コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「奴隷ですか…」
男達が買い求めていたのは、奴隷だった。
どういう使い方をするつもりだったのかは、二人にはわからない事だが、やはり人が人を買うなんてことは二人には理解しづらい事であった。
「はい。四人から聞いた感じでは愛玩奴隷のようですね」
それを聞いてミルキィから殺気が漏れるのをレビンは感じ取った。
(ひぃぃっ!?これ以上ミルキィを刺激しないでぇ!)
「…全員潰しておけばよかったわ」ボソッ
ミルキィが呟いた声は隣に座るレビンにだけ聞こえた。
(何を!?ナニを!?)
コンコンッ
レビンが隣から漏れ出る殺気に怯えていると、不意に扉がノックされた。
「失礼します。換金が終わりましたので、残金をお持ちしました」
パーティ戦の場でも見かけた職員が、金貨が入っているだろう袋をテーブルに置いた後、退室していく。
「お確かめください」
職員に促され、再び金貨を数えたレビンはゆっくりと口を開いた。
「確かに。他に何かありますか?」
「こちらに受領のサインをお願いします」
出された紙にサインをして、ギルドを後にした。
結局依頼を受ける事の出来なかった二人だったが、休息も必要だと思うことにして、その日はのんびりと過ごすのであった。
そして夜。
「やっぱり奴隷は受け入れ難いわ」
「そうだね。僕達の村では聞いた事もなかったもんね」
二人は何事も皆で協力する小さなコミュニティで育った為、身分制度に疎い。
身分制度ですらそうであるのに、 人をモノとして扱う奴隷制度は感覚的にも道理的にも受け入れ難かった。
「確かに、犯罪者に罰として世の中に貢献できる仕事をさせるのはいいと思う。
でもそれって、奴隷じゃなくても出来ると思うんだ…
もちろん昔の頭の良い人たちが試行錯誤した結果が、それだけじゃないってことはわかっているつもりだけどね」
「そうね。私も仕事自体は凄くありがたい仕組みだと思うわ。
でも、借金奴隷は必要だったのかしら…」
奴隷否定派の二人にかかれば綺麗事のオンパレードになってしまうのも仕方がない。
借金奴隷はその制度のお陰で家族みんなが路頭に迷わなくて済む事も多い。
むしろ国としては、貧困層になんとか働いてもらう為の制度であると言える。
借金が返せなければ奴隷になる。つまり、担保や信用がない人はお金を借りられなかったが、そんな人でも借りる事が出来て、世の中に経済サイクルという渦を巻き起こせる。
実際にこの世界では奴隷制度が広まったタイミングで、野盗に落ちぶれる人や、不作の時に出る餓死者が減っていた。
この世界は弱者をモノとして扱わなければならない、まだまだ不完全で不健全な世の中なのだ。
二人は折角の休息日に気疲れをして眠りにつくことになってしまった。
「今日こそは依頼を熟すわよ!」
翌朝、宿の自室には元気な二人の姿があった。
夜寝て、朝起きて顔を洗い、朝食を摂れば、若い二人には充分な休息となる様だ。
「うん!昨日の採取依頼が残っていると良いなぁ」
「昨日話していた依頼ね。良いと思うわ」
ミルキィは知らない薬草だったが、それでも薬草に違いなく、自分が活躍できるのではと考えていた。
そんな期待を胸に、ギルドを訪れた二人が見たものとは……
「冒険者って、こんなにいたんだね…」
「ええ…これだけ居たら昨日みたいな奴らがいても不思議じゃないわね…」
朝に張り出される依頼の争奪戦が始まろうとしていた。
そのお陰か、二人がギルドに入ってきても、誰一人として視線を寄越す者はいなかった。
置いてある依頼ボードが撤去され、新しい依頼ボードが定位置に置かれるが、誰一人として動かない。
「では、本日もよろしくお願いします」
ギルド職員がそう告げると、一斉にボードへと冒険者が群がっていく。
「律儀に待っていたのはペナルティのお陰かな?」
「そうでしょうね。どちらにしてもあの中には入りたくないわ…」
ボードに群がる冒険者の中には女性もちらほら見える。ミルキィは『これが真の男女平等ね…』と揉みくちゃにされながらも奮闘している女性冒険者を心の中で応援していた。
次に混むのは受付である。
二人はカウンターの向こうに所狭しと並んだ受付の職員を見て『あんなに受付の人いたんだ…』と思った。
ボードが空いてきたタイミングで二人は依頼を見ることに。
「昨日の依頼がないね…」
「取られたのかしら?」
少し残念そうにしている二人の前に、先程ボードを撤去していた職員が割り込み、依頼を貼り直していた。
「あっ!あの依頼だ!」
パシッ
「間違いないよ!良かったぁ」
