テラーノベル
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人選ミスったかもなぁ、玄関から出た瞬間、キャメのおっさんを見下ろす目を思い返しながら少し後悔する。まぁでも、せんせーがいる前では変なことしないでしょ!そう結論を出し、目の前のこいつに声をかける。
「手、痛くないの?」
「わかんない、」
「そっか、弐十ちゃんも怪我してたし、包帯とかも買わなくちゃだよね~」
「うん、」
キルの手は何度もおっさんを殴ったからか、皮がめくれて少し血が滲んでいた。
ここから出は少し遠いスーパーまで、あえて歩いていくことを選んだ。話を誰かに聞かれたくないのもあるし、それ以上に妙に落ち込んでいるこいつを戻るまでに何とかしなくてはならない。
帰りはタクシーを使うかもしれないけど。
「俺、最初コメント信じてなかった、」
「うん、」
「もっと、早くコメント早く信じてたら、もっと、早く弐十くんのところに行けたよね、」
「そうだね、」
「弐十くん、普通だった、」
「ね、」
「怒ってるかな、」
「どうだろうね、」
否定も肯定もしない。というか出来ない。
俺は弐十ちゃんじゃないし、同じ経験をしたことがあるわけじゃないから弐十ちゃんに気持ちなんてわかんない。もっとも、弐十ちゃんの考えてることを分かったことなんてないから経験の有無なんて関係ないのかもしれないけど。
スーパーについてもグダグダ言っているキルにかごを持たせて適当にポイポイ放り込んでいく。
消毒液、ガーゼ、包帯、テープにロープ、怪我した後は熱が出ると聞いたことがあるから解熱剤を何個か、そのほか食べ物とかお菓子とかをどんどん入れる。
酒を入れてようやく、
「おま、必要ないもんまで入れんじゃねーよ」
「えー、必要でしょ?」
「いらねぇよ!」
「んじゃタバコ買ってくか!」
「それは、要るな」
「でしょ!」
そのまま会計に向かうとスマホにボビーからホテルの予約を済ませたことが送られてきた。
「キルちゃんキルちゃん、ホテル予約したみたいよ」
「へー、ここタバコ吸えるみたいだね」
「マジ?」
「まじ」
いろいろ買いすぎて結局4袋分になったからタクシーを呼ぶ。
タクシーが来るまでキルと2人喫煙所でタバコを吸う。
「ねぇ、」
「んー?」
「ニキは、殺したいって思わないの?」
「え?思ってるよ?」
「そうなんだ」
「うん、普通に。キルやキャメとは違って実際に殺そうとは思わないけど」
「え、まって、キャメさんも⁉」
「え、うん。気付かなかった?」
「うん、」
ボビーは気が付いてるかな、くれぐれもキャメから離れないでくれよ~。なんて考えながらタクシーに乗り込む。
マンションのすぐ前でおろしてもらいエレベーターに乗り込む。
なんとなくデジャブを感じながら弐十ちゃんの家に戻る。きちんとドアが閉まっていることに、心の底から安心した。
「ただいまー」
「おん、お帰り」
「キャメはなにをしてんの?それ?」
「え、座ってる?」
「そっか、」
気絶したままのおっさんの上に座るキャメ、、すごいシュールだななんてことを考えながら買ってきたものを袋から出す。
包帯やらなんやらを出してボビーに渡す。
「キルちゃん手やるからこっち来てや」
「ん」
ロープは出した瞬間キャメが持って行ったから俺は食品などを冷蔵庫に入れていく。
聞いていた通り冷凍庫はないから冷凍食品は買ってこなかった。
床に散らばった物をどかして床をふく。白い精液と赤い血液。無心で拭いて最低限あいつが戻ってこれるようにする。
なんだかよく分からないけど涙が出てきそうになったからそれを服の端で拭う。
大丈夫。これは最悪な状況じゃない。弐十ちゃんは生きてる。だから、大丈夫。そうやって自分を安心させる。
ばん!と音がしてそちらを振り向くと今まさにおっさんを縛り終えたキャメがトイレにおっさんを押し込み終えたところだった。
「俺終わったから手伝うよ」
「うん」
「ニキくんも無理しないでいいからね」
「うん」
さすが最年長。なんとなく、安心してきた。
「あ、シードに連絡してない!」
いろいろあってすっかりシードとりいちょに連絡するのを忘れていた。
