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「………」
執務室。
誰も居ない静寂を感じながら、私は筆記していた。
中也が死ぬ未来を変えるには、先ずソレに至った原因と経緯をまとめる必要がある。
静かな空間に、カリカリとペンを走らせる音が響く。何処か心地いい。
特異点を起こしたのは資料に書かれていた異能犯罪者の最年長で、私達が対峙した触れた物質を操る異能力者の兄であった。
然し芥川君に依ると(もしもの世界で太宰治が聞いた)、彼は少年だったと言う。
特異点を発動させた途端、青年の姿になったのだ。
問題なのは、彼が特異点を発生させない未来もあったと言う事。
ならば何故、彼は必ず死ぬ行動に出たのか。
一つの可能性が浮かび上がる。
其れに私は────顔を顰めた
あの青年は────自死する為に特異点を発動させたのだ。
***
──うっ……うぅ…ヒクッ……ゔぅ…
『大丈夫、泣かないで』
──兄さん……兄さんは、何処にも行かないでね……ずっとオレのそばにいて…
『あぁ、分かってるよ』
──母さん達みたいに勝手に居なくなるのも…ダメだよ……
『うん。大丈夫だよ。ボクがずっとお前のそばに居る』
──何も判らない。ねぇ?〇〇
──うん。何も判らないよね。✕✕
『ならボクが君達を導いてあげるよ』
──…………
『如何して何も喋らないんだ?』
──…………
『…じゃあ、ボクが君に言葉を与えてあげる』
『大丈夫だよ』
『辛かったら云えばいい』
『寂しかったら云えばいい』
『皆んなで慰め合おう』
『そうすれば、もう何も怖くない』
『辛いのも痛いのも悲しいのも嬉しいのも、皆んなで分け合おう』
『大丈夫…』
『ボクが居れば────皆んな強くなれる』
***
「駄目だよ兄さん!確かに◇◇◇の植物を操る異能は強いけど!護衛が一人だけなんて危険すぎる!!」
「アタシも…そう、思…いますッ……」
「〇〇は如何思う?」
「どっちでもいいと思う!✕✕は?」
「僕もどっちでもいいと思う!」
「同じだね!」
「うん!同じだね!」
「少し落ち着きましょう。それに、あの子はちゃんと私が守るから大丈夫よ」
「でもっ…」
『大丈夫だよ…!』
そう云って、ボクは恐竜の人形を抱え乍ら四人の側へ寄った。
「──っ!兄さん!」
『何も心配いらないよ、だって……』
『ボクが居れば皆んなは強いもん!』
***
じくじくとした燃えるような痛みが皮膚に降り注いだ。
熱い。熱い。
全身が捩れて張り裂けそうな感覚がした。
痛い。痛い。痛い。
先刻まで煩い程響いていた心音が小さくなっていった。
苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。
ぼやけた視界に入るのは歪んだ景色だった。
辛い。辛い。辛い。辛い。辛い。
ふと、何かのヒトカゲが見えた。一瞬、獣と勘違いした。
痛い。苦しい。辛い。熱い。
あぁ、でも────
これでボクは漸く──────解放される…
***
轟音が響き渡った。
目を見開き乍ら、立った物質を操る少年は原因不明の轟音が聞こえてきた方を向く。
恐怖と不安が少年を埋め尽くした。
少し開いた掌には何も無い。あった筈の、柔らかな布と綿で作られた恐竜の右足が。
ソレは、少年の兄の異能──異能増幅の条件に必要なモノだった。
少年の兄は、自分の恐竜の人形の一部を所持──または体内に取り込む事が異能の発動条件となる。
然し少年が持っていた依代は消えた。
ソレが何を意味するのか────其れは青年の死を意味するのである。
刹那、少年が立っていた土壁がボロッと崩れた。
「っ!ぅわ!?」
少年は地面に一直線に落ちていく。
然し次の瞬間、少年が感じたのは痛みではなく、柔らかな体温だった。
固く閉ざした目を開くと、其処には虎の異能力者──中島敦が少年を受け止めていた。
「大丈夫!?」
敦は顔を曇らせて聞く。
「人虎貴様、敵を助けるなど…!」
「この子はまだ子供なんだぞ!ていうかお前!僕が見張って無いのを良い事に人殺してないだろうな!?」
芥川を指して、睨み乍ら敦は云った。
「愚者め、僕約束はまも──」
刹那、衝撃波が三人に直撃した。
「「「っ!?」」」
それは数秒続いた後、側の周りの空気を飲み込んで共に消える。
次に見えたのは青白い光であった。
「あれ……太宰さん、?」
敦が口先から声をこぼす。
そんな中、少年は何かを感じ取っていた。
「っ、兄さ……」
今にも消えそうな掠れた声で、少年は云う。
少年にとってあの空間は優しい場所であった。仲間であり友人であり家族であった。
ソレを──少年は失ったのだ。
悲痛の感情の苦しさに涙を流した。 絶望と悲しみが少年の瞳に混ざり込む。
「何でッ……どうして…!!」
「……」
敦は少年を見て、周りを確認した後立ち上がった。
涙で顔がぐしゃぐしゃになってしまった少年に、敦は手を差し伸べる。
「此処は危険だ。取り敢えず君も避難し──」
「人虎!避けろ!!」
芥川の声に敦が漸く気付く。
視線を後ろに移すと、先が鋭く尖頭の形をした土の塊があった。
少年の異能である。
此の状況でも闘う心算か!?