すでにボード付近は閑散としていたが、狙っていた依頼を取られないように、レビンは素早く依頼票を抜き取った。
その依頼票をもう一度確認したレビンは、それが求めていたモノであると再認識し、安堵する。
「良かったわね。でも何故かしら?さっきまでは無かったと思ったけど…」
二人が安堵と疑問を感じていた時、依頼を貼り直していた職員が二人に話しかけてきた。
「前日の残り分は朝には一度撤去されます。昨日受理されなかった依頼を朝から並んで取る人はいませんから」
端的に告げた職員は一礼後、カウンターの奥へと消えていった。
「そうだったのか…でも、僕達にとってはラッキーだったね!」
「そうね。知っていたらもう少しゆっくり出来ていたけど…仕方ないわ」
どこの世界の女性も、朝は忙しいのだ。男?顔を洗っておしまいだろう。
「おはようございます!これをお願いします!」
カウンターが空くのをさらに待ち、空いた所へと依頼書を提出した。
「おはようございます。タグをお願いします」
パーティの為、リーダーであるレビンのみ提出した。
「はい。もう大丈夫ですよ。依頼の期限は一月ですので、超過しないようにお願いします」
「わかりました。後、地図は売っていませんか?」
「ありますよ。ミラード冒険者用の物があります。銀貨5枚掛かりますがよろしいでしょうか?」
「はい!お願いします!」
レビンは地図を手に入れた。
ミラード冒険者用の地図は、このギルドで受ける依頼の範囲を凡そ網羅してある物である。凡そというのは、銀ランク以上の依頼だと王都までの護衛依頼などがある為だ。
地図を受け取った二人は依頼を遂行するために、意気揚々とギルドを出るのであった。
「どうも地図によると、目的地は国境の近くで片道半日以上になるから、一先ず宿に帰って足りないものも買ってから向かうことにするね?」
「わかったわ」
二人は宿に帰り、旅の支度を済ませると元々連泊分は支払っていた為、不足の事態に備えて追加で3日分程を追加で支払い、旅の支度プラス貴重品を持って宿を出た。
「いらっしゃいませ。何をお求めでしょうか?」
二人は冒険者ギルドで職員から聞いていた雑貨屋に来ている。
「寝袋と傷薬をください。あ。後、解熱剤もあれば」
元々一泊だけの予定なので、テントや毛布は嵩張るため持ってきていない。
村を出る時に持ってきていた傷薬は吸血の時に使い切った為、新たに購入することに。解熱剤は用心のためだ。
「ポーションもありますが、塗り薬でよろしかったでしょうか?」
「はい。擦り傷程度の治療に使えたらそれで構いません」
この世界には錬金術師と呼ばれる職業がある。
数々の魔物素材や薬草を調合して、薬や道具を作る人たちのことだ。
ポーションは錬金術師が作る代表的な日用品である。
日用品という事で、もちろん価格は庶民に手が出るものだが、中には家よりも高い物も存在する。
しかし、レビン達村人には馴染みがないのも実情だ。
原因はこの世界の物流にある。一般的な移動手段が徒歩、又は馬車であるため、余程高価で利益の上がる物か、必ず売れるものしか別の街に回らないのである。
ポーションは少し粘度の高い水のような液体である上に、保存に気を使わなければならない為、瓶詰めだ。
ガラス製品はあるが、ガラス故に割れる。つまり馬車の振動で割れるリスクを負って、態々小さな村に運ばないのである。
以上の事から、レビン達は生まれてこの方ポーションを見たことがない。見たことはなくとも存在は知っている程度なのである。
使った事がない馴染みのない薬を使う事に誰でも抵抗があるように、レビン達冒険者にとって死活問題になる現場での怪我の治療に、それを躊躇なく使うことが出来るのか?という事が大きく影響し、今回は傷薬にしたというわけである。
傷薬は、ガウェインで採取した薬草を綺麗に洗い、根を切り分けて天日干しした後に~…のような工程で、普通の人でもその気になれば作れるものであり、そういったモノを作る人のことは錬金術師とは呼ばず、薬師と呼ぶ。
この街にポーションがある事から錬金術師がいる可能性は高く、ポーションに馴染みのある冒険者は傷薬ではなくポーションを使う事が多い。
しかし、全く傷薬を使わないわけではない。傷薬より高価なポーションは怪我の具合が大きい時に使い、日常生活での擦り傷程度であれば傷薬を使っている。
そういった需要と供給のバランスがこの世界では保たれている。
しかし、知らないモノは知らないのだ。レビン達は傷薬と解熱剤と寝袋を購入し、背嚢に詰め込むと店を出た。
向かうは未知の地。何が待っているのか、レビンの冒険は始まったばかりだ。
レベル
レビン:7(40)
ミルキィ:33