テラーノベル
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向かい合った鬼と桃太郎。
人数的には圧倒的に不利な桃側だが、その顔に焦りや不安は微塵も感じられなかった。
むしろ余裕の笑みすら浮かべていた桜介が、ふと相手側の後方に立っていたとある人物を見つけ嬉しそうに声をかける。
「おっ!鳴海もいんじゃん!」
「げ…!」
「おーい、俺のこと覚えてっか?」
「久しぶりだね鳴海」
「俺がケガしたら頼むな~!」
ごくごく自然に鳴海へ話しかけてくる練馬コンビに、鬼側の警戒心が一気に高まった。
めんどくさい雰囲気を察した鳴海を、一番近くにいた無陀野がサッと背後に隠す。
そうして守られている彼を、神門は悲しそうに見つめるのだった。
「(まさかハルが鳴海さんだとは…。)」
これだけの状況でも落ち着いている3人とは違い、唯一深夜だけは分かりやすく焦っていた。
能力的に戦闘向きではない彼にとって、人質のいない少数同士の戦いは最も避けるべきことである。
結果、3人を置いて1人一目散にその場から逃げ出した。
姉妹を危険な目に遭わせ皇后崎を不安にさせたことも、一ノ瀬と神門を仲違いさせたことも、全ての元凶は彼だ。
一連の出来事の黒幕が逃げていく姿を見て反射的に追いかけそうになる鳴海だったが、不意にその肩がポンと叩かれる。
そしてそれと同時に横を走り抜けたのは…
「迅ちゃん…!」
「俺が行く。」
「うん。気をつけて。」
鳴海の言葉に頷いた皇后崎は、”絶対に逃がさない”という強い想いで深夜の後を追って行った。
次に動いたのは、深夜の部下である神門だ。
一ノ瀬に向ける目は、祭りの日とは程遠い冷酷なものだった。
「ケリをつけよう。」
「ケリって何だよ!俺はな…!」
「喋るなよ。言ったろ?君の話は聞きたくないって。」
「…っ!」
「ついてきなよ。2人になりたい。」
「…」
「四季ちゃん…」
「平気。ちょっとケンカしてくるだけ、だろ?」
「しっかり自分気持ちぶつけてきなよ!」
「うん。行って来る。」
鳴海と小声で言葉を交わし、前を歩く神門の後をついて行く一ノ瀬。
そんな教え子を見つめていた無陀野は、頼りになる同期に目配せする。
“四季を頼む”
阿吽の呼吸で彼の意図を理解し、淀川は姿を消して2人を追った。
これで残る桃は練馬の2人だ。
その内の1人・桃角桜介が、突然無陀野の名前を叫びながら話し出す。
「無陀野ぉぉ!前の続きをやろうぜ!」
「ねぇ、次僕でしょ?」
「ばーか!第2ラウンドだよ!続いてんだ!」
「幸せな奴だな。俺に手も足も出なかったことすら忘れられるなんて。それともただの馬鹿か?」
「確かに第1ラウンドはお前の勝ちだ!けど第2ラウンドは絶対に俺は負けねぇ!理由はお前が強いからだ!無陀野ぉ!お前が強ければ強いほど…」
「これって…」
「無人先生の…!」
「自分の強さに苦しめられる!」
桜介の能力は、自分が受けた技をコピーできるというものだ。
前回無陀野と戦ったことで彼の能力をコピーした桜介は、早速”雨過転生”を発動した。
弓を持った血の兵士たちが、鬼側に向けて一斉に矢を放つ。
瞬時に血を解放し、生徒たちを守るために血の傘を広げる無陀野。
「怪我は。」
「だ…大丈夫です!」
「無陀野ぉ!さぁやろうぜ!言っちまえば、テメェVSテメェだ!」
「…お前たち。あいつはお前らに任せる。あれくらいお前らでどーにかしろ。」
「…は!?てめぇ!どうゆうことだ!」
「猿真似に興味はない。」
「!」
「鳴海はここに残す。怪我をした場合は頼れ。鳴海、ないとは思うが使用限度は水槽までだ。任せたぞ」
「おっけ〜無人くんは?」
「俺は…」
「嬉しいね。ご指名かい?怪我をしたら、僕も鳴海を頼っていいのかな?」
「相手は俺だ。お前が鳴海と関わることは、万が一にもない。」
「愛されてるね~ますます興味が湧くよ。」
自分を放置して話を進める無陀野と月詠に、桜介の怒りはボルテージを上げる。
無陀野と闘えないばかりか、相手が羅刹の生徒であることに、どうにも納得がいかないのだ。
そのイライラ全てが、生徒たちに向けられる。
使用限度があるとは言え戦うとここら一帯が更地確定の鳴海に偵察向きの遊摺部、コントロールに不安を抱える屏風ヶ浦、極度の心配性な手術岾は戦力外。
じゃあ私が…と前に出た漣を遮るように言葉を発したのは、桜介とどこか似たタイプの矢颪だった。
「どいてろ。俺にやらせろ!俺がやる!」
「心臓が動いてる限り、どんな怪我でも俺が治すから安心して怪我していいよ!」
「大丈夫だって!鳴海の出番はねぇよ。だからそこでのんびり見学してな!」
声をかけてきた鳴海に笑顔を向けると、矢颪は拳を鳴らしながら一歩前へ出るのだった。
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