テラーノベル
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昨日はどうやってホテルまで来たのか覚えていない。
めちゃくちゃ大きな部屋で大の男5人で寝た。
スマホで時間を確認すると深夜3時だったから明かりは付けずにトイレに向かう。
途中何人か踏んだ気がするけど弐十くん以外ならまぁ、いっか。
手を洗いに洗面所に向かうと、
「あれ?トルテさん?起きちゃった?」
弐十くんがいた。
ズボンを脱いでつけられた傷の手当てをしていた。
「……それ、貸して、」
「え、いいよ別に、自分でやるから」
「後ろの方とか、やりにくいでしょ。いいから貸して、」
「じゃぁ、はい」
足には無数のキスマークと軽口が滲んだ噛み跡。上半身に比べると殴られた跡が無いだけ幾らかましなのだろう。
でもきっと、1番酷いのは、
「ん?気になる?」
「……別に、」
「そっ、ならよかった」
それは、どういう意味で?なんていうのは聞けなかった。
弐十くんが受け取った軟膏をできるだけ見ないようにしながら塗っていく。
自分でも笑ってしまうくらい手が震えていた。
「ふふ、くすぐったい」
「うるさい」
「そこちょっと痛いかも」
「……ごめん、」
もっと早く行けたかもしれない。
もっと早く異変に気が付けたかもしれない。
俺がもっと早く動いていたら。
あの時のコメントを荒らしだと思わなければ。
そんなことばかり考えてしまう。
「うん、いいよ」
泣きたくなったけどもう泣かない。多分俺が泣いたらコイツはもっと泣けなくなってしまう。そう考えたから。
軟膏を塗り終わって、軽く包帯を巻く。ほとんどの傷はそこまでしなくてもよさそうだったけど、何もしないよりはましな気がした。
「はい、おわり」
「トルテさん包帯巻くのへったくそ」
「五月蠅いな」
「冗談だよ、ありがとう」
「ん」
弐十くんはそう言うとズボンを履きなおす。
「トルテさんは寝ないの?」
「んーまぁ、そのうち?」
「そ」
弐十くんはそう返すと、洗面台に軽く腰を掛ける。
いいホテルなだけあって無駄に広い洗面所に白い照明がやけに眩しかった。
何かを、言わなければ、そんな気がした。
でも何を言えばいいのか分からなくて、ポケットからタバコを取り出す。
「俺にも1本頂戴」
「怪我人だからダメ」
「えー」
「これを機に禁煙でもしたら?」
「トルテさんがしたらいいよ」
「じゃぁ、一生無理だね」
「www」
いつも通りのの会話。そのせいで、昨日のことを一瞬忘れてしまいそうになる。
右手に巻かれた包帯が目についた。殴った側がこんなに痛いのだからきっと、
「トルテさん、手痛い?」
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「んー、そこそこ。——弐十くんは、痛い?」
「そこそこ?」
「そぅ、」
まったく、4年一緒にいるにコイツのことが何にも分からない。
たぶん、一生分からないのだろう。でも、俺はそんな弐十くんがずっと、
「……何しとんの、お前ら」
振り返ると、眠そうな顔のしろせんせーが立っていた。
髪はぼさぼさで、片眼をこすっていた。
「せんせー、おはよ」
「んー、で、何しとったん?」
「えー、なんだろう?」
「世間話?」
「なんやそれ」
せんせーは呆れたようにそう言って蛇口をひねる。
冷たい水で顔を洗って、髪を直す。その動作で、少しいつも通りのしろせんせーに見えるような気がした。
「……弐十ちゃん、体調は?」
「んー、ふつー」
「そ」
病院の問診みたいだなぁ、なんてぼんやりと考える。
「あとで解熱剤渡すから、胃になんか入れき」
「解熱剤?」
「……これから、出てくる可能性があるで」
「ふーん、さすがよく風邪ひくだけあるね」
「うっさいねん」
このまま3人で話すのもなんだから、
「アイツら起こす?」
「お、ええな」
「さんせー」
弐十くんが2人が寝ている部屋の電気をばちっと点ける。
「うわぁ!まっぶし!ていうか腕めっちゃ痛いんだけど!誰か俺のこと踏んででしょ!」
