テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「思った以上に立て込んでしまった」
彼の指先からは、インクの香りが微かに漂ってきた。
「……大丈夫。ランディが忙しいのは私、理解してるもの」
本当は寂しかった。
けれど疲れているだろうランディリックへそんなことは言えなくて、リリアンナはふるふると首を横に振る。
ランディリックはリリアンナをじっと見つめると、何を言うでもなく、その身体を抱き寄せた。
「ひゃっ……」
大きな腕の中へ閉じ込められる。
背中へ回された腕が、じんわりと熱い。
すぐ目の前の胸元からは、慣れ親しんだ彼の香りがした。
「同じ城内に居るというのに会えないというのは……思いのほか堪えるものだね。……リリー、会いたかった」
吐息交じり。耳元へ落ちてきた声に、リリアンナの胸が苦しくなる。
その言葉は、自分が抱いていた寂しさを見透かしたみたいだった。
「私も……」
だからだろうか。気が付けば、素直にそう吐露してしまっていた。
リリアンナがつぶやいた途端、ランディリックが僅かに息を呑んだのが分かった。
そして次の瞬間、腰に回された腕へ、より一層力が込められる。
「リリー」
低く呼ばれる。
その声音だけで、身体の奥が熱くなった。
(こんなふうに抱き合っている場合じゃないのに……)
ウールウォード伯爵家のこと、自分の将来のこと。聞かなければならないことはたくさんある。
「ランディ、私……」
リリアンナは自分を鼓舞すると、ランディリックを見上げて口を開いた。
けれど――。
「ん?」
優しく見つめられ、頬を撫でられ、額へ口づけが落ちてきた瞬間、何も言えなくなった。
リリアンナがドギマギと躊躇っているうちに、ランディリックの唇は瞼へと移り、次は頬へ。そして唇の端へと移動してくる。
慈しむような甘やかなバードキスに、続けようとしていた言葉がしゅん……と喉の奥へ消えてしまった。
「リリー、愛してる」
ランディリックの囁き声が、ぞくりとした快感を伴って耳朶を震わせる。
「今日も、キミを抱かせて?」
まるで懇願するような声だった。
疲れているはずなのに、自分へ触れるその手だけは限りなく優しくて、心底彼から愛されているのだと実感させられてしまう。
そんなランディリックを前に、リリアンナが抵抗出来るはずがなかった。
気が付けば、彼からの問い掛けは返事も待たないままに、曖昧に流されてしまっていて……。
その夜もまた、リリアンナはランディリックの腕の中で艶やかに啼かされ、抗い難い安堵と疲労に身を委ねながら眠りについた。
それで結局――聞きたかったことは、何一つ聞けないままだった。
コメント
2件
あらら。 聴ける日が来るかな?
「私も……」って素直に寂しさを認められた瞬間とか、キスで言いたいこと全部流されちゃうリリアンナにもどかしさを感じつつ、ランディリックの「会いたかった」が本当に胸に刺さったわ。愛されてる実感があるからこそ抗えない感じ、すごくリアルで切なかった……。次こそちゃんと話せるのか気になる🔥
和泉
508
#るなさん愛され
もか🍑@🐣🎀🪽腐女子
100
#ヤクザ
夏目萌*優しい彼~コミカライズ
2,693