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一度聞かされた話とはいえ、やはり耳の痛い話だ。准は密かに臍を噛む。創の行動や心理は理解できても納得はできない。
だが、彼の想いに気付かなかった自分自身が一番歯がゆい。
「創さんは何年も貴方を想ってた。俺といる時も、貴方のことしか話さない……それぐらい好きなんですよ。いつか一緒になれるって信じて生きてきたんでしょうね」
「いつかって、……子どもの頃の話?」
「えぇ。まだ、夢と希望に満ち溢れてたとき。大人になってくにつれて現実を知って、叶わないことに気付いて。そのショックで頭がおかしくなっちゃったんですよ」
ショックで頭を……。
素直に納得して良いのか微妙な台詞だったけど、荒っぽくまとめるとそうなるのかもしれない。
「俺が話せるのは、それだけです。俺も創さんも、本当に狂ってた。それが全てなんです。准さんには本当……迷惑ばかりかけて、不愉快な想いをさせてしまって、ごめんなさい」
准を掴んでいた手が離れる。その手は力なく、表情を隠すように、自身の顔の上に置いた。
「そうか……」
准も、涼を押さえていた手を離した。そして静かに、彼の顔を覆う手に触れる。
「もう一つ確認したいことがある。お前は、俺に恋人を作らせない為に来たんだよな? 創に言われて」
「え? えぇ」
「ならどうして会った日から、俺に恋人を作らせようとしてたんだ?」
また、いつかの言葉が頭に浮かぶ。出会った日から今日まで……ずっと言われ続けた言葉。
───俺に任せてください。必ず、貴方が恋人を作れるようサポートしますから。
あの言葉。ずっと揶揄されて、鼓舞されて、俺と彼とを繋ぎ続けた言葉を。
「お前は俺に会いに来た時から、恋人を作れ作れって耳にタコができるほど言ってたよな。しかも俺が加東さんに好意を持ってることを知ったら、その仲を応援しようともした。……それは創の意志に背いてるんじゃないのか」
創が本当に、恋人を作らせないよう俺の元に涼を送り込んだんだとしたなら。出会った時から恋人を作らせようとしていた涼の行動は意味不明だ。
「言ってることもやってることも矛盾してるんだよ。……まぁ知ってるけどさ。お前がすぐ嘘つくことは」
ゴンドラは下降し始めた気がした。音も時間も、声も視線も、どんどん下がっていく。
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