「食堂でだって、無視したくせに・・・」
すると、彼女は思いもしない言葉を口にする。
「ん?」
食堂って・・昼にすれ違った時のことだよな?
「あなただって会社で私と関係知られたくないから無視したんでしょ?」
「・・・え?」
いやいや、ちょっと待って、なんのことを言ってるんだ。
無視?オレが?
いつのことを言ってるのかわからなくて、オレはあの時のことを思い返す。
「いいよ。ムリしなくて。コソコソしながら続ける意味もわかんないし。ってかそもそもそんな関係他に説明出来るはずないよね。私だって意味わかんないもん」
なのにオレが状況を飲み込めないまま彼女はどんどん話を進めていく。
「ちょっと待って。なんの話?」
「食堂で。今日すれ違ったよね?絶対気付いてたよね?」
「あぁ、うん」
「あの時、あからさまに無視したよね? やっぱり周り誰かいると相手にしたくないってわけ? 挨拶もしないとか・・・」
は? マジか・・・。
あれ無視したことになってんのかよオレ・・・。
「いや! あれは・・! 無視とかじゃなくて・・!」
うわっ、オレ完全に言い訳じゃん。
「それなのに人のいないとこでだけあんな駆け引きするのずるい。そんなん楽しめるほど、もう私若くないから」
ズバリと気にしてたとこを突かれた。
そう、オレはあーやって誰もいない場所で駆け引きして彼女をその気にさせることしか出来なくて。
卑怯な手しか使えなくて情けない男なのだと、彼女は当然見抜いてオレに言い放つ。
だけど、あの時声かけなかったのはそんな理由じゃない。
そうじゃなくて。
オレが勇気がなくて声かけられなかっただけ。
あなたの反応が怖くて声かけられなかっただけ。
情けねぇ・・・。
オレそんな風に思わせてたんだ・・。
「なんかそういうの職場で振り回されるの、もう嫌なんだよね」
彼女が何気なく言った言葉がやけに引っ掛かる。
もう・・って何?
やっぱりまだ引きずってるの・・・?
「・・・もう? もうってどういう意味・・・?」
「いや・・。別に、深い意味・・ないけど・・・」
オレがそう問い掛けても、彼女は何もなかったように誤魔化す。
嘘、下手だな・・・。
またオレが入り込めないところを出してくる。
もうそんなあなたを見たくないのに。
「とにかく! もうやめよ」
だけど、さっきの彼女の言葉をふと思い返す。
食堂でオレが無視したと思い込んで、そんな風に言って来るなんて、オレを気にしてるってこと・・・?
「ねぇ。それってオレのことその瞬間でも気になってたってことだよね?」
「いや、そういうことじゃなくて」
「オレ無視したことずっと気になってたの?」
それってオレ意識してくれてるってことだよね?
「ちが・・!」
「じゃあ、やめる理由ないよね? 興味ないヤツにはそんなこと言わない」
彼女が否定しようとしても、やっぱりそんなのもう効かなくて。
そうとわかれば逆にオレの食堂でのあの反応も結果オーライってこと?
どんな状況でもオレを意識してくれんならなんでもいい。
「ほら。何も言えないってことはそういうこと」
「違うから・・・」
否定弱いな~。
全然否定になってないじゃん。
「・・・じゃあ。皆に言っていい? 会社で望月さんとの関係」
それ納得してくれるならオレは一番それがいいんだけど。
「は!!?? いいワケないでしょ!」
まっ、そうなるか。
「関係も何もまだあなたとは何も始まってない」
「ならこれから始めればいい」
そこを強調するなら、今から始めればいいだけ。
「な!何言ってんの意味わかんない」
「オレは二人の関係公表しても全然構わないけど?」
そうすればあなたは誰にも狙われないし、オレも自信持ってあなたとの関係を続けられる。
「だから。どういう関係だって言うのよ。こんな意味わかんない関係・・・」
あなたがオレを好きになってくれればどんな関係にでもなれる。
全部あなた次第。
「・・・じゃあ。皆にオレのモノだって言ったら、オレのモノになってくれるの?」
それなら今すぐにでもオレのモノにするけど?
あなたをこの見つめる目が嘘だと思う?
オレの気持ちが伝わらない?
こんなにも愛しくあなたを見つめてるのに。
「ふっ。すごいね。こんな時までドキドキさせてくるんだ」
すると彼女はそんなオレの言葉を軽く大人の余裕で見せてあしらう。
だけどその言葉で彼女をドキドキさせられていることはわかる。
「アブな。ちょっと本気で受け取りそうになっちゃった」
そして確実に彼女は嫌がってはいなくて、少しでもオレを意識しているということ。
ドキドキ出来るってことは少なからず脈があるってことだよね?
そういう対象に思えてるってことだよね?
「いいよ。本気で受け取ってくれて」
オレはいつでも本気だから。
あなたへの視線もあなたへの言葉もどれも本当だから。
オレはあなたを本気にさせたい。
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