敦は脚を虎化して、向かってくる少年の攻撃を避ける。
然し次の瞬間、予想外の出来事が 敦と芥川の目の前で起こった。
──ドスッ…!
尖頭が、少年の心臓を貫いたのだ。
「な…ッ!?」
「…!!」
二人は目を見開く。
そんな中、少年は薄っすらと笑みを浮かべた。
「兄さん……オレも今、地獄に逝くよ…」
***
轟音と悲鳴。そして下された命令に従い、走って逃げていく者達の足音。
そんな中、二人の少年少女がぼうっとし乍ら、不明の轟音が聞こえてきた方を見つめていた。
「凄いねぇ、〇〇」
「そうだねぇ、✕✕」
その者達は双子であった。
口元に永遠の笑みを浮かべ乍ら双子は話している。
「ーーさん、死んじゃったねぇ」
「そうだねぇ、皆んな死んじゃったねぇ」
「これから如何する?」
「如何しよっか?」
感情の込もらない声で双子が話していると、退避の掛け声をしていた国木田が二人に気付き、声を張った。
「お前達も疾く此方へ来い!巻き込まれるぞッ!」
国木田はそう云って双子の方へ駆け寄る。
双子は、国木田を見なかった。
見ていたのは、酷く透き通った夜空であった。 まるで其処に、ナニかがあるかのように──。
「ねぇ〇〇。✕✕たちも、一緒に逝こうよ!」
「そうだねぇ✕✕。〇〇たちも──」
笑顔で見つめ合うと、双子は懐から鋭く光る刃を取り出した。
そして横に振る。
「「一緒に死のう!」」
刃は互いの首筋を切り、其処から赤い飛沫が宙に舞い上がった。
むせるような血の匂いが辺りを包み込む。
「なッ…!?」
唐突な事に国木田は絶句した。
助けようと双子を掴む筈だった国木田の手は、行き場を失くす。
「──っ!クソッ…!!」
物として変わった双子の躰を、国木田は優しく抱き上げた。
***
『────あれ?』
気がつくと薄暗い空間にボクはぽつりと立っていた。
掌を見て無傷なのを確認した後、辺りをキョロキョロと見渡す。
矢張り、何も無かった。
ボクは…死んだ筈じゃ……。
「ぁ、ーー!」
遠くから、ボクの名を呼ぶ声が聞こえる。 視線を移すと、其処には◇◇◇が居た。
「ご免なさい、ーー!私が気を失って……あの後は大丈夫でしたの!?」
あの後…?
