テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
激しい衝突で地面に転がった二人。泥だらけになったパンを前に、マヒルの怒声が響く。「おい!ふざけんなよ!せっかく手に入れたメシが台無しじゃねえか!」
マヒルは立ち上がり、膝の泥を払いながらアレックの胸ぐらを掴みあげた。
「おい、聞いてんのか!? 謝るか、パン代出すかどっちかにしやがれ、この——」
怒鳴り散らしていたマヒルの言葉が、ふと止まった。
掴み上げたアレックの顔。その瞳には、光が一切宿っていなかった。
「……殺してくれよ」
アレックが力なく呟きました。
「はぁ!? 何言ってんだお前」
「……魔王に、シェリーを殺されたんだ。俺も、今すぐあいつのところに行きたい。……君が代わりに、僕を殺してくれよ……」
アレックの頬を、涙が静かに伝い落ちる。
そのあまりに深い絶望に、マヒルは毒気を抜かれたように手を離した。
「……チッ、胸クソ悪い。死ぬ気満々の奴を殺しても、飯の種にもなりゃしねえよ」
マヒルは地面に落ちた、比較的マシなパンを一つ拾い上げると、アレックの口に無理やり押し込んだ。
「もごっ……!?」
「食え。死ぬのはこれを食ってからにしろ。……お前、さっき『魔王』っつったか? あのヴァルザードのことか?」
アレックがコクりと頷くと、マヒルは不敵に笑い、背中の槍を強く握り直した。
「奇遇だな。俺もこのクソみたいな家を飛び出して、一旗揚げてやろうと思ってたところだ。世界を支配してる魔王をブチのめせば、俺の名前も歴史に刻まれるだろ?」
「……え?」
「お前、死にたいくらい絶望してんなら、その命、俺に預けろ。俺が魔王の城まで連れてってやるよ。そこでシェリーだか何だか知らねえが、生き返らせる方法を探せばいいじゃねえか」
アレックは、口の中のパンを懸命に飲み込み、自分より少しだけ背の高いマヒルを見上げた。
「……生き返らせる、方法……」
「そうだ。ボケっとしてんじゃねえぞ、アレック! 行くぞ、最初の目的地だ!」
こうして、短気で強引な少年マヒルに引きずられるようにして、アレックの「再生」を求める旅が始まったのでした。
#シェイプシフター
柊遊馬
5,143
#死ネタ
るななっち
100
146
#バトル
そらいろ
45
コメント
1件
うわあ…アレックの「♡♡♡てくれよ」が想像以上に重くて、胸がぎゅっとなったよ。光のない瞳の描写、一瞬で視界が濁る感じがすごく伝わってきた。そんな中でマヒルが「パンを食え」って無理やり押し込むシーン、乱暴だけど確かにそこに生の手触りがあるんだよな。死にたい奴を♡♡♡ても飯の種にならない、って割り切った台詞が逆にリアルで、この二人の相性、なかなかいいんじゃないかな。再生の旅を追いかけたくなった。