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俺はファミレスを出て歩き始めた。
すぐ後ろに奏ちゃんが追ってきているのも分かっている。
しかし、なぜか一定の距離を保って歩くだけで奏ちゃんは話しかけてこない。
駅前の喧騒を過ぎると後ろから奏ちゃんが
「ねぇ、響!」
と呼んできた。
何なんだよ。
俺も何を言っていいかわからなかった。
奏ちゃんを無視して歩き続けた。
でもこのまま気まずいのも嫌だ。
すると、奏ちゃんが俺の左手をつかんできた。
「待って、響」
振り返ると、奏ちゃんの汗かいて必死な顔。
ああ、ずるいよ、奏ちゃん。
奏ちゃんのその顔見ただけでさ、心の中は好きだけで一杯になって外野のことなんてどうでも良くなる。
「奏ちゃん…」
「響、怒ってるよね」
「…」
「でもさ…」
「なに?」
「響が俺のこと世界一だって言ってくれたこと嬉しかった」
あっ、あーー!!
さっき俺が盛大にやらかしたやつ!
すっかり忘れてた…。
今さら恥ずかしくなって顔が赤くなる。
「やべぇ…。奏ちゃん。あの女に腹が立ってとっさに口に出してしまった」
「何がヤバいの?嬉しかった」
「いや、あの女に俺たちのこと変に勘繰られたりしたら奏ちゃん気まずくない?」
「別に困らないよ」
「何故ですか?」
「俺たちが付き合ってるのは本当だし。聞かれたら本当のこと答えるよ」
「マジで?マジで言ってんの!?」
あの元彼のトラウマでうじうじしていた奏ちゃんが…。どんな心境の変化だ。
俺ですらさすがに奏ちゃんとの関係が皆に理解してもらえるとは思っていない。
怖いんだ。
「むしろバレたほうが良いと思ったよ。あさ美ちゃんといる響見てたら」
あー。俺もやらかしてたわ。。
「ごめん、奏ちゃんに黙って会って」
「マジで俺ショックだったわ。だったら、響と付き合ってること公にしたいと思った。誰にも響を取られたくない」
「奏ちゃん、あさ美は友達だって…」
「いや、ちょっと待って。あさ美ちゃん、響のこと好きでしたって言ってたけど、響に会うってことはまだ未練があるんだよね。そうゆう気持ちでいる女の子と響が二人で会うのってどうかなぁ…」
うん、確かに。
俺は一方的にあさ美を友達と思っているけれど、奏ちゃんは納得いかないだろうな。
「逆にさ、俺に告白してきた女子と二人で会ったら響はどう思うの?俺が友達だよ、と言ったとしても」
「ぜっっったいに嫌だ!!会 わ せ な い!!」
俺の即答に、奏ちゃんが笑う。
こんな痴話喧嘩してるのに何故か俺たちは手を繋いだままだった。
「響、勝手すぎない?」
「ホントだ、俺最低。奏ちゃん、ごめんね」
奏ちゃんが女と二人で会ってたら…。
えっ、ちょっと待て。さっきの天然女が頭に浮かぶ。
「そっ、奏ちゃんだって何!あの女と二人でファミレスなんか来てさぁ!俺の許可も取らずに」
「俺、何度も電話したしメールしたよ?」
「嘘つ…あっ」
「どうしたの?」
「スマホ家に置きっぱなしだったわ」
「ほらぁ」
「でもね、あの女はないよ!見え見えじゃん、奏ちゃん狙ってるの」
「彼氏いるって言ってたじゃん」
「そんなの信じてるの!?そのうち彼氏とうまくいってないとか言って、奏ちゃんに相談してくるんだよ。それでほだされて奏ちゃんはあの女と付き合っちゃ…」
あかん。想像しただけで涙が出てきた。
「響の想像力たくましすぎだよ」
奏ちゃんがいつもの公園に近付くと、俺の手を引っ張る。
奏ちゃんが鉄棒に寄りかかると、俺の顔を両手で包んだ。
「泣いてんの?響…」
「奏ちゃん、もう俺以外の女と二人で会わないって約束して」
「うん…。でもなぁ、今日のはホントに勉強教えてって頼まれただけで…。あの子、学校でも俺によく聞いてくるから」
「ほらっ!ほら!それ俺初めて聞いたー!その時から狙われてんじゃん、奏ちゃん!」
「そんなこと言ったらさー、あさ美ちゃんと二人で黙って会われてた俺の気持ちはどうなんの?」
「奏ちゃん…やめようか。この話」
「自分のターンになったら大人しくなるね」
「いや、もったいない時間が」
「それは確かに」
二人で微笑むと、俺は奏ちゃん正面からに寄りかかった。
奏ちゃんは俺の腰に手を回して抱き締める。
「響、俺ねもっと恋愛なんてスマートにやれると思ってた」
「それは俺も…もっと冷静にやれてた気がする」
「響が他の誰かと一緒にいるだけで、頭に血が上って不安でどうしようもなくなる。」
「奏ちゃん、それは俺も一緒だよ。奏ちゃんのことで頭がいっぱい」
それを人は愛と呼ぶのかな?
エゴと呼ぶのかな。
このまま抱き合って奏ちゃんと体もひとつに溶け合って、ずっと一緒にいられたら俺たちのこの不安も消えるのかな。
日が落ちてきた。
「響、仲直りのキスしてもいい?」
奏ちゃんの顔が西日に照らされる。
俺は目をつむった。奏ちゃん、大好き。
俺はキスをしながら思った。
喧嘩した日も、仲直りした日も奏ちゃんと一緒に見たこの夕日は忘れないんだと。