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おいおおいおおい若井かわええな!?
🎧第4話:おそろいの音
涼架side
若井の悩みに触れてから、僕たちの関係は以前よりずっと近くなった気がする。
練習後のいちごミルクの時間は、単なる『リセットボタン』ではなく、お互いの「存在確認」のようなものになった。
若井は相変わらず僕を「相棒」と呼ぶけれど、その言葉には以前よりも深い信頼が込められているのを感じた。
ある日の練習後。
元貴が、新しく購入した機材について話した。
「この間買ったヘッドホンさ、ノイズキャンセリングがすごいんだよ。涼ちゃんにも貸そうと思ったんだけど、今日忘れた」
「へぇ、僕もノイズキャンセリングのヘッドホン、ずっと欲しくてさ。最近、練習に集中したい時に必要だなと思って」
僕が答えると、横でいちごミルクを飲んでいた若井が勢いよく立ち上がった。
「え、涼ちゃんもノイキャン欲しかったの!?」
若井は、目をキラキラさせて僕を見た。
「うん。でも、種類がありすぎて決められなくて。若井はもう持ってるの?」
「持ってるどころか、俺、今めちゃくちゃ欲しいのがあるんだよ!あの、限定カラーのやつ!見た?メタリックなストロベリーピンク!」
「ストロベリーピンク……?」
僕の心臓がまた、変な跳ね方をした。
いちごミルクと同じ名前の色。
「そう!某有名なメーカーから出たやつ。機能は申し分ないんだけど、でもあのピンクがさ、ちょっと派手すぎて手が出ないっていうか……
欲しいんだけどね…」
「派手か…」
確かに、彼の普段のファッションからするとちょっと冒険かもしれない。
「でも、もし涼ちゃんが買ってくれるなら、俺もおそろいにできるじゃん!」
若井は悪戯っぽく笑い、両手を広げた。
「え、どういうこと?」
「いや、だって、俺には派手でも、涼ちゃんには似合う色だし。それに、涼ちゃんが隣で使ってたら『あ、二人で使ってるんだな』って思われるじゃん!そしたら恥ずかしくない。ほら、いちごミルクと一緒」
彼の無邪気すぎる言葉に、僕は思わず笑ってしまった。
若井の「おそろい」への執着心は、本当に可愛らしい。
「なるほど、僕が『盾』になるわけね」
「そう!元貴も持ってるけど、元貴とおそろいじゃ、なんか違うんだよ。やっぱり、涼ちゃんとおそろいがいい!」
彼の言葉の裏には、僕たちの間で育まれた「いちごミルク」の秘密の共有関係を、さらに強固にしたいという、無意識の願望が見え隠れしていた。
それは僕にとって、とても嬉しいことだった。
「わかった。じゃあ、その限定カラーのヘッドホン、見てみようかな」
「まじで!?やったー!」
若井は小さい子供のように飛び跳ねた。
「でもね、若井」
僕は少し意地悪な笑みを浮かべた。
「オンラインで買うのはつまらないよ。どうせなら、現物を見て色を確かめたいし、機能も試したい」
「うん、そうだね!」
「だから、今週末、二人で買いに行かない?」
その言葉は、僕が若井にかけた、事実上の初デートの誘いだった。
若井は一瞬、目を丸くして固まった。
彼の頭の中で「二人きりで」「週末」という言葉が処理されているのが分かった。
「え、二人で……?えーっと、元貴は?」
若井は反射的に元貴を見た。
元貴はヘッドホンをしたまま、チラリと僕たちを一瞥すると、すぐに視線をスマホに戻した。
もちろん、彼は全て聞いている。
「元貴は忙しいでしょ。それに、ヘッドホンは僕たちの問題なんだから、二人で行くのが一番効率的だよ」
僕は努めて冷静に、事務的な口調で言った。
若井は数秒考え込んだ後、顔を真っ赤にして言った。
「あ、うん!行く!行く行く!週末、空いてる!っていうか、空ける!じゃあ、デート……じゃなくて、おそろい作戦会議、ね」
「ふふ、そうだね。『おそろい作戦会議』だ」
若井は頬を掻きながら、どこか落ち着かない様子で笑った。
これで、ようやく一歩前進だ。
僕たちの間の「おそろい」の秘密は、いちごミルクの甘さから、ストロベリーピンクのヘッドホンへと、その形を変えた。
そしてそれは、僕たち二人が、初めてバンドの外で、二人きりの時間を共有するための魔法のチケットになったのだ。
次回予告
[🎀ストロベリーピンクの告白]
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