんなよ」
「ほう?……ええなあ。何にしたいん?」
「共感するのかよ伊織」
「アヲ、じゃんけん弱いもんなあ?」
「はあ!?…別に、僕は弱くねえし……?伊織が強すぎるだけだろ?!」
「そう言われてみればそうやなあ…ま、さておき鳴、罰ゲームどうするん?」
「魔法少女になりきりましょ〜」
「え」
……最悪。魔法少女とか恥ずかしすぎる。
「じゃあ、始めるね」
「いぇーい」
みんな棒読みの「いぇーい」なのでさほど盛り上がらなかったが、初戦は俺と鳴。兄弟戦は何回もやったことがあるので、こいつの出すものくらい分かっている。
「「さーいしょーはグー、じゃーんけーん」」
「ぽん」
「ぽいっ」
やっぱり、チョキだ。鳴は最初にチョキを出すくせがある。次は……ああ、あれ。
「「あーいこーで」」
「しょ」
「…あ、負けちゃった…初戦から幸先わるー」
「あんた、出すもの決まりすぎ」
「仕方ないでしょ?手が勝手に動いちゃうの」
勝った。とりあえず、魔法少女なりきりは回避。
次は…アヲと伊織先輩だ。
「「最初はグー、じゃんけんぽいっ!」」
「負けたぁあっ!!」
「ま、思った通りの結果やな」
「どんまい、アヲ」
「ヰロハ…僕が弱いの知っててこの振り分けだろ???」
「うん」
……これ、アヲなんじゃないのか?魔法少女。
それはさておき、次は…文月先輩とメイだ。そういえば、メイってじゃんけん強かったっけな。
「「最初はグー、じゃんけんぽん」」
「やった、あんぱんに1歩近づいた!」
「負けちゃった…頑張ってねメイクン」
「えへへ…頑張ってくる!」
このペア、もはや父娘だ。ほんわかする…
「…さて、準決勝かな?」
「うん…藤鳴、蓬莱、華崎の3人」
「もうこのままじゃんけんでええんちゃう?」
「がんばろー」
「勝てる気しないんだけど」
─結局、あんぱんを手にするのは伊織先輩だった。
言わずもがな、アヲ部で最強の運を持つ先輩の実力である。
ちなみに敗者戦というと─鳴が負けてしまった。
自業自得。地獄の罰ゲームである。
「んまい」
「…チョコレート持っててよかった」
「先輩ひとくちちょうだい」
「嫌」
「先輩なのに?」
「いいなあ…」
「まだ終わってないけど」
鳴がびくりと肩を震わせる。負けて自分が罰ゲームをやるのが嫌なのだろうか。
「俺、なんか提案したっけ…??」
「負けたら、魔法少女だったな」
「…そんなこと言ったかn」
「「「言った」」」
「…やります」
「ゔうぅ…」
「ツインテ似合うね、鳴宮」
「言い出しっぺの法則だな」
「草」
「顔真っ赤やん…こういうのは自分が当たってもいいようにするんやで?」
「はい…」
「さ、やってもらおっか」
すっ…とメイが差し出したのは台本だ。某深夜アニメのオマージュ。
鳴は吹っ切れてしまったのか、ポーズを決めてセリフを読み上げる。
「…いけないハート、撃ちぬけロックオン☆」
そこから、鳴は3秒ほど固まった。次第に顔が赤くなって、最後のセリフを声を震わせて読み上げる。
「………魔法少女、なるみー…っ☆」
「おー」
「なかなかやな」
「こんなの聞いてないぃい…っ……」
「自分でやってやんの〜」
「ちょっとかわいいかも…鳴宮クン、よく頑張ったねー」
「はずかしい…魔法でかき消したい……」
「魔法少女にでもなれば?俺は嫌」
その後、敗者達が自分の持っていた残りのチョコレートバーを賭けた喧嘩をしてヰロハにめっちゃ怒られてたのは言うまでもないオチかもしれない。
でも、やっぱり楽しいかも。
雑用部って、楽ちん。
コメント
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魔法少女w
この登校、投稿しなさすぎて初期と現在の成長がよくわかる