あぁ、成程。
ボクは彼女を巻き込んだのか……。
そうなると──・・・
『……大丈夫だよ◇◇◇。これから皆んな此処に来る。ボクはあの子達を迎えに行くから、◇◇◇は先に行っていて』
優しく微笑んでボクは云う。
「行くって……何処にですの?」
その問いに、ボクは後ろへ振り返った。そして指を指す。
『彼方だよ。ほら、光っているのが見えるでだろ?其処に行けば良い…』
「……判ったわ」
彼女はそう云って、ボクが指した方へと走って行った。
ボクは小さく安堵する。
そして其の後、皆んなと再び会った。
「ーーさん此処何処?✕✕判らない……ねぇ、〇〇」
「そうだよねぇ、✕✕……〇〇も判らない」
双子は手を繋ぎ乍らボクの方を見る。 問いの答えを待っているのだ。
──君たちを導いてあげるよ
かつて、ボクが二人に云った言葉。
だからこそ、せめて、最後まで………。
ボクは◇◇◇を向かわせた方向に再び指を差した。
『彼方に行くんだよ。先に行った◇◇◇が待ってる』
「判った!また後でね、ーーさん!」
「また後でね!」
そう云うと、二人は手を繋ぎ乍ら歩いて行った。
『………』
「……ぁ、ーー様ッ!」
少女が焦りと安堵を混ざらせた表情でボクの元へ駆け寄ってくる。
矢張り、皆んなボクの後を追ったのか……。
『今皆んなを迎えに行っている途中だったんだ。◇◇◇達と合流して彼処に向かわせたから』
そう云って、ボクは光の方へと指を指す。
『君も其処に行くんだ』
「……ーー様がそう仰るなら…」
彼女は敬愛に満ちた瞳で云うと、小走りにボクが指した方へ進んで行った。
静寂が広がる。
これ以上、誰にも会いたくなかった。
『……』
「兄さん!良かった!やっと見つけた!!」
何度も聞いた声。
忘れたくても忘れられない程、耳に馴染んでしまった声。
その声が聞こえた瞬間、ボクは何とも言えない感情に包まれた。
怒り。焦り。諦め。悲しみ。喜び。
全ての感情が混ぜ込まれ黒く変化した感情。
あぁ、あぁ。
矢っ張り、お前まで着いてきたんだな。
ボクは手を後ろに回し、笑顔を作った。
『ボクも会えて良かった。お前の方こそ大丈夫か?』
「ぅ、うん………ぁ…ねぇ、兄さ」
『実は今、皆んなを迎えに行っていた処だったんだ。まだ皆んなに会えてないから、お前は先に行っててくれないか?』
そう云って、ボクは全員が行った、光の方を指す。
皆んなに会えてないなんて嘘だった。
ボクの所為で汚してしまった彼らの魂に対する罰を、ボクが全て受ける為。
皆んなには、天国に行ってもらわないと。
せめてものボクの償いだ。
「──嘘でしょ」
『ぇ…』
ボクは目を見開く。
「だって、兄さん……嘘つく時、手を後ろに回すもん!其れに目だけ笑ってないし!オレのことを見てくれない!!」
其の時初めて、自分に妙な癖が付いていることに気付いた。
そして其れを弟が気づいて居たことも。
「本当は皆んなもう来てるんだ!なのに何で嘘つくの!兄さんは──一体何処に行く心算なの!?」
弟は荒くなった息を整えた。
ボクは目を見開く。
此奴が感情を荒げるのは、何時もボクが何かに関わった時だ。
それ以外は表情をあまり動かさない。
皆んなといる時に、微笑するくらいだ。
あとは────殺戮をしている時。
ボクの所為で。
ボクなんかが中途半端に“生きる意味”を与えた所為で。
皆んなこんな風になるんだ。
『 何云ってるんだ?ボクは嘘なんか──』
笑みを作って言葉を発するボクに、弟が抱きついてきた。
まるで二度と離さないとでも言うように、しがみつくように強く。
「兄さんが何を云ってもオレは兄さんに着いてってやる!絶対、離さない!」
『──ッ!』
熱が大波になって頭に押し寄せる。
気が付いたらボクは──怒りに身を任せていた。
ドンッ!!
ボクは弟を勢い良く押す。
「ぅわ゙ッ…!?」
頭に血が上った。
思考が停止していた。
髪を握りしめ、熱を感じ乍ら俯く。
『…だ……離さない…?巫山戯るのも大概にしてくれよ……』
腹の底に眠っていた何かを、言葉を────ボクはブツブツと吐き出していた。
「兄さ…?」
『やっとッ!!』
「ッ…!」
『やっと死ねたんだ!漸くお前達から解放されたんだッ!!なのに如何して──』
『如何して此処まで着いて来るんだッ!!?』
「………」
弟の表情を見て、ボクは発した言葉の愚かさに気付いた。
『…ぁ、』
咄嗟に口元に手を寄せる。
汗が浮き出た。
焦り。後悔。怒り。
負の感情が混濁して、ボクの思考を狂わす。
「ッ…、兄さん……」
弟は地べたに座り込んだまま、何処か震えた声で呼んだ。
ボクは奥歯を食い縛る。
そして荒々しく弟の腕を掴んで無理やり立たせた。
力を込め乍ら、ぐいぐいと引きずるように前へ進む。
「に、兄さん!痛いよッ!離して!」
そう弟が声を上げて立ち止まろうとする度に、ボクは弟の腕を掴む手に力を入れる。
向かっていたのは、皆んなが行った光の先だった。
光の奥に扉が見える。
其の扉は少し開いていた。先に向かわせた皆んながこの中に入って行ったんだろう。
「離してよ兄さん!ねぇってば!!」
とうとう弟は、掴まれていない方の手でボクの背中を殴り始める。
『………』
けれど、痛くはなかった。
ボクを殴る寸前に、弟は無意識に力を緩めているんだ。
それ故に、痛くない。
弟は優しい。
そうだ。
其の通りだ。
此奴は優しいんだ。
こんなにも小さい子供に殺しを教えたのは誰だ?
