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「もしかして……俺、世界最強になっちゃうかも?」
ズキズキと痛む脇腹の傷さえ気にならないほど、高揚感が全身を駆け巡る。
そんな思考に耽っていると、男性が戻ってきた。
「よく頑張ったな、小さな冒険者くん」
男性は優しく微笑みながら、手を差し伸べた。
「僕、ユータっていいます。ありがとうございました」
「俺はエドガー。冒険者だ」
にこやかに救いの手を差し伸べてくれたのは三十五歳の中堅の剣士だった。彼の温かな笑顔に、ユータも笑顔で応じる。
「間一髪だったな。間に合ってよかった……。どれ、傷口を見せて見ろ……あぁ、これは痛いだろう。これを飲め」
エドガーが差し出したポーションのおかげで、ユータの傷はみるみる癒えていった。
◇
街への道すがら、エドガーは自身の冒険譚を語り始めた。
「ダンジョンボスのガーゴイル相手に、パーティー全滅寸前だったんだ。もうみんな諦めの目をしちゃってる訳! でも俺だけは勝つって気合いだけで突っ込んで行ったのさ」
「す、すごいですね」
「ふふっ。奴は魔法を撃つ時一瞬動きを止めるんだよね。その瞬間を待ってさっきみたいに短剣でシュッとね。たまたま目に当たって落ちて来たところをザクっと。もう英雄扱いさ」
得意満面のエドガー。
俺は目を輝かせて聞き入った。エドガーの言葉一つ一つが、未知の世界への扉を開いていく。孤児院の中では知り得ないリアルな魔物の話に俺は夢中になった。
「スライムの群れに襲われたこともあってね。百匹近くが崖の上から滝のように降ってきて、危うく命を落とすところだったよ」
エドガーは楽しそうに笑う。そんなエドガーを見ながら、自分も商人ながらそんな冒険をしてみたいなんて思ってしまった。
エドガーの剣を見せてもらうと、レア度は★1。あちこちに刃こぼれが目立つ。
「そろそろ買い替えたいんだが、なかなかいい剣に巡り合えなくてね」
エドガーの言葉に、ユータの脳裏に閃きが走った。これは、自分の仮説を検証するチャンスかもしれない。
「エドガーさん、僕に代わりの剣を用意させていただけませんか?」
驚きの表情を浮かべるエドガー。しかし、ユータが「商人を目指していて、その試作品を試してほしい」と説明すると、彼は優しく微笑んだ。
「そうか、君には夢があるんだね。よし、協力させてもらおう。でも、この剣以上の物にしてくれよ?」
「それは任せてください。驚くような剣を持ってきます!」
俺は両手のこぶしをグッと握って力説した。
エドガーは嬉しそうにうなずいた。
◇
街に到着し、エドガーと別れた俺は、早速『魔道具屋』へと足を向けた。メインストリートから少し外れた薄暗い路地に、小さな看板を掲げた店がひっそりと佇んでいる。
ギギギ――――ッ
重たい扉を開けると、カビ臭い空気が鼻をくすぐり、俺は顔をしかめた。薄暗い店内には、得体の知れない品々が所狭しと並んでいる。動物の骨、きらめく宝石、不思議な形をした瓶。まるで魔法使いの隠れ家のようだ。
カウンターには、釣り目のおばあさんが暇そうに本を読んでいる。
「あのぉ……すみません」
声をかけると、彼女は面倒くさそうに顔を上げた。
「坊や、何か用かい?」
「あの、水を凍らせる魔法の石はありませんか?」
「氷結石のことかい?」
おばあさんの言葉に、ユータの心臓が高鳴る。
「その石の中に水を入れていたら、ずっと凍っているんですか?」
「変わった質問をする子だね?」
おばあさんは不思議そうに眉をひそめた。
「魔力が続く限り、氷結石の周囲は凍ったままさ」
ユータの目が輝く。
(よし、これで行ける!)