急いでYouTubeを開くと、案の定シードはまだ配信を続けていた。
Discordから2人にもう終わっていいことを伝える。何があったかは、
「まだ、やめとくか、」
「ニキなんか言うた?」
「んー、なんも言ってないよ?そろそろ弐十ちゃん呼んで来たら?」
「せやね、」
ボビーが風呂に行って声をかける。しばらくしてから弐十が出てきた。
「ごめん、せんせー服びちゃびちゃにしちゃったぁ」
「おん、気にせんでええよ」
「あれ、トルテさん手大丈夫?」
弐十ちゃんのその言葉で、キルの表情が一気にゆがむ。そのままどんどんと涙が出てきて、
「え、トルテさんどうしたの⁉」
「~~~~~っ!」
「えー、泣かないでよ?もぉ、俺は大丈夫だからね?」
「おまえがっ!~~!」
余計に泣くキルを慰めるように抱く弐十ちゃんはどっからどう見ても普通で、こちらの方が泣きたくなってくる。
「~~~~なんでさぁっ!」
「え、ニキくんも⁉」
「~~~~ほんとっ」
「せんせーまで?」
「だってっ~~~~っ!」
「もぉ~!はぁ、俺は大丈夫だからね?みんなおいで?」
弐十ちゃん以外のみんなで泣いて弐十ちゃんに抱き着く。
本当は弐十ちゃんにこそ1番に泣いてもらいたいのに。そうしたらきっと俺たちは心の底から安心できたのに。
一向に泣いてくれないこいつの代わりに俺らがいっぱい泣く。
10分くらいしてみんな泣き止んでからなんてことないように弐十ちゃんが、
「あ、ねぇ——」
あ、だめだ、直感的にそう思う。弐十ちゃんにこの言葉の先を言わせてはならない。
「あー!弐十ちゃん髪ちゃんと拭かないと服濡れちゃうよ~」
「え、もうお前らせいでびちゃびちゃですけど?」
「ほら拭いてあげるから、タオルもってこっち来な?」
「もう、トルテさんまで急に何?」
キルも同じことを思ったのか弐十ちゃんの話を遮る。
そのままドライヤーをして物理的に会話をできなくする。
でも、そんなものはすぐ終わってしまって、
「あー!弐十ちゃん!手当てするからこっち来てや!」
「うわ!びっくりした!」
心の中でボビーにナイスを送る。
服を脱いだ弐十ちゃんの怪我は想定よりもひどくて、思わず目をそらしてしまいたくなる。でもそれを何より弐十ちゃん自身に知られたくなくて、なんてことないようにふるまう。
そのせいで意識がそれてしまった。
「あ、下はあとで、自分でやるからいいよ」
「わかった」
「ところでさ、警察どうする?」
よりにもよって、無音になった瞬間を選んで落とされた爆弾。
「弐十くんはどうしたい?」
「んー、俺は別にどっちでもいいかなぁ」
キャメと弐十くんが話しているのをどこか他人事として見てしまう。
「あ、でも呼ばない方がいいのか、トルテさん相手、殴ちゃってるし」
「俺は、——」
「あ、遅くなったけどみんなありがとうね。いや、みんなが来てくれなかったら俺死んじゃってたかもじゃん?ほんと、助かったわ」
こいつは一体何を言っているのだろうか、にこにこと、前に配信に俺とりいちょがゲストとして出たときと全く同じトーンで、
いつも動画やそれ以外でもロボットだの人じゃないだのいじってはいるがこいつに対して恐怖を覚えたことはなかったはずだ、でも、これは、
「弐十ちゃんは呼んだ方がいいの?」
「え、俺?俺はどうでもいいけど?」
誰も何も言えなかった。怖かった。弐十が、
知っている弐十ちゃんのまんまだったから。
「あー、俺らホテル取ったんよ、今日弐十ちゃんも一緒に泊まらん?」
「え!いいの!じゃぁ、お言葉に甘えてそうさせてもらおっかな!」
語尾に音符でもつきそうなほど機嫌がよさそうな声。
「あれ、ニキくん顔色悪いけど大丈夫?」
「……う、うん、ちょっとおなかすいたかなー」
「www、先なんか食べる?」
「だい、じょうぶ」
財布とスマホ、弐十ちゃんはそれに加えて家の鍵。ボビーは包帯やらなんやらと、なんか、来たときには持っていなかったはずのいろいろなものをスーパーのレジ袋に入れて。
俺たちはホテルに向かった。
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