テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
翌朝。
私はいつものようにメモ帳を持って、先輩の席へ向かった。
今日の作業の流れを聞くためだ。
「おはようございます。今日の私の作業なんですけど──」
先輩は資料を見ていた手を止め、
少し後ろに重心をかける立ち方でこちらを向いた。
その癖は、いつもと同じ。
「ああ、おはよう。えっとね……」
言いかけて、眉がふっと動く。
先輩が何か思い出すときの癖。
そして、ほんの一瞬──
先輩の視線が私の顔で止まった。
その一瞬の“見つめる間”が、いつもより長かった。
「……最近さ、夢が変なんだよ」
先輩自身が驚いたように、
考えるときの癖で目を上に向けた。
「あ、いや……ごめん。今の、別に言うつもりじゃなかった」
先輩は少し照れたように眉を動かした。
「夢……ですか?」
私は自然にそう返していた。
聞こうとしたわけじゃない。
ただ、先輩の声が“迷ったまま出た”のが分かったから。
「うん。なんか……森の中でさ」
先輩は、言葉を探すように目線を少し上げた。
「自分がきのこになって、女の子を案内してる夢」
胸が跳ねる。
でも、先輩は続けた。
「その女の子がさ……」
眉がまた小さく動く。
言いにくそうに、でも隠せない感じで。
「……一瞬だけ、君に似て見えたんだよ」
私は息をのんだ。
先輩は慌てて手を振った。
「あ、いや、ほんと“一瞬だけ”だよ。気のせいだと思うし。
なんか……寝ぼけてたのかもしれない」
そう言いながら、
また少し後ろに重心をかける癖が出る。
落ち着こうとしているときの姿勢。
「で、今日の作業だけど──」
先輩は仕事の話に戻った。
でも、さっきの言葉は消えなかった。
(……似て見えた?)
胸の奥が、静かに熱くなる。
夢の中で案内してくれたきのこちゃん。
現実の先輩の癖。
そして、先輩が見た“女の子”。
全部が、ひとつの線でつながり始めていた。