この氷結石を使えば、自分の仮説が証明できるかもしれない。そして、それは予想通りなら人生を大きく変える一歩となるはずだった。
俺は心の中でガッツポーズを決めながら言った。
「その氷結石、一つください!」
ユータの声に力がこもる。
おばあさんは少し驚いたような表情を浮かべたが、やがてにやりと笑った。
「一個金貨一枚だよ。坊や、買えるのかい?」
俺は胸を張って答えた。
「大丈夫です!」
そう言いながら、ポケットから金貨を一枚取り出した。
おばあさんの目が驚きで丸くなる。
「あら、驚いた……お金持ちね……」
俺は少しだけドヤ顔でおばあさんを見た。
おばあさんはすでに立ち上がると、奥から小物ケースを取り出してきた。
木製のケースの中には、水色にキラキラと輝く石が整然と並んでいる。まるで小さな宝石箱のようだ。
12. 世界最強化計画
うわぁ……。
「どれがいいんだい?」
「どれも値段は一緒ですか?」
おばあさんは少し考え込むような仕草をした。
「うーん、この小さいのなら銀貨七枚でもいいよ」
ユータの目が輝いた。
「じゃあ、これください!」
興奮のあまり手を伸ばそうとしたが、おばあさんの素早い動きに阻止される。
「ダメダメ! 触ったら凍傷になるよ!」
おばあさんは慌ててユータの手を掴み、軽く叱りつけた。その仕草には、孫を気遣うような優しさが感じられる。
手袋をはめたおばあさんが、慎重に氷結石を取り出す。そして柔らかな布でキュッキュと丁寧に拭うと、急に氷結石は濃い青色で鮮やかな輝きを放ち始めた。
「うわぁ~!」
俺は息を呑んだ。深い海の底から引き上げられたかのような、神秘的な碧い輝き。俺はその輝きにくぎ付けになってしまう。
「霜が付いてるから、そのままじゃ鈍い水色にしか見えないんだよ」
おばあさんが優しく説明する。
「拭くと、本来の美しさが現れるのさ。どうだい、綺麗だろ?」
俺は感動に震えていた。この小さな石に、まるで異世界の奥深さが凝縮されているかのようだった。
おばあさんはユータの反応を見て、にっこりと微笑む。そして小さな箱に石を入れ、「はい、どうぞ」と差し出した。
「ありがとうございます!」
俺は満面の笑みで小箱を受け取り、慎重にポケットに押し込んだ。
◇
俺の仮説はこうである。
ゴブリンを倒したのは俺の血がついた槍、つまり、俺の血がついた武器で魔物を倒せば、俺がどこで何してても経験値は配分されるのだ。ただ、血が乾いてカピカピになってもこの効果があるかといえば、ないだろう。そんな効果があったらどんな武器にだって血痕は微量についている訳だからシステム的に破綻してしまうはずだ。だから、まだ生きた細胞が残っている血液が付いていることが条件になるだろう。しかし、血液なんてすぐに乾いてしまう。そこで氷結石の出番なのだ。この石を砕いてビーズみたいにして、中にごく微量、俺の血を入れて凍らせる。そしてそれを武器の中に仕込むのだ。これを冒険者のみんなに使ってもらえば俺は寝てるだけで経験値は爆上がり、世界最強の力を得られるに違いない。
もちろん、それだけだと他人の経験値を奪うだけの泥棒になってしまう。やはり喜ばれることをやりたい。と、なると、特殊なレア武器を提供して、すごく強くなる代わりに経験値を分けてもらうという形がいいだろう。
俺はウキウキしながら孤児院に戻り、みんなに見つからないようにそっと倉庫のすみに作業場を確保した。
果たして仮説通りに上手くいきますかどうか……。
ヨシッ!
