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#溺愛
桜咲かな
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桜咲かな
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#百合
第四十話 伝えたかったこと
「ちゃんと伝える」
写真の裏に残っていた言葉を、
彼は何度も読み返した。
短い一文。
それなのに、妙に引っかかる。
何を伝えるつもりだったのか。
誰に伝えるつもりだったのか。
そこまで考えたところで、また記憶が揺れた。
夕方の道。
隣を歩く誰か。
手には、あの小さな紙。
そして――
「今度はちゃんと言うから」
聞こえた声。
彼は思わず顔を上げた。
今のは、かなりはっきりしていた。
でも、その続きを思い出すことはできない。
翌日の夜。
サイトを開くと、彼女からメッセージが届いた。
『今日、ずっと考えてた』
『何を?』
『昨日の「次に会ったら」ってやつ』
『俺も』
『何を伝えるつもりだったんだろうね』
彼は少し迷ってから、今日浮かんだ記憶を話した。
『「今度はちゃんと言う」って声を思い出した』
『何を?』
『分からない』
『告白とか?』
冗談っぽく送ったつもりだった。
けれど、送信したあと、
彼女は少しだけ気まずくなった。
『ごめん、適当に言った』
『いや』
彼からの返事は意外と落ち着いていた。
『俺も、そんな感じがした』
彼女の手が止まる。
『本当に?』
『うん』
『じゃあ、大事なことだったのかもね』
『たぶん』
二人とも、それ以上は踏み込まなかった。
まだ何も確かめられていない。
昔の自分が誰といたのかも。
何を伝えようとしていたのかも。
それでも、少しずつ記憶の断片が増えている。
『ねえ』
彼女が送る。
『うん』
『もし、昔の自分が今の自分に何か伝えるとしたら、何だと思う?』
彼はしばらく考えた。
『分からない』
『私も』
『でも』
『うん?』
『後悔してることなら、何かありそう』
その言葉に、彼女は返事を止めた。
「後悔」。
なぜか、その言葉だけが胸に残った。
『じゃあ、会ったときに聞こう』
『誰に?』
『昔の自分に』
『そんなの聞けないよ(笑)』
『写真に聞く』
『写真に?』
『うん』
『無理でしょ(笑)』
二人で笑った。
少し重たくなっていた空気が、
いつものように戻っていく。
そのあと、会う日の話をした。
持っていく写真。
見せ合う順番。
最初に何を話すか。
まだ決まっていないことも多い。
それでも、少しずつ準備は整っていた。
最後に彼女が、
『当日、ちゃんと来てね』
と送った。
彼は画面を見て、すぐに返す。
『行くよ』
『絶対?』
『絶対』
『じゃあ安心した』
その言葉を最後に、彼女はサイトを閉じた。
机の上には、持っていく写真が並べてある。
彼もまた、自分の部屋で写真と紙をまとめていた。
そして、二人ともまだ知らなかった。
二人が「過去に何があったのか」を
確かめようとしているその日が、
少しずつ近づいていることを。
コメント
1件
みぅです🤍🥀 第40話、読ませてもらいました。 「今度はちゃんと言うから」——この声の記憶がふと蘇る瞬間、すごく切なかったです。昔の自分が何を伝えたかったのか、まだ分からないままでも、少しずつ断片が増えていく感じが丁寧で…「後悔」って言葉が二人の胸に残るシーン、なぜかすごく響きました。 会う約束を交わす最後のやり取り、安心感と少しの寂しさが混ざってて、じんわり来ました。次が気になります🌙