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「どこにしまったっけ、進路希望…」


駿と進路について話したその日、僕は家に帰ってから進路希望調査の紙を探した。

親にバレて怒られないように、勉強机の上に積んである教科書の間に隠したおぼえがある。


数学、歴史、英語、言文…次々と教科書をパラパラめくっていると、4つ折りにされた紙がすとんと床に落ちてきた。瞬時に「これだ」と思った。


紙をひろいあげて、ぺらりとひらく。


【進路希望調査】


そう太く印刷された文字が、すぐに目に飛び込んできた。


やっぱりこれだった。見つけてしまった。


深くため息をつく。


僕は勉強机の椅子に座って、ボールペンを手に取る。けれど、そのボールペンが動くことは無かった。


…まだ、分からない。


自分の進みたい道が、分からない。あれだけ駿と話したのに。授業中のほんの少しの間でも、考えられたはずなのに。


考えていなかった。


「…まだ、7月だし。来年もあるし…」


焦りを隠すように、自分に言い聞かせる。僕は【未定】と書き込んだ。不思議と、気持ちが軽くなった気がした。これで、とりあえずは、やり過ごせる。今日からしばらくは、考えなくて済む。


なんだか疲れきって、僕はベッドに飛び込んだ。スマホを手に取り、カチッと電源をつける。


「あ…駿からレインが来てる」


通知音を消していたため、駿からのメッセージに全く気が付かなかった。僕は駿のトーク画面を開いた。






《進路希望書いたか?》




…またかよ、と思った。


さっきも聞いてきたじゃないか、そんなに僕の進路先が気になるのか?と。ひねくれた考え方をしそうになり、僕は首を横に振った。




《うん》




そう一言だけ返すと、すぐに返事が返ってきた。


駿《どーすんの?》


僕《未定って書いた》


駿《まったくまたかよw》


僕《(–;》


《またそのうち考える。ところで、ききたいんだけど》


駿《ん、なに?》


僕《どうして大学に行かないの?》




訊いてしまった。


昼休み、なんだか訊いちゃいけない気がして、訊けなかったこと。


なんだかこれを送ったその瞬間、僕は嫌な予感に包まれた。どうしてこんな気持ちの悪い感情になるのだろう。


既読はついていたものの、すこしの間、返事は返ってこなかった。怒ったかな。と思った。やっぱり、訊いちゃいけなかったか、と。送信を取り消そうとした次の瞬間。


ポン、と音を立てて、駿から返事が返ってきた。無視されなくてよかった、とほっと胸をなでおろし、文字を追った。


《大学なんてめんどくさーい》


その一言だった。


僕はてっきり、大学に行けない重たい理由を話されるんじゃないかとドキドキしていた為、そうでは無かったことに安心感を覚える。


僕《めんどくさいって笑》


駿《なんだよー、別にいいだろw》


僕《うん、たぶん僕も行かないだろうし。同じでむしろ嬉しい》


駿《おなじだなーw》


僕《ちなみに、大学行かないってことは、就職?》


駿《まぁそんなとこ》


《あのさ》


僕《うん?》


駿《ひとりで生きていくならさ、無理なんだよな、大学とか》




…えっ?と、声が出た。


ひとり?どういう事だろう。


駿は、駿の母と、中学生の弟と、3人で暮らしているはずだ。駿のお父さんは、既に亡くなっていると聞いたことがある。

高校を卒業したら家を出て、一人暮らしをするってことか?けれどこの言い方は、大学に行きたいというように感じる。それを振り切って、一人暮らしをするつもりなのだろうか…。だとしたら、駿は僕なんかよりずっと自立していて…すごい。




僕《ひとりってどういうこと?》


駿《いや、気になっただけw》


僕《はあ?》


駿《わるいわるいw》


駿の脳天気な返しに、「なんだ、気になっただけか」と、思わず拍子抜けしてしまう。


駿《じゃ風呂入ってくるわ》


僕《うん、またね》


駿《うーい》


何の変哲もない会話だった。


いつも通りの会話。



僕にとっては、いつもの、日常。



湯船に浸かりながら、ぼうっと考える。

決めたからには、絶対に後戻りはしない。そう決意したはずなのに。

透真といると、胸の奥がずきんと痛む。

この幸せな時間も…一瞬にして消えてしまうのだろうか。


…もし、全てがうまくいったら。

いつものように透真と一緒に過ごせるんだ。くだらないことでけらけら笑って。透真の勉強教えながら、俺も透真も疲れて、進路なんてクソ喰らえって文句言って。


ただ笑い合えるだけでいい。いや、透真と一緒にいられるなら、それでいい。


そんな幸せが続くことを望むのは、わがままなのだろうか。


…わがままなのだろう。


「透真と一緒にいられなくなる、その日が来たら。その時がきたら……」


湯船に浮かんだ泡が、ぽん、と弾けて、消えた。


「どうか、この泡みたいに……泡沫みたいに。跡形もなく、すっと消えられますように」

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