俺はパンパンと頬を張って気合を入れると、氷結石の加工作業に入った。
◇
週末の朝、澄み切った空の下、街の広場は活気に満ちていた。『蚤の市』の開催日。ユータは胸を躍らせながら、こっそりと貯めたお金を握りしめ、人々の波に身を投じた。
広場には色とりどりの品々が所狭しと並べられ、それぞれが物語を秘めているかのようだった。ハンドメイドの雑貨や、長年眠っていたお宝たち。ユータの目は、その中でも特に武器に釘付けになる。
「さあ、レア武器を見つけるぞ!」
俺は気合を入れると鑑定スキルを駆使しながら、端から武器を見て回った。
グレートソード レア度:★
大剣 攻撃力:+10
スピア レア度:★
槍 攻撃力:+8
しかし、小一時間が経過しても、目当てのレア武器は見つからない。鑑定を使い過ぎて、目はシバシバしてきてしまった。
「うーん、フリマだから仕方ないのかな……」
少し落胆しながらも、ユータは諦めなかった。★1の武器に氷結石を仕込むのは、使う人に損をさせてしまう。それは絶対に避けたかった。
すごく強くなれるけど、経験値が少し減る。そんな武器を作りたかったのだ。
疲れた足を休めるため、ユータは噴水の石垣に腰を下ろした。気の良さそうなおばちゃんから買った手作りクッキーを頬張りながら、ユータは快晴の空を見上げた。
どこまでも広がる青空、賑やかな声が響く広場。そして美味しいクッキー――――。
つい頬に、自然と笑みが浮かんでしまう。
「ここは、本当に素晴らしい場所だな」
かつての暗い部屋でゲームばかりしていた日々を思い出し、俺は首を振ると大きく息をついた。
13. 紅蓮虎吼剣
市場の喧噪の中、一人のおじいさんが山のような荷物を背負って現れた。白いひげを蓄えた人懐っこそうな顔が、人だかりの中から覗く。
「あー、すまんが、ちょっとどいてくれ」
おじいさんの背負う荷物からは、剣の鍔が覗いている。武具の販売者だろうか? だが、明らかに錆びだらけの手入れの行き届いていないものばかりだった。
ユータはため息をつきながらも、半ば反射的に鑑定スキルを発動させる。
ワンド レア度:★
木製の杖 攻撃力:+8
スピア レア度:★
大剣 攻撃力:+9
紅蓮虎吼剣 レア度:★★★★
大剣 強さ:+5、攻撃力:+8/40、バイタリティ:+5、防御力:+5
「キターーーー!!」
俺は思わず叫んで立ち上がってしまった。隣に置いていたお茶のカップが転がり、地面を濡らしたが、もはやそんなことは気にならない。
紅蓮虎吼剣は、他の武器と一緒に無造作に箱に突っ込まれていた。
錆びつき、刃こぼれした姿に、俺は胸が痛む。★4の武器がこんな扱いを受けているなんて……。
「攻撃力8/40か……」
俺は首をかしげた。
(きっと手入れすれば、本来の力を取り戻せるはず)
おじいさんは丁寧に武器を並べていく。その中には★3の武器も混じっていた。
「すごい……」
俺は息を呑んだ。レア武器を二本も出すなんてただものではない。いったいこのおじいさんは何者なのだろうか?
