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#溺愛
桜咲かな
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桜咲かな
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#百合
第四十一話 空白の時間
その日の放課後。
彼は家に帰ると、机の上に写真を並べた。
古い写真。
最近撮った写真。
そして、あの小さな紙。
一つずつ確認していく。
これまで見つけたものを並べると、
不思議なくらい同じ場所につながっていた。
それでも、肝心の部分だけが抜け落ちている。
「あの日、何があったんだ……」
写真の日付を見る。
同じ日。
同じ場所。
なのに、自分の記憶にはそこだけ大きな空白がある。
その夜。
サイトを開くと、彼女からメッセージが届いた。
『今日、ちょっと思い出した』
『何を?』
『あの写真の日』
彼は画面を見つめる。
『どんなこと?』
『夕方だった』
『うん』
『誰かと歩いてた』
『俺も似た記憶ある』
『その人、何か持ってた』
『紙?』
『たぶん』
二人の記憶が、少しずつ重なっていく。
けれど、次の瞬間。
彼女から、
『でも、そこから先がない』
と届いた。
『俺も』
『変だよね』
『うん』
彼は写真を見ながら考えた。
記憶がなくなったというより、
そこだけ切り取られているような感覚。
思い出そうとすると、頭の中に霧がかかる。
『ねえ』
彼女が送る。
『うん』
『もし、本当に私たちが昔会ってたら』
『うん』
『どうして今まで気づかなかったんだろう』
その質問に、彼はすぐ答えられなかった。
確かにそうだ。
同じ場所。
同じ日。
似た記憶。
それなら、もっと早く気づいてもおかしくない。
『分からない』
『私も』
しばらく沈黙が続いた。
やがて彼が、
『でも、今は確かめたい』
と送った。
『うん』
『会ったら、写真を全部見せ合おう』
『約束ね』
『約束』
彼女はそこで話を終えるつもりだった。
けれど、ふと気になって、
『その日って、何月だった?』
と聞いた。
彼が写真の日付を確認する。
そして、送る。
彼女も自分の写真の日付を確認する。
同じだった。
二人とも、そこで気づいた。
その日は、今の季節とは違う時期だった。
つまり、最近の出来事ではない。
かなり前のこと。
それなのに、
なぜか二人の記憶はそこだけ鮮明になりかけている。
『やっぱり、何かあるね』
彼女が送る。
『うん』
『会ったら分かるかな』
『分かるような気がする』
その言葉を最後に、
二人はいつものように会話を終えた。
彼女はアルバムを閉じる。
彼は写真をしまう。
それぞれの手元に残る、同じ日の記録。
そして二人がまだ知らないのは――
その「空白の時間」が、
二人の記憶だけに
あるものではないということだった。
コメント
1件
うわ、この「空白の時間」の感覚、すごく不気味で引き込まれました。同じ日付の写真、似た記憶なのに「そこだけ切り取られた」感じ——二人がそれぞれの場所で同じ違和感を抱えているのが、もうじわじわ来ます。特に「その日は今の季節とは違う時期」って気づくところで、思わず「あっ」て声が出ました。まだ見えてこない核心が、逆に想像力をかき立てますね。最後の一文も含めて、伏線の張り方が本当に巧いです。次が待ち遠しいです!