また来る憂鬱な日。
元々、私は火曜日が苦手だ。
大嫌いな塾に今日も通う。
苦手な数学にいつもぶつかる。
こんな日々が嫌いだった。
周りは、好きなアイドルとか俳優とかで盛り上がる。
私は、ロックバンドとか2次元とか。
こんなに好きなものに差があるのが嫌い。
ずっと自分は無能だと思ってた。
けれど…最近、家に帰るとある人が迎えてくれる。
「おかえり、__」
優しい顔立ちの2次元に居てもおかしくない程のイケメン。
庭に寂しく立っていたので、拾ってしまった。
『うん、ただいまミヤジさん』
帰るといつもおいしいご飯を用意してくれている。
ミヤジさんが来るまでは、インスタント食品ばかりでおいしい味すら分からなくなった。
「どうかな?」
洗い物を片付けながらそう聞く。
『おい…しい、よ…ミヤジさん』
でも、ストレスなのかあまり食が進まない。
そんな私の様子を心配したのか
「大丈夫かい?口に合わなかったかな? 」
洗い物をしていた手を止め、私の傍に寄る。
『ちがうの、ミヤジさん』
泣きそうになるのを堪えながら、わけを話す。
「そうか…今日もよく頑張ったね」
よしよし。と撫でてくれる。その手が大きくて安心する。
そして、優しい言葉を言ってくれて。
いい子だね。えらいえらい。よく乗り越えたね。
大人の包容力に包まれて、涙が零れる。
『う”っ…ごえんなしゃ…』
大丈夫、大丈夫だよ。
そう言って、一定のテンポで撫でる。
「大丈夫…私が沢山…癒してあげるからね」
それからずっと撫でてくれた。
あれから、火曜日の憂鬱な日に、ミヤジさんは何か癒せるものを用意している。
例えば今日は…。
「おかえり、__」
笑顔で迎えてくれる。
今日は、数学の中でも苦手な問題集をやったので、とても疲れていた。
『ミヤジさん…えっと…』
そう言うと、察してくれたのか
「ふふ、抱っこだろう?ほら、おいで」
両手を広げてくれる。
少し、恥ずかしいけれど…これが好き。
ミヤジさんの胸に飛び込む。
『あったかい…それにいい匂いがする…』
一段と今日は、ポカポカとしていた。
「__のために先にお風呂に入っていたんだ」
おじさんが先に入ってしまってごめんねと、苦笑いをする。
別にミヤジさんが先に入っていても良かった。
だって、あったかいの…好きだから。
「今日は、私がブレンドした入浴剤だよ」
ミヤジさんの趣味は、キャンドル作り。
だから、ハーブに詳しい。
リラックス出来るハーブを沢山ブレンドしたミヤジさんの入浴剤は、本当に好きだった。
『…今日は…ミヤジさんと一緒に…お風呂入りたい』
何故か口からそう零れていた。
ミヤジさんは、ちょっとだけ驚いた顔をしたけれど、すぐに微笑んで
「ダメだよ__は女の子なんだから」
そう言って、お風呂に促してくれた。
……洗濯物も畳んでるから、下着だって見てるはずなのに…。
そう思いながら、入浴剤が溶けた白いお湯に浸かった。
「はい、42」
上がらない偏差値。
どうして、こんなにも数学が苦手なのだろう。
落ち込みながら帰った。
「おかえり__」
ほら、おいで。と言って両手を広げる。
今日も胸に飛び込む。
ふと、ミヤジさんの顔を見ると、少し、照れているものだからこちらも照れてしまう。
「今日は、マッサージをしようか」
ベッドに誘われる。
「ふふ、__の好きな抱っこから行こうか」
いつの間にミヤジさんの中で私が、抱っこ好きになったのだろうか。
そう思いながら、吸い込まれるようにミヤジさんに抱きつく。
いっぱい撫でられて癒されたところで、ベッドに横になるよう勧められる。
横になると、私の衣服を脱がせて、タオルを置く。
「オイルを塗るね。熱かったら言うんだよ」
とろり、とあったかいものが触れる感覚がした。
そして、ミヤジさんの大きな手が触れる。
マッサージをする手つきが慣れていて、とても心地いい。
『きもちいい…』
思わずそう言うと、後ろから優しく
「そうか。…もう少し強くするよ」
そう言って、グッと強く押す。
とてもリラックス出来た。
「まだマシだな」
今日は、そう言われた。
けれど、あまりいい気分では無い。
疲れる日々。
抜けられることも無いまま、ぐるぐるとループする。
「おかえり__」
玄関先のアロマキャンドルの匂いを嗅ぎながら、ミヤジさんの匂いも楽しむ。
「ふふ、今日は__にプレゼントがあるよ」
そう言って、チラつかせたのは
好きなロックバンドのライブのチケット。
『!そ、それ…なんで…』
驚いて声も出ない。
「__が喜んでくれると思ってね」
どれだけ私を喜ばせたいんだろう。
恩返しにも程がある。
ただ…そこに佇んでるのが寂しそうだったのと…
少しだけ、恋という香りに酔っただけなのに。
そして、日が過ぎ、ライブの日になった。
「楽しみだね__」
飲み物を飲む、横顔が綺麗。
そう思いながら、ライブが始まる。
始まった瞬間、広がる熱狂。
好きな声で聴く好きな歌。
いつの間にか、私もその空気に馴染んでいたようだ。
「楽しかったかい?」
そう問いかける。
『うん、ありがとミヤジさん』
思わず抱きつきたかったが、それは家に帰ってから、と思い我慢した。
そう思った時。
「…ごめんね__」
そう聞こえたと思えば、私とミヤジさんの唇が触れていた。
『ぇ…ミヤジ…さん?』
突然の事すぎて困惑する。
「ふふ、びっくりしたかな」
そういつものように優しく微笑む。
「こんなおじさんで良ければなんだけど…付き合ってくれるかな?」
そう言って、手を差し伸べる。
……あーあ。
私。ずっとこの人に酔ってた。
キール…かな?
まだお酒は飲んだことないけれど…例えるならこれだ。
『…いいですよミヤジさんと、一緒なら私…安心できます』
ミヤジさんの大きな体に抱きつく。
いつものように撫でてくれる。
「…ありがとう__これから沢山…愛してあげるからね」
耳元で、そう囁かれた。
…私も…”貴方に出会えてよかった”です。ミヤジさん。
大好き。
コメント
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庭に寂しく立ってたから拾ったのパワーワードすぎるwww ミヤジに惚れたわ