テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
第8話:乱入、ライバルの登場?
若井side
そうめんを平らげ、麦茶で一息ついていた時だった。
静かだった玄関の引き戸が、バターン!と景気のいい音を立てて開いた。
「りょうちゃーーーん!帰ってきてるんだろ!?」
静寂を切り裂くような、よく通る、それでいてどこか華やかさのある声。
俺が驚いて縁側に身を乗り出すより先に、ドカドカと廊下を駆けてくる足音が聞こえた。
「うわっ、この声は……!」
涼架が顔を輝かせた瞬間、居間の襖が勢いよく開く。
「やっぱりいた!おばあちゃんから聞いたぜ、昨日から来てるって!」
現れたのは、派手な色合いのTシャツをさらりと着こなした、目力の強い同年代の男だった。
整った顔立ちをしているが、放つエネルギーが凄まじい。
「元貴!久しぶり!」
「久しぶりじゃねえよ!帰ってくるなら先に連絡しろよな」
元貴と呼ばれたその男は、涼架の隣に当然のような顔をして座り込むと、涼架の肩を親しげに組んだ。
涼架は嫌がる風でもなく、「ごめんごめん、急に決まったからさ」とヘラヘラ笑っている。
「…誰だ、こいつ」
俺が呆然としていると、元貴はそこでようやく俺の存在に気づいたようだった。
涼架に向けられたひまわりのような笑顔が、俺の顔を見た瞬間に、すんっと消えた。
温度差で風邪を引きそうなほど、あからさまにつめたい視線。
「……誰、これ。涼ちゃんの親戚?」
元貴が、低く突き放すような声で涼架に尋ねる。
「あ、紹介するね!こっちは若井滉斗。僕と同じ学校の友達で、写真部なんだ。僕がばあちゃん家に誘ったの」
涼架が能天気に紹介すると、元貴は俺を値踏みするように上から下までジロリと眺めた。
「ふーん。友達ね…。涼ちゃんがわざわざ誘ったんだ」
「そうだよ。若井、すごく写真が上手なんだから!」
「……へぇ」
元貴は俺に向かって、これっぽっちも歓迎していない表情で言い放った。
「俺は大森元貴。こいつとは生まれた時からの付き合い。まあ、あんたみたいな『昨日今日知り合った友達』には分からない、深い関係があるわけよ」
「……若井だ。よろしく」
俺は努めて冷静に返したが、内心では穏やかじゃなかった。なんだ、この露骨な敵対心は。
「若井、元貴はね、僕の幼馴染なんだよ。昔からずっと一緒で」
涼架がフォローするように言うが、元貴は涼架の腕をぐいっと自分の方へ引き寄せた。
「そうそう。涼ちゃんの初恋から、隠したい失敗談まで全部知ってるのは俺だけ。な、涼ちゃん?」
「ちょっと元貴、恥ずかしいこと言わないでよ!」
涼架が顔を赤くして笑う。その親密な空気感に、俺の胸の奥がチクりと焼けるような感覚に陥った。
「で?写真部なんだって?だったら俺たちの仲睦まじい姿でも撮って、さっさと都会に帰ればいいじゃん。涼ちゃんの夏休みは俺がエスコートするからさ」
元貴は勝ち誇ったような笑みを浮かべ、俺のカメラバッグを顎でしゃくった。
「…あいにく、俺は撮りたいとのしか撮らない主義だ。あと、涼架に誘われたのは俺の方だからな。エスコートは俺がやる」
俺は自分でも驚くほどに、はっきり言い返していた。
「あはは!二人とも、仲良くなるの早いね!」
涼架だけが、この火花散る空気感に全く気付かず、のんびりと残ったそうめんのつゆを飲み干している。
コテツが元貴の足元に擦り寄り、元貴も慣れた手つきでその耳を撫でた。
この場所の「日常」に、俺だけが入り込めていないような、疎外感。
そして、涼架を「涼ちゃん」と独占するように呼ぶ、この元貴という存在。
俺の夏休み、なんだか予想外の波乱が起きそうな予感がした。
「若井、どうしたの?怖い顔して」
「……別に、なんでもない」
俺はカメラキャップを強く握りしめた。この大森元貴とかいう男に、涼架の「最高の瞬間」を邪魔させるわけにはいかない。
俺のファインダーが捉えるのは、俺だけの涼架だ。
次回予告
[冷たい川と熱い火花]
コメント
2件
続きが超楽しみ!