早速、おじいさんに近づいた――――。
「あの、すみません……」
俺は緊張しながら声をかける。
「この剣、売ってもらえませんか?」
「あぁ?」
おじいさんは白ひげをなでながら、ユータをけげんそうな目で見上げる
「坊主か、驚いた。まだ小さいのに武器になんて興味あるのか? ん?」
おじいさんはそう言って相好を崩した。
「この剣と、あの錆びた大剣が欲しいんですが、いくらですか?」
「え!? これは一本金貨一枚だぞ! 子供の買えるもんじゃねーぞ!」
おじいさんは困ったような顔で言い放った。
「お金ならあります!」
俺はポケットから金貨を取り出して見せた。
「ほぅ、こりゃ驚いた……」
おじいさんは金貨を受け取ると、本物かどうかじっくりと確かめる。
「……。いいですか?」
「そりゃぁ金さえ払ってくれたらねぇ……。よし! じゃ、錆びた奴はオマケにしといてやろう!」
そう言って笑うと、剣を丁寧に紙で包み始めた。
なんと、★4の称号付きの名剣がオマケになるという。俺はちょっと申し訳なく思いながらも厚意に甘えることにした。
「もしかして、こういう武器、他にもありますか?」
俺はさりげなく聞いてみる。きっとここにあるだけではないに違いない。
「あー、うちは古い武器のリサイクルをやっとってな。倉庫にはたくさんあるよ」
おじいさんは開店するなり武器が売れてニコニコと上機嫌だ。
「それ、見せてもらうことはできますか?」
「おいおい、坊主。お前、武器買いあさってどうするつもりかね?」
怪訝そうなおじいさん。
「あー、実は冒険者相手に武器を売る商売をはじめようと思ってて、仕入れ先を探してたんです」
「え? 坊主が武器商人?」
「武器ってほら、魅力的じゃないですか」
おじいさんはフッと笑うと、肩をすくめる。
「そりゃぁ武器は美しいよ。でも、儲かるような仕事じゃないぞ?」
「大丈夫です、まず試したいので……」
きっと在庫は宝の山に違いない。俺は必死にプッシュした。
おじいさんはユータの目をジッと見る。そして、根負けしたように年季の入ったカバンを漁る。
「分かった、じゃぁ明日、ここへおいで」
そう言って、おじいさんは小さなチラシを差し出した。
「ありがとうございます!」
ユータはお礼を言うと、剣を抱え、ウキウキしながら孤児院の倉庫へと走った。
◇
倉庫の隅で、俺は必死に紅蓮虎吼剣と向き合っていた。水を汲んできて早速研ぎ始めたものの、思うように進まない。錆びは落ちるが、刃こぼれの修復には頭を悩ませる。
「なんて硬いんだ……」
額に汗を浮かべながら、必死に砥石を動かす。しかし、★四つの剣は簡単には砥石を受け入れない。その頑強さに、俺は身をもって紅蓮虎吼剣の質の高さを実感させられた。
諦めかけた瞬間、ふと目に入ったのは庭に転がる石垣の崩れた石だった。それは砥石よりももっと粗野な硬さで、砥石ではなんともならない紅蓮虎吼剣にはいい荒療治になりそうだった。
「これなら……!」
平らな面に剣を当ててみると、ジョリジョリと手応えのある音が響いた。
「よし、いける!」
俺は確かな手ごたえを感じながら必死に研いでいく――――。
しかし、すぐに息切れし始めた。子供の小さな体にはレア武器の手入れなど重労働だ。
「ふぅ……何やるにしても身体鍛えないとダメだなぁ……」
ボーっと休憩しながら呟いたその時、倉庫の扉が開いた。
14. 得難い仲間
「な~に、やってるの?」
「うわぁ!」
突然の声に、ユータは思わず飛び上がった。
「そんなに驚くことないでしょ!」
振り返ると、ドロシーが不満そうな顔で立っていた。銀髪に透き通るような白い肌、水色のワンピースを着た美しい少女が、俺をじっと見つめている。
「ゴメンゴメン、驚いちゃって」
俺は頭をかきながらフォローする。
「ふーん……。何……やってんの?」
ドロシーはジト目で俺を見る。
「実はね、武器を売ろうと思ってるんだ」
俺は石に水をかけ、再び剣を研ぎ始めた。
