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その夜。
リリアンナは自室とランディリックの寝室とを繋ぐ内扉へ何度も視線を向けていた。
明日にしよう、と自分に言い聞かせたつもりなのに、無意識にランディリックの訪いを期待してしまっている。
入浴を済ませても、夜着へ着替えても、眠る支度を終えて寝台へ腰掛けても……。耳は自然と隣室の気配を探してしまう。
(忙しいのよ……)
頭ではそう理解していても、(もう少しだけ起きていよう)と思ってしまう自分に、自嘲せずにはいられない。
昼間見た慌ただしさからしても、何か特別な事情があるのだろう。
けれど――。
(夜には話せるって言ったくせに……)
無意識にそう考えて、唇を尖らせてしまう自分がいた。
以前ならこんなことはなかった。
ランディリックがヴァルム要塞へ詰めている夏の間は、一ヶ月以上顔を合わせないことだって、ざら。現に去年まではそうだった。
それなのに、今は一日会えないだけで寂しいと思ってしまう。
(城内にいるのを知ってるんだもの。仕方ないよね?)
そんな自分に気付いて、もっともらしい言い訳をしてみても、心は一向に落ち着かなかった。
リリアンナは小さく溜め息を吐く。
そうして寝台へ腰掛け、気持ちを静めようと本を開いた。
いつもは楽しく読めるはずの冒険ものなのに、目が文字の上を滑るばかりで全く頭に入ってこない。
リリアンナは吐息を落としてランプの明かりを細めると、ベッドへゴロンと横になる。
右へ左へゴロゴロと転がっているうちに、いつのまにか眠ってしまっていたらしい。
コンコン――。
内扉が軽く叩かれる音に、小さく身じろいでまぶたを上げる。
「リリー、もう寝てしまったのかな?」
次いで投げかけられた声音に、リリアンナの意識が急速に浮上する。トクトクと心臓が跳ねた。
「……ランディ?」
寝台へ半身を起こすと同時、
「もしや起こしてしまったか……?」
静かに開いた内扉から現れたランディリックの姿に、胸の奥がじんわりと温かくなる。
「入っても?」
「……どうぞ」
返事をした途端、内扉の敷居――境界線――を超えて、ランディリックがリリアンナの方へ近付いてきた。
部屋の灯りを小さくしていて彼がそばへ来るまで良く見えなかったけれど、ランディリックは、昼間と変わらぬ正装姿だった。
どうやら執務を終えるなりすぐ、リリアンナの元へ来てくれたらしい。
「夜に話そうと言ったのに……遅くなってしまった。すまない」
言って、ランディリックの大きな手がリリアンナの頬へ優しく触れる。
コメント
2件
リリアンナ、すっかりランディリックに絆されちゃってるね。
「ここにいたい⑦」読了!リリアンナの心中描写がめちゃくちゃ刺さったわ…一日会えないだけで寂しいとか、前は平気だったのに気付いたらランディリックを待ってる自分がいるの、恋に落ちるってこういうことだよなって実感した。ランディリックが内扉叩くトコでこっちまでドキドキしたわ。お互いの執務室の忙しさも相まって、二人の逢瀬が貴重な宝物みたいに感じられる。続きが気になる!🔥
和泉
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