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夏目莉央
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くま🐻☁️
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※
しかし早速、朝倉家の人間になるべく、私を待ち受けていた試練があった。
「私たちの結婚披露宴の招待状が配られているって、どういうこと?」
月曜日に出社すると、とんでもないことが起こっていた。
『この度、結婚式を挙げることとなりました。つきましては……
新郎 朝倉祐二
新婦 牧野瞳子 』
身に覚えのない私たちの結婚披露宴の招待状──。
三田さんに届いたという謎の招待状を見せてもらう。
紙を持つ手が、みるみる震え出した。
「な、なにこれ?」
「結婚式、コソコソ計画していたんですね! 瞳子さんはいっつもサプライズ報告なんだから!」
「どういう……こと?」
自分の声まで震えているのがわかった。これは完全にホラーだ。
「鳳凰ホテルを選ぶだなんて、さすが朝倉くんと瞳子さんですね!」
水谷さんが嬉しそうに言った。
そこで初めて、私は会場名を知った。
「当事者が知らない結婚式って……なんなの?」
頭の中が真っ白になる。
もしかして祐二が計画を立てた?
いや、もう結婚したのだから、こんな強引なことをする必要はない。
では、一体誰がこの招待状を出したのよっ。
「ごめん、これ借りるね!」
私は招待状を握りしめ、そのまま祐二のもとへ走った。
彼は新入社員研修に関わるため、その打ち合わせ中のはずだ。
会議室に着く前に、前方から祐二が走ってくるのが見えた。
「瞳子さん! 見てください、これっ! なぜか結婚式の──」
そう言いかけて、彼は言葉を止めた。
なぜなら、私の手にも同じ招待状が握られていたからだ。
「え? 瞳子さんも知らない……そうですか?」
息を切らした祐二が訊ねる。
肩で息をする私は、黙って頷いた。
「なら、これは一体、誰が……」
祐二が訝しげに招待状を見つめる。
「会場は鳳凰富士ホテル。このホテルを選ぶのは、あの人しかいないわよね?」
私は確信していた。
多分、犯人はあの人だ。
私の言葉に、祐二も心当たりがあったらしい。
「まさか……母、ですか?」
「それしか思いつかないわ」
「あの魔人……しおらしくしていたのに、こんな余計なことをっ」
祐二の額に、めずらしく青筋が浮かんだ。
「確認しますっ!!」
祐二は招待状を握りしめ、私と一緒に休憩コーナーへ移動した。
そして、美麗さんに電話をかける。
待ち構えていたかのように、美麗さんはワンコールで出た。
「職場に僕たちの結婚披露宴の招待状が配られていました。これは母の仕業ですねっ?」
「そうよ」
あまりにもあっけらかんとした返事だった。
「何を考えているんですかっ!」
怒る祐二とは対照的に、美麗さんはいたって冷静だった。
「祐二、私はあなたを駐車場であんな破廉恥なことをする息子に育てた覚えはないわ」
「なんのこと……っ」
祐二の顔が固まった。そして、次の瞬間。
「まさか、あの防犯カメラ、覗いていたのは母上なんですかっ??」
あの駐車場での出来事が、一気に脳裏によみがえった。
あの時は、てっきり黒川さんだと思っていた。
まさか犯人が美麗さんだったなんて。
祐二は見る見るうちに顔を赤くして、頭を抱えた。
「自宅の防犯カメラだもの。私だって見るわよ。本当にあなたたち動物ね。節度を持ちなさい」
祐二は言い返せない。耳まで真っ赤になっている。
今にも頭から水蒸気が噴き出しそうなほど発熱していた。
さすがに母親に目撃されるのは無理らしい。
「困った息子だわ。だから、さっさと結婚式をあげて一人前の男になりなさい。そして、あなたの責任で選んだあの嫁を、皆さんに披露するのよ」
「あー……」
祐二から、ふっと力が抜けた。
さっきまで真っ赤だった顔が、今度は驚きに変わる。
私たちが、美麗さんの本当の優しさに触れた瞬間だった。
私を嫁として紹介する。
それは、美麗さんが私を朝倉家の人間として受け入れてくれた証拠だ。
胸の奥が熱くなる。
私は思わずスマホを握る手に力を込めた。
美麗さんは本当に不器用な人だけど、何が愛なのかをきちんと理解している人だ。
私は改めて、美麗さんのことが好きになってしまった。
「感動して涙を流している場合じゃないわよ」
「ん?」
「結婚式は三週間後。招待客は八百人よ!」
「…………え?」
感涙に浸っていた私たちは、一瞬で現実に引き戻された。
三週間後?
八百人?
思わず祐二と顔を見合わせる。
二人とも、言葉が出ない。
((規格外なんですけどっ))
「なぜそんなに急なんですか!」
祐二が思わず叫ぶ。
「私の都合よー」
間延びした美麗さんの声が、なぜか腹立たしかった。
「我々の結婚式なのに?」
「私が行かないと意味がないでしょう? そこに牧野瞳子はいるわね?」
私がいることは、わかっていたらしい。
スマホのスピーカーから聞こえる美麗さんに向かって、私は「はい」と返事をした。
「場所は鳳凰富士ホテル。あなたに配慮したわよ」
「ありがとうございます。本当に……」
「感傷に浸ってる場合じゃないわよ。これから招待客リストを郵送する。すべて朝倉家の仕事に関わる人物よ。失礼のないよう、式までにすべてデータを頭に叩き込みなさい!」
((ひぇー、無理ですって))
思わず肩が落ちる。
三週間で八百人。
しかも、全員の顔と仕事を覚えろというの?
「ただで幸せを掴むなんて甘い! 朝倉家の嫁なら、自分の手で幸せを掴み取りなさい」
「……はい。ありがとうございます」
その言葉に、私は背筋を伸ばした。
本当に、その通りだ。
このまま祐二におんぶにだっこではいけない。
私も祐二の手伝いができるように努力しなければならない。
それを美麗さんが、こうして教えてくれている。
これだから美麗さんは最高だ。
私の負けん気を引き出して、やってやろうじゃないのって思わせてくれるんだから。
「わかりました。お義母さん、私はやってみせますよ!」
「ふふふ。楽しみね」
電話の向こうで、美麗さんが笑った。
その声を聞いて、私は思った。
美麗さんは、自分を取り戻したのだ。
やはり美麗さんは、憎まれっ子のほうが生き生きしている!
そして私は、そんな家族ができたことが、なにより幸せだった。