出会えた奇跡を忘れない

｢現実｣

いるまに出会って7日目。約束の1週間。最初は、どうでもいいと思っていた｢生きる｣ということも、最近はとても楽しいものへと変わっていた。考えたくなかった。いるまに出会う前の生活に戻ることを。今までの話は、全部俺の昔話。現実とは別物だ。騙してしまっていたかもしれない。だから今日は、現実を伝えようと思う。

らん)ねぇ、いるま

いるま)ん？らんか…どうした？

らん)今日で1週間だね

いるま)そうだな

らん)いるまと一緒の1週間は、すっごく楽しかった。

いるま)ならよかったよ。

らん)いるまにこれだけは伝えたいって思うから、今から伝えること、真剣に聞いてくれる？

いるま)…おう。

らん)いるま…俺はもう、この世に居ないんだ。

いるま)…は？

らん)俺がいるのは、いるまの想像の世界の中であって、現実ではないんだよ。確かにいるまは俺の事を助けてくれた。一緒に出かけた。それは現実かもしれない、だけど、いるま。思い出せ。俺はもうとっくに死んでる。5年前、お前も俺も17歳だったな。俺とお前は事故にあった。出かけた帰り、母親にばったり会って、押された俺を助けようとして、お前を巻き込んで車に跳ねられた。俺は即死だったけど、いるまは奇跡的に助かったみたい。だけど、俺が死んだことによっているまはおかしくなっていった。感情がなくなってしまって、生きることが、ただひたすら息をするだけになってしまった。いつからか、寝たら俺に会えると思って、1日に何十時間も寝てたっけ？会えるわけなかったんだけどな。お前の感情を取り戻すために、俺は今こうやってお前に立ち向かっている。いい加減目を覚ませ。この世界に俺という存在はもうないんだよ。いつまでも俺を引きずっちゃいられないんだよ。

いるま)…らんは…もう…いない…？

らん)いない。もう少し時間が経てば俺も消えてなくなる。だから1週間。神様に頼んで、1週間だけ貰って逢いに来た。いるまに会いたかったから。

いるま)…そうか…引きずってたんだな…馬鹿だ…(笑)

らん)いるま、生きてる時に言えなかったことがあるんだ。今、伝えてもいい？

いるま)…なに？

らん)助けてくれてありがとう。俺、いるまのことが好きだよ。今までも、これからも。俺の分まで幸せになってね。ずっとずっと愛してる。ｷﾞｭｯ

いるま)俺も愛してる…

いるま)…らん？…らんっ…ｸﾞｽｯ…置いてくなよ…ｸﾞｽｯ

久しぶに泣いた気がする。らんが死んだ日から、ずっと泣いていない。5年ぶりの涙ってことになるのか…らんは今、空で見てくれてるんだよな。らんが笑ったときの顔や、泣いた時の顔、怒った時の顔、全部全部大好きだった。俺、らんの分も生きるから、ずっと見守っててくれよ。俺はらんのことを忘れない。今までもこれからもらんのことが大好きだ。

いるま、ちゃんと届いたよ。好きでいてくれてたこと、本当に嬉しかった。助けてくれた日から、ずっとずっと。愛をくれた事が本当に幸せで、大切なものだった。これから出会う人と、また新しい恋を見つけていってね。俺という存在に引っ張られないで、心から好きだと思える人がきっといるから。その時まで俺は見守ってる。あの日お前と出逢えたことが、奇跡だったこと、忘れない。俺もいるまが大好きだよ。

出会えた奇跡を忘れない＿＿＿。

END