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第7話:縁側のそうめんとコテツの視線
若井side
昼食の時間になり、祖母が「暑いから」と、冷たいそうめんを振る舞ってくれた。
畑で収穫したばかりの新鮮なきゅうりやトマトそして鮮やかな錦糸卵が添えられていて、見た目も涼しげだ。
俺と涼架は、広縁に座ってそうめんをすすった。外からの風が通り抜け、体についた畑仕事の疲れを優しく拭い去ってくれる。
「うわー、ばあちゃん、最高!そうめん大好き!」
涼架は山盛りのそうめんを箸で持ち上げ、つゆにくぐらせて勢いよく吸い込んだ。
その食べっぷりは、まるでCMのように爽快だ。
「りょうちゃんは、昔からそうめん好きだもんね。若井くんもどうぞ。たくさんお食べ」
祖母は奥で微笑んでいた。
「いただきます。すごく美味しそうです」
俺もそうめんを口に運んだ。ツルツルとした喉越しが気持ちいい。畑のきゅうりのシャキシャキとした食感と香りが、たまらなく新鮮だ。
その時、どしん、と俺たちの隣に重みが加わった。
コテツだ。犬のコテツが、いつの間にか涼架の真横に座り込んでいる。コテツは大きな瞳で涼架の手元を見つめ、たまにクゥン、と鳴いて餌をねだるような仕草をした。
「だめだよ、コテツ。これは僕たちのご飯だから。後でちゃんと君のあげるからね」
涼架はそう言いながらも、箸を持つ手がコテツの顔の近づく度に、コテツは期待をこめてピョンと飛びかかる。
「こら、コテツ!」
涼架が軽く怒っても、コテツは全く懲りない。涼架の身体に前足を乗せらさらに熱心にそうめんをねだる。
「なんだこいつ、涼架にだけ甘えるな」俺は思わず言った。
「コテツはね、僕のことが大好きで仕方ないんだよね。ね、コテツ?」
涼架はそう言って、犬の頭を撫でてやった。
しかし、コテツは撫でられるよりも、涼架が口に運ぼうとしているそうめんの方が気になるようで、俺が目を離した隙に、涼架の服にそうめんのつゆが飛び散ってしまった。
「あーあ、ほら見ろ。だらしないぞ、涼架。コテツに甘えてる場合じゃないだろ」
「うわっ、つゆついちゃった…でも コテツもつゆが欲しいのかな?」
涼架は服についたつゆを見ても、特に気にせず、むしろコテツの食欲に感心している様子だ。
俺は呆れて、ティッシュを取ろうと立ち上がりかけた。その時、祖母が奥から声をかけてきた。
「りょうちゃん、コテツをそんなに甘やかしちゃだめだよ。ほら、ちゃんと向こうへ行かせて」
「はーい!」
涼架はそう返事しながら、まだコテツを抱き寄せている。まったく世話が焼ける。
俺はコテツに軽く低い声で「あっち行け」と声をかけようとしたがら涼架は、その前にコテツの鼻先にそうめんの「きゅうり」だけを少しだけ近づけた。
「はい、これはいいよ。野菜だからね」
コテツはきゅうりを嬉しそうに食べて、涼架に顔を擦り付けた。
「涼架、お前、結局甘やかしてるじゃないか」
「だって、せっかく僕の隣にいるんだもん。僕の隣が、コテツにとって一番いい場所なんだよ」
涼架は嬉しそうにコテツの背中をポンポンと叩く。 その瞬間、俺はなんだか無性に嫉妬した。犬に対して、だ。
涼架にとって、自分は招待客であり、写真の被写体である。しかし、コテツはそうではない。コテツは、この家で、涼架の無防備な生活の一部を共有している。そして、涼架をそれを当たり前のように受け入れている。
俺がカメラを向けて切り取ろうとしている、この「無防備でだらしない、りょうちゃんの生活」に、コテツは当たり前のようにどっしり座り込んでいる。
俺は無意識のうちに、箸を持つ手を止めていた。
「どうしたの、若井?そうめん、美味しくない?」
涼架が俺の顔を覗き込む。
「いや、美味い。ちょっと考え事してた」
「考え事?課題のこと?」
「…そうだよ。お前のせいで、被写体が多すぎる」
俺はそう誤魔化した。
涼架は「えへへ、それは良かった!」と能天気に笑う。
俺はもう一度そうめんを口に運んだ。つめたいそうめんと、涼架の隣のコテツの体温。
そして、この空間全てが、俺の五感に強く焼き付いていく。
俺のファインダーは、涼架と彼の無防備な日常から、もう目を離せそうになかった。
次回予告
[乱入、ライバルの登場?]
コメント
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ライバル?!続きが楽しみ!