テラーノベル
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ギデオンが魔獣討伐に出発してから六日目の朝、相変わらずの寝不足で、ぼんやりとする頭と重い身体を何とか動かして、リオはベッドから降りた。 リオの気配に気づいてアンも起きた。
ちなみにギデオンがいない間は、リオは自室のベッドで寝ている。ギデオンに「俺のベッドを使っていい」と言われたけど、さすがに狼領主のベッドは使えない。自室のベッドでも、アンと横になっても十分に広い。
「アンおはよ」
「アンっ」
リオは|欠伸《あくび》をしながらアンを抱く。
少しは大きくなったと思うけど、アンはまだまだ小さくてかわいい。早く大きくなって欲しいと願うけど、小さいアンも愛しくてたまらない。
リオは一旦アンを床に下ろして|寝衣《ねまき》を脱ぐと、シャツとズボンに着替え、最近は寒くなってきたので、ベストではなく羊毛で編まれたカーディガンを着る。そして再びアンを抱いて、顔を洗うために洗い場へと向かった。
洗い場から食堂へ向かう途中で、反対側から歩いて来るゲイルに会った。
早起きのゲイルは、すでに朝餉を終えている様子だ。
リオは、頭を下げて挨拶をする。
「おはようございます、ゲイルさん」
「おはようございます。昨夜もよく眠れなかったのですか?」
「…はい」
「ふふっ、あなたにギデオン様の不眠がうつってしまったのかもしれませんね。ギデオン様も今頃、不眠で不機嫌でいらっしゃいますよ。早くお戻りになり、お互いの不眠を解消してください」
「あの…そろそろ戻って来ますか?」
「そうですね。想定外の強さの魔獣といえども、国中から優秀な騎士が集まってますから、討伐に二日はかからないはず…。負傷した者を連れていたとしても、明日には帰って来られるのではないでしょうか」
「明日…!怪我をしてなければいいんだけど…」
「ギデオン様は無意識に部下を庇う時があります。でも強いので、大きな怪我はしていないと思いますよ」
「はい…」
リオの不安そうな返事を聞いて、ゲイルが優しく微笑んだ。
リオが驚いていると、「早く食事をして来なさい」と背中を押される。
リオは押されるままに足を出し、一歩二歩と進む。
ゲイルもギデオンと同じで、無表情で冷たい雰囲気だ。そのゲイルが笑った。冷たい雰囲気が一変して、柔らかくなった。初めて見る顔に、リオは驚いたのだ。
リオの不安が軽くなった。いっぱい食べて仕事してよく寝て、ギデオンの帰りを待つんだ。
しかしそれほど進まないうちに、後方から慌ただしい足音が聞こえてきた。
リオは足を止めて振り向く。
ゲイルの元へ、汚れて破れた制服の騎士が走って来て片膝をつく。
「ゲイル様!」
「何ごとだ。ギデオン様は戻られたのか?」
「いえっ!実は…ギデオン様が…行方不明なのです。魔獣から部下を庇った際に飛ばされ、落ちた先を|隈無《くまな》く捜索しましたが見つからず…!」
「なにっ?…見つからないということは、必ずどこかで無事でいるはずだ。行方不明になってどれくらい経つ?」
「二日です」
「わかった。私が行く。おまえはステファンの所へ行け。ステファンにここを任せると伝えよ」
「はっ!」
バタバタと騎士が走り去り、ゲイルも早足で歩き出す。
「ゲイルさんっ」
リオはゲイルに走り寄り、ゲイルの腕を掴んで止めた。
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