「ふーん……。ユータってさぁ……。ずいぶん……変わったよね?」
ドロシーは首を傾げ、ユータの顔を覗き込んだ。
俺は少しドキッとしながら、それを気づかれないように顔を伏せたままにする。
「まぁ、いつまでも孤児院に世話になってはいられないからね」
「そうね……」
沈黙が続き、しばらくジョリジョリと研ぐ音が倉庫内に響いていた――――。
「あの時……ありがとう」
ドロシーが小さな声で呟く。
「大事にならなくてよかったよ」
俺は研ぎ続けながら、さりげなく返した。
「本当はね……」
ドロシーは言葉を選ぶように話し始めた。
「ユータって手に負えない悪ガキで、ちょっと苦手だったの……」
「俺もそう思うよ」
俺は少し苦笑しながら肩をすくめる。確かに前世の記憶が戻る前の俺はどうしようもないクソガキだったのだ。
「いやいや、違うのよ!」
ドロシーは慌てて手を振った。
「本当はあんなに勇気があって頼れる子だって分かって、私、反省したの……」
「ははは、反省なんてしなくていいよ。実際悪ガキだったし」
俺はなんだか申し訳なくなってしまう。
ドロシーはしばらく黙っていたが、突然決意したように言った。
「でね……。私、何か手伝えることないかなって思って……」
予想外のドロシーの言葉に、俺は顔を上げた。
「え?」
「ユータが最近独り立ちしようと必死になってるの凄く分かるの。私、お姉さんでしょ? 手伝えることあればなぁって」
ドロシーの目には真剣な光が宿っていた。
確かに、頼れる仲間がいるのは心強い。何しろドロシーは賢くて器用だ。きっと役に立ってくれるだろう。
「じゃあ……そうだな……武器の掃除を手伝ってよ。持ち手や鍔に汚れが残ってるんだ」
おじいさんから買った剣は、ジャンク品だったため、細かな部分まで手が回っていない。
「分かったわ! この手のお掃除得意よ、私!」
ニッコリと笑うドロシーの目がキラリと輝く。
その笑顔に、俺は心温まる物を感じた。今まで薬草取りからずっと一人だったのだ。こんな頼もしい仲間ができただなんてつい目頭が熱くなってしまう。
「売れたら……お駄賃出すよ」
「何言ってんの、そんなの要らないわよ!」
ドロシーは慌てて手を振った。
「いやいや、これは商売だからね。もらってもらわないと困るよ。ただ……小銭だけど」
俺は真剣な顔でドロシーの顔をのぞきこむ。
「うーん、そういうものかしら……分かった! 楽しみにしてる!」
ドロシーは素敵な笑顔を見せると、棚からブラシや布、洗剤をてきぱきと揃えた。
ユータの隣に座って真剣な表情で磨き始めるドロシー。二人の間に心地よい沈黙が流れる。
ジョリジョリという研ぐ音と、シュッシュッという磨く音が倉庫に響く。時折、二人は顔を見合わせて微笑む。言葉は交わさなくても、二人の間には確かな絆が生まれていた。
◇
「これ……、本当に儲かるの?」
少し疲れが見えてきた頃、ドロシーが額の汗をぬぐいながら言った。
「多分儲かるし……それだけじゃなく、もっと夢みたいな世界を切り開いてくれるはずだよ」
俺は胸を張って答える。
「えー? 何それ?」
ドロシーは少し茶化すように笑ったが、その目は好奇心に満ちていた。
「本当さ、俺がこの世界全部を手に入れちゃうかもしれないよ?」
俺は野心を隠さず、ニヤリと笑う。
「世界全部……? 私も……手に入っちゃう?」
彼女は上目遣いでユータを見つめ、銀髪がサラリと揺れる。澄んだブラウンの瞳がキュッキュッと細かく動き、十二歳とは思えない色香を漂わせていた。
「……え?」
俺はつい見とれてしまって言葉を失う。精神年齢二十代の俺からしたら十二歳などガキだと高をくくっていたが、身体が子供なせいか、なんだか不思議な気分になってしまった。
「あ? いや、そういう意味じゃなくって……」
「うふふ、冗談よ」
ドロシーはくすりと笑った。
「男の子が破天荒な夢を語るのはいいことだわ。頑張って!」
「あ、ありがとう」
俺は火照ってしまったほほをさすりながら、急いで研ぐ作業に戻った。