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朝、登校途中の坂道で、風がふわっと吹き抜けた。
制服のスカートが少し揺れて、前を歩く友達の髪が光に透けた。
その瞬間、胸の奥がざわっとする。
――この光景、前にも見た気がする。
でも、いつだったか思い出せない。
同じ坂道を毎日歩いているのに、今日だけ違って見える。
光の角度か、風の匂いか。
それとも、心のどこかがちょっとだけ昔に戻っていたのかもしれない。
教室に着くと、黒板には「日直:佐藤・山本」と書かれていた。
それを見たとき、また同じ感覚が走る。
――あ、これも前に見た気がする。
同じ日付、同じ組み合わせ、同じ筆跡。
だけどそんなはずない、と自分に言い聞かせて席についた。
授業が始まっても、心のどこかが落ち着かなかった。
先生の声の響き方も、窓の外の光の反射も、すべてが“もう一度訪れた時間”みたいに感じられた。
放課後。
部活のない日で、教室には自分しかいなかった。
机の上に広げたノートをぼんやり見つめながら、窓の外の夕焼けを眺める。
オレンジ色の光が斜めに差し込んで、チョークの粉がきらきらと舞っていた。
――ああ、そうだ。
やっと思い出した。
これと同じ光景を、私は一年前に見ていた。
同じ時刻、同じ教室。
そのとき隣にいたのは、卒業してもういない先輩だった。
「ここ、夕日が一番きれいに入るんだよ」
そう言って笑った声が、ふいに耳の奥で響いた。
先輩は写真部で、よくこの時間にカメラを構えていた。
私はその横で、ノートをまとめるふりをしながら、こっそりその横顔を見ていた。
あの春の日の風と、今日の風は、きっと同じだったんだ。
だから懐かしくて、だから心が少し痛かったんだと思う。
窓を開けると、風がまた頬をなでた。
まるで、「覚えてたんだな」って、言われたみたいだった。
私はそっと笑った。
あのときと同じ風の中で、“前にも見た光景”が、ちゃんと今に続いている気がした。
明日もまたこの坂を登る。
今日と同じように風が吹くかもしれない。
でも、きっとそのたびに少しずつ違う景色が見える。
そうやって、思い出は静かに重なっていくんだ。
まるで、季節の風が通り抜けるみたいに。
頬をかすめる風が次の季節訪れを知らせる。