🎀第5話:ストロベリーピンクの告白
涼架side
週末。
若井との二人きりの「おそろい作戦会議」当日
待ち合わせ場所の駅で若井はいつもの練習後に来ているスウェットとは違う、少し気の利いたブルゾンを着ていた。
いつもの明るい笑顔が、少しだけ緊張を帯びて見える。
「涼ちゃん、お待たせ!なんか、私服で 会うのって、変な感じだね!」
「変だね。僕もちょっと落ち着かないよ」
僕たちは他愛もない会話を交わしながら、目的地である大型家電量販店を目指した。
ヘッドホン売り場に到着すると、若井は目当ての限定カラーのブースへ一直線だ。
「これだよ、涼ちゃん!見て、このストロベリーピンク!」
若井が指差したヘッドホンは、確かに鮮やかで目を引く色をしていた。
彼が普段選ぶような落ち着いた色ではない。
「うん、綺麗だね。若井の言う通り、少し派手だけど、若井のイメージに合ってるよ」
「マジで?涼ちゃんがそう言うなら、勇気出るなー」
若井はピンクのヘッドホンを手に取り、嬉しそうに試着した。
「ほら、似合う?」
「うん、似合ってるよ」
鏡に向かってポーズを取る若井の姿が、どうしようもなく可愛らしくて、僕は思わず笑が溢れた。
若井はそこで僕に、そっとヘッドホンを差し出した。
「涼ちゃんもつけてみてよ。ノイキャンの機能も試してみなきゃ」
僕は受け取り、それを装着した。
世界から音が消え、若井と僕だけの空間になる
「どう?俺の声、聞こえる?」
若井が口元を手で覆いながら、いたずらっぽっく尋ねた。
僕はヘッドホンを少しずらして、若井に顔を寄せた。
「聞こえるよ。びっくりするくらい、若井の声だけクリアに聞こえる」
二人の顔が、驚くほど近くにあった。
彼の髪から、微かに甘いシャンプーの香りがする。
これが、いつものスタジオではなく、二人きりの空間なんだという事実が、僕の心臓を激しく揺さぶった。
「そっか。よかった。ねぇ、涼ちゃん。これ、やっぱりおそろいにしない?」
若井は声を潜め、まるで秘密の取引をするかのように囁いた。
「うん。しようか。僕も練習に集中する時、若井と同じ『ストロベリーピンクの音』が聴きたい」
「やった!じゃあ、決まりだね!」
若井は満面の笑みを浮かべ、店員を呼ぼうとした。
その時、僕は、ふと口をついて出た言葉を止めることができなかった。
「ねぇ、若井。なんで、そんなに『おそろい』にこだわるの?」
若井は立ち止まり、少し真面目な顔で僕を見た
「え?なんでだろう。だって、一人で甘いもの飲むより、二人で飲む方が安心するじゃん」
「……いちごミルクと一緒?」
「うん、一緒。ほら、この間、俺が不安だって話した時。涼ちゃんが隣で『半分こするよ』って言ってくれたでしょ?」
若井は真っ直ぐに僕の目を見て話した。
「俺、あの時、心から思ったんだ。俺の弱い部分も、格好悪いところも、涼ちゃんは何も言わずに受け止めてくれる。俺にとって、涼ちゃんが隣で同じものを飲んでくれることが、もう、音楽よりも強いお守りになってた」
若井はそこで一度、言葉を選んだ。
「だからさ、このヘッドホンも、派手な色一人だと不安だけど、涼ちゃんとおそろいにすればどこにいても、俺は一人じゃないって思えるんだ。……なんか、変な理由でごめん」
若井の瞳は、いつも以上に真剣で、そして無防備だった。
僕の胸は締め付けられるような喜びで満たされていた。
「変じゃないよ、若井」
僕は一歩、若井に近づいた。
「むしろ、僕も同じ気持ちだよ。若井が不安そうな時、僕はいつも、どうしたら若井のその不安を、僕のものにしてくれるだろって」
僕は彼の顔をじっと見つめ、彼の言葉を反芻した。
「若井が、僕を『お守り』にしてくれるなら、僕は嬉しいよ。いちごミルクでも、このヘッドホンでも、なんだっておそろいにしてあげる」
そして、僕は意を決して、最も核心に触れる言葉を付け加えた。
「だから、お願い。僕を、若井にとって一番特別で、誰にも代えられない『お守り』にしてくれないかな」
僕の言葉は、デートのお誘いや、「おそろい」の提案とは全く違う、明確な好意の表明だった
若井は、ストローベリーピンクのヘッドホンを握りしめたまま、言葉を失った。
彼の顔は、ヘッドホンの色よりもずっと濃い、真っ赤な色に染まっていた。
二人の間には、ノイズキャンセリングでは消せない、心臓の鼓動だけが響いていた。
次回予告
[☔️溶けて消えた甘さ]
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コメント
1件
もう告白やん。結婚式の準備しよ