──ボクだ。
孤独に包まれた子供に、中途半端な優しさと生きる意味を与えたのは誰だ?
──ボクだ。
何時だって、此奴はボクに着いてきた。
そうだ。
全部、ボクの所為なんだ。
ボクの────
『……』
ボクは扉の前に立ち止まる。
弟も扉の存在に気付いたのか、抵抗する力が少し緩んだ。
其の瞬間────ボクは弟を抱き締める。
「──に、兄さん…?」
弟の心音が、嬉しそうに跳ね上がる。
ボクは抱き締めるのに少し力を加えて、そして呟くように云った。
『ごめんな』
ぇ、と唇から溢れたような震えた声が、弟から聞こえる。
扉の向こうに向かって、ボクは弟を押した。
先程とは違って優しく、けれども力強く。
「──ッ!!」
弟は、自分の躰が宙に浮いた瞬間に全てを理解した。
ボクの方は手を伸ばしていく。
けれど其れは届かずに、真っ直ぐに落ちて行った。
何か叫んでいる。
泣いている。
何を云っているのか、ボクは聞こえなかった。
『………』
暖かい…。
扉の向こうは柔らかな光を放つ天空だった。
“天国”
そう云った方が正しいだろう。
罰を受けるのは──罪を償うのはボクだけでいい。
皆んなは関係ない。
『これでいいんだ。ボクが全部、償うから──』
「十六の餓鬼が何云ってンだ」
後ろから其の声が聞こえてきた瞬間、背中に仄かな痛みと押されたような負荷がかかる。
『っ!?』
蹴られたッ?
視線を移すと、◇◇◇と戦っていた男が居た。
ポートマフィア幹部──中原中也!?
ボクは目を見開く。
けれど何よりも驚いたのは、自分が蹴られた先が扉の中だと云う事だった。
「手前等は仲良く天国でも行っとけ」
ニッと笑みを浮かべ乍ら中原中也は云う。
『なッ、如何して…っ!』
ボクの問いに、中原中也は息を吸って口を動かした。
けれど視界に入ってきた雲によって姿が見えなくなる。
声も聞こえない。
あぁ、あぁ。
落ちていく。
落ちていく。落ちていく。
漸く死ねたのに。
漸く解放されたのに。
『っ……如何、して…』
──仲良く天国でも行っとけ。
最悪だ…
なのに如何して……
涙が溢れる。
こんなにも嬉しいんだ?
「……」
目の前にあった光の扉が消えた。
闇の中を中也は歩く。
「ったく、一家心中に俺を巻き込むンじゃねェよ…」
歩き乍ら中也がブツブツと呟いた。
「つーか、流石にもう既に死のうとしてねェだろうなァ?太宰…」
何処か懐かしむように、小さな喜びに深い悲しみが混じった声色で云う。
「ま、そう簡単には死ンでこねェか。周りが佳い奴等ばっかだもンな」
乾いた笑い声を上げた。
然し其の後、其の笑みは消えて、憂えた表情をする。瞳に哀愁が混じった。
「あンま疾く彼岸来ンじゃねェぞ。太宰……」
***
お久しぶりです。3年ぶりの投稿ですね。
自分でもビックリです。
下書きが残ってたのでちょっと添削しました。
今回は、亡くなった者たちのお話です。
元々このお話は前に使用していたスマホで書いていたので、そっちに全部のデータがあるのですが、馬鹿なことにスマホのパスワードを忘れてしまったので、データが見れなくなりました。
パスワードが解除できる可能性も低いです。
そのため、この作品は今回のお話で最後になると思います。
申し訳ないです。。。
因みにこの後、太宰君は中也を救うために奮闘する予定でしたが、それについても既に記憶から飛んでいる(データも見れない)ので、お教えすることも書くこともできません。
本当にこのポンコツ頭をどうにかしたいですよね。
それともう一つ、別の界隈に首まで突っ込んでいる状態なので、新作を書く可能性も低いです。
あとただ単に文章力が落ちました。
たまに暇になった時に戻ってくるとは思うので、その時は暖かく迎えてください。
それでは、またどこかでお会いしましょう。
コメント
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お久しぶりです! また会えて嬉しいです✨