どうやら俺が踏んだのはニキだったらしい。
「え!ニキくんも!俺も方腕だけ痛いんだよね!」
訂正、キャメさんも。
キャメさんはともかく、ニキの寝起きの悪さは知っているから多分、少し前から起きていたのだと思う。
みんながみんな、きちんと寝ることなんて、できていない。
「あ!そうだ、トルテさん、配信ってどうなってる?」
「……ニキが消した、」
「ニキくん!配信ってどうなった?」
「俺が消してアーカイブは非公開にしてある。リスナーへの説明は機材トラブルってことにしてシードが説明した」
「そ、サンキュ。途中まで結構いい感じだったから切抜きだけでも上げよっかな」
「……いいんじゃない」
空気を換えたくて窓を開ける。
外の空気をめいいっぱい吸って物理的に体の中の空気を換える。
「ニキ、なんか食べる物ある?」
「置いてきちゃった。キルちゃん腹減ったの?」
「いや、弐十くんに薬飲んでもらいたいから、」
「あー、コンビニ行く?」
「いや、ルームサービス頼めばいいんとちゃう?」
「あぁ!/それだ」
しろせんせーの言われるまでルームサービスという選択肢が全く浮かばなかった。さすがいいとこの子だな、
「おーい、メニュー表あったよ。はい」
「あ、キャメさんありがとう」
「弐十くんは何食べたい?」
「俺肉!」
「いや、ニキには誰も聞いてへんから!」
みんなでメニュー表を見ながら何を食べたいか話し合う。
ニキはステーキ、せんせーは塩ラーメン、キャメさんはサラダ、俺は醬油ラーメンで弐十くんは、
「じゃぁ、俺はヨーグルト!」
キャメさんと弐十くん、次に俺としろせんせー、最後にニキの頼んだものが届いた。
キャメさんは頼んだくせにあんまりおなかがすいていないのか蓋も開けずにお茶だけを飲んでいた。
弐十くんが口を付けるのを見届けると、ほっとしてみんなも自分の分を取る。
「うまぁ!」
「マジ!ボビー、ちょっとちょうだい!」
「ええよ!」
「俺のもちょっとあげる!」
「うま、」
ニキのとせんせーは相変わらず仲がいいななんてことを横目に俺も自分の器を減らすことに尽力する。
「あれ、弐十ちゃん減ってなくない?」
ニキの言葉につられて隣に座る弐十くんの方を見ると確かに、最初の一口目からほとんど減っていないように見えた。俺やニキたちはもうほとんど食べ終わってしまっているのにもかかわらず。
「んー、いや」
そこでようやく気が付く。ヨーグルトは白くて、ドロッとしている。ジャムなんかは特にかかってなくて、これは、
「弐十くん、俺なんか急にヨーグルトが食べたくなっちゃったから、俺のサラダと交換してくれない?」
「……うん、ありがとう」
「なにが?」
「なんとなく」
最年長なだけあってキャメさんはいろんなことに気が付く。きっと、こうなることを予想してサラダを頼んだのだろう。
そんなことを考えながらも、ここにきてようやく見えてきた弐十の人間らしい一面にほっと、安心してしまう。
そんな自分に吐き気がした、でもきっと、他の奴らもおんなじことを思ったのだろう。全員が全員、嫌悪と安心の混ざった変な顔をしていた。
「はい、弐十ちゃんこれ、」
「んー、せんせーこれ何個?」
「えーっと、弐十ちゃん今いくつ?」
「210歳」
「今それええから、3錠やって」
「はーい」
弐十が薬を飲み終えたのをみて、もう一度みんなで眠りにつく。
血糖値は上がって眠いはずなのに、眠るのが怖かった。
横に眠った弐十くんが、いつの間にかいなくなってしまいそうで、そっと、手を握る。離れないように、次は、次こそはと思いながらも弐十くんの手は暖かくて、ゆっくりと目をつぶる。
暑くて目が覚めた。熱源はどう考えても隣に眠る弐十くんで、看病なんてしたことがないからはんばパニックになり近くにいたせんせーを蹴り起こす。
「いった!もう、なんなん?せっかく人が眠っとったのに、」
「弐十くんが熱い」
「あーぁ、やっぱり熱上がってきてしもたか」
弐十くんの手をギュッと、力ずよく握りしめる。
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