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夏休みになれば毎日のように奏ちゃんと会えると思っていたのに、実際は奏ちゃんは塾やらで忙しく、なかなか会えない日が続いた。
ちぇ。
だけど今日は久しぶりに合唱部の練習があるので学校で奏ちゃんに会える。
「奏ちゃん!」
「響、おはよう」
朝は通学路の途中で奏ちゃんと待ち合わせしていた。
「奏ちゃん、会いたかった」
「え、この間会ったばかりじゃん。」
「違う!二日も空いたの!奏ちゃんの体感時間どうなってんの」
「それは響に聞きたいよ…」
「まぁいいや。奏ちゃん、今日も塾あるの?」
「今日はないよ。部活終わったらどっか行く?」
「行く!」
嬉しい。二日ぶりのデート。
この日まで長かったぜ。
「おっはよー!」
背後から嫌な気配。
このあざとい猫なで声。
間違いなくファミレスで奏ちゃんを狙っていた相沢桃香。あの天然女だ。
桃香は俺の隣にいた奏ちゃんの腕をいきなり組んだ。
「藤村くん、響くん、おはよう!」
「ちょっとちょっと!」
俺は奏ちゃんと桃香の間に割って入り、腕を引き剥がした。
「相沢先輩、やめて下さい。奏ちゃんが嫌がってるじゃないですか。マジで不合意わいせつですよ」
「なんで?こんな可愛い女から腕組まれて嫌な男はいないでしょ?ねっ藤村くん」
「えっ、嫌だよ」
「ちょっ…奏ちゃん、ストレート過ぎ…」
俺は腹を抱えて笑った。
「何なの、二人ともバカにしてぇ。これでも私結構モテるんだけどぉ」
「ほぅ。蓼食う虫も好き好きってやつですか」
「響くんも毒舌だなぁ」
「てか、何で相沢先輩は学校に行くんですか?」
「家にいると勉強する気起きないからさぁ。学校で自習室開放してくれてるから」
ふぅん、一応勉強に関しては真面目ではあるんだな。
「藤村くんにも教えてもらえるし♡」
「先輩、代わりに俺が教えてあげますよ。奏ちゃんは忙しいんで」
「響くん、2年生の教えられるの?てか、響くんて藤村くんの何なの?」
「それは…」
言いたい。言いたいけど言えない。
しかも早朝から言うことでもない気がする。
「響は俺の…」
「奏ちゃん!」
マジでカミングアウトする気じゃないでしょうね?
「大事な大事な人だから、あんまりいじめないでね?」
大事な人…。
奏ちゃん、ああ、この場で抱き締めたい。
「いや、いじめられてるの私のほうな気がするんだけど…」
確かに。
「ごめんね、相沢さん。僕も響も言い過ぎた」
「ううん、ぜんっぜん気にしてないから大丈夫!」
少しは気にしろよ、この女は。。
「ねぇ、響くんもこの間、藤村くんのこと世界一とか言ってたけどマジで二人はどんな関係なわけ?」
「俺と奏ちゃんは…相思相愛なんじゃない?知らんけど」
「俺も響のこと好き」
奏ちゃん。そんなハッキリと!
マジでカミングアウトしちゃうの!?
もう俺は良いけどね。
この女が良からぬことを企む前に釘を差しておきたい。
「なにそれ、BL的な?かっわいい!イケメン同士って最高じゃん」
この女、どこまで真剣に捉えているんだろう?
冗談だと思っているのかな。
校門に着くと
「じゃあまた詳しく二人の話聞かせてねー」
と相沢先輩は走って行った。
「奏ちゃん、あいつどこまで本気で信じてるんだろ…」
「いやぁ、俺達の冗談だと思ってるんじゃない?」
やっぱりそうか。
まぁそれならそれで良いけど。
「でも奏ちゃん、気をつけてね。あの女の毒牙にかからないように」
「大丈夫だよ」と奏ちゃんが俺の頭をポンと撫でた。
合唱部の練習が終わると、俺は先に学校を出た。
奏ちゃんは教室に忘れ物を取りに行くと言う。
あんまり一緒に居るところ見られても、合唱部の連中にからかわれるし。
奏ちゃんとの関係がバレてもかまわないと思う一方で俺は少し怯えていたのかも知れない。
カミングアウトすることで皆の目が変わることを。
それによって奏ちゃんとの関係が崩れてしまうことを。
俺は意外と弱かったな。
こと奏ちゃんを失うことに関しては。
自分を偽ってでも奏ちゃんと一緒に生きることだけは誰にも邪魔されたくなかった。
「おーい、可愛い1年生!」
突如後ろから声をかけられた。
この声はまた…。あの天然女。
「よく会いますね、相沢先輩」
「いま自習終わったとこだよ。なーに藤村くん一緒じゃないじゃん」
「いつも一緒ってわけじゃ…」
「本当に付き合ってるの、あなた達」
急に天然女が真剣に聞いてきたような気がした。
俺は答えない。
なんて言ったらいいんだ。
意気地なし。
「響くん、人の気持ちなんて移ろいやすいよね。特に高校生の恋愛なんて」
「どういう意味?」
俺は相沢先輩を睨んだ。
「どんなに好き合っててもね、どちらかの気持ちが他の人に移れば終わり。そこに合意なんてないの」
朝の嫌味の仕返しかよ。
「まぁ、二人は大丈夫か。あさ美ちゃんを振ってまで同性の藤村くんを選んだんでしょ。あたしに取られないようにね〜」
そういうと、相沢先輩は足早に帰って行った。
嫌なところばかりついてくる。
自分の今の卑怯な弱さを、気持ちを見透かされたようで俺の心は沈んでいった。