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夏目莉央
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くま🐻☁️
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※
四月吉日。
私たちは晴天に恵まれた。
日差しを浴びると、春の温かさが心地よく感じられる。
式場にはミモザやピンクのチューリップ、鮮やかな緑が飾られ、会場をより春らしく演出してくれていた。
花嫁の控室。
私は姿鏡の前で、ウェディングドレスの最終チェックをしてもらっていた。
これは祐二と一緒に選んだドレスだ。シルクで仕立てられた、純白のドレス。
(生地がシルクなだけに、光沢が美しい……)
着ている本人でも見惚れてしまうほどだ。
コンコンと戸を叩く音がして、「どうぞ」と返事をする。
戸がカチャリと開いた。
満面の笑みを浮かべた李人が入ってきた。
「姉さん、おめでとう!」
まだ二ヶ月しか離れていなかったのに、黒いスーツを着こなす李人が、一回りも二回りも大きく見えた。
再会が嬉しくて、私はすでに涙が溢れそうだった。
「李人! おかえり!」
私はゆっくりと立ち上がった。
その後ろから、祐二も一緒に入ってきた。
「まさか、こんなに早く結婚するとは思わなかったよ!」
頬を上気させて、李人が喜んでくれる。
「うん。私も驚いている……」
すると李人が、私のウェディングドレスを見回し、不思議そうな顔をした。
「ドレスはとても綺麗だね。だけど、なぜそんなに肌を隠すの?」
当然の疑問だ。
ウェディングドレスには、背中やデコルテ、腕などを露出するデザインもある。
しかし、私はそれを選ぶことができなかった。
なぜって、
「私が肌見せ禁止令を出したからです」
私の夫、祐二が肌の露出を極力抑えたデザインを推したからである。
だから私のドレスは、ハイネック、長袖、ロング丈。露出は顔と両手のみだった。
李人が「へ?」と呆気にとられる。
祐二はそんな李人に気づくことなく、ニタリと悦に入っていた。
「瞳子さんの透き通る肌は僕だけのものです。参列者の見世物になる必要はありません」
ついに祐二の異常性が、李人にばれる時が来た。
李人は口を半開きにして、祐二を見つめている。
ところが。
「義兄さん……わかります、その気持ち!! 大好きだから僕だけのものってなりますよね!」
(わかるの? 李人もそっちなの?)
李人の祐二を見る目が、尊敬の眼差しになっている!
「その通りです。さすが僕の弟、気が合います」
二人は顔を見合わせ、ニコニコと笑っている。
この二人、前世では兄弟だったのかもしれない。そう思わせるほど、親和性が異常に高い!
でも、それが今でも私の安心につながっている。
そんな二人を見て、私も笑みがこぼれた。
コンコン。
再び戸を叩く音が聞こえた。
ここは新婦の控室。私には親族がいない。
誰だろうと不思議に思っていると、李人が戸を開いた。
現れたのは──朝倉美麗、私の義理の母!!
しかも、その服装に一同が驚愕する。
白のハイネックシャツの上に若草色のハンティングジャケット、ぴったりとフィットするパンツにニーハイブーツ!!
(結婚式に欧州貴族の狩猟服⁉)
美麗さんは手を腰に置き、仁王立ちしている。
その姿が様になっていた。
「母上⁈ 息子の結婚式になんという服装ですか!」
間髪を入れずに、祐二が美麗さんに突っ込んだ。
美麗さんは、なぜか嬉しそうに笑った。
「これが私の真骨頂だもの。主役が地味なのよ」
私を下げることも忘れていない。
(女帝の復活だ!)
私はなぜか嬉しくなってしまう。
美麗さんのこの憎まれ口を聞くと、なんだか安心する。
美麗さんの生命力が復活している。
どんな形であれ、家族に関心を持たれることが、美麗さんにとって生きる活力になるのだ。
まさに、憎まれっ子世に憚る!
「お義母さんも元気で何よりです」
私がそう言うと、美麗さんは笑った。
アイライン、深紅の紅にも負けない、あの顔で。
「ふふ。私はまだくたばらないわよ」
「母上! また何か企んでいるのですか? 今日は私たちの結婚式なんですから、大人しくしていてくださいっ」
祐二が焦るほど、美麗さんは楽しそうに頬を上げる。
「朝倉家の事業は息子にくれてやって、清々しているの。これからは自分の好きなように生きる。黒川」
「はい」
美麗さんの後方から、黒川さんが進み出た。
燕尾服の内ポケットから、一枚の写真を取り出す。
その写真には、不透明な白色で光沢のある石が写っていた。
それを見た祐二が、あっと驚いて顔を上げる。
「まさか、これはっ……見つけたのですか?」
「なんですか、これ?」
私が訊ねる。
美麗さんが不敵な笑みを浮かべて口を開いた。
「歴代中国王朝の秘宝、羊脂白玉よっ!」
「まさかっ」
祐二が驚愕するということは、歴史的に価値が高い骨董品なのだろう。
有名日本画家の未発表作品を発見した美麗さんだ。この人の骨董品ハンティングの嗅覚は、なんと並外れているのだろう。
「昔、父と中国で探し回っても見つけることができなかった。あれから東南アジアで重大な情報を掴んだの」
「探しに行くのですか?」
「アンティークハントに出るわ! 蒐集家、鳳美麗の名に懸けて、必ず見つけ出す!!」
自信と自尊心を取り戻した美麗さんの顔は、生き生きとしていた。
祐二はいささか動揺している。
「こ、これからですか?」
「式が終わってからよ。その足で直行よ!」
この人は、規格外の発想と行動力を持っている。
私はワクワクしてしまう。
「お義母さん、素敵です! 精一杯、楽しんできてください!」
そんな私を、美麗さんがじっと見つめてきた。
「でも……最後の仕事をしないとね」
「え?」
「瞳子さん、朝倉家に生半可な優しさは要らない。この家に必要なのは、実務能力のみ!!」
「実務……ですか?」
「これから関係者にご挨拶回りをしてもらうわ。当然、リストは頭に入っているでしょうね?」
腕を組みながら、私を覗き込む美麗さん。
「はい。もちろんです。顔と名前、所属会社に役職、趣味。リスト情報は完璧に覚えてきました」
「よろしい。今後も朝倉家のために、骨身を惜しまないことね。では、後ほど」
ほほほっと高笑いをしながら、美麗さんと黒川さんは部屋から退室した。
「瞳子さん、あまり気負わないでくださいね」
祐二がそう気遣ってくれた。
だけど、朝倉祐二と結婚するなら、覚悟を決めないといけない。
それが、美麗さんからのメッセージなのだと思った。
「私は美麗さんを驚かせたいから、やってやるわよ」
「瞳子さんがそう言ってくれると、僕も嬉しいです」
彼がそう言って笑ってくれる。
それだけで、今が幸せなのだと実感できる。
雨降って地固まる。
すべての憂いは晴れ、私たちは大団円へと向かっている。