テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
ゲイルは掴まれた腕を見て、リオの顔を見る。 強く掴まれているために上等の上着に|皺《しわ》が寄っている。
だけどリオはそんなことに気づかない。頭の中が、ギデオンのことでいっぱいだからだ。
「ゲイルさんっ、俺も行く!俺もギデオンを捜しますっ」
「リオ。ギデオン様が心配なのはわかりますが、君は足手まといになる。だからここで待っていてください」
「足手まといにはなりません!俺はきっと役に立つ!ダメだと言われても俺は勝手に行きます!」
「あなたが危険な目に合っても誰も助けませんよ」
「はい!皆さんに迷惑はかけません!」
「…そうですか。遅れたりはぐれても、助けませんよ」
「大丈夫ですっ」
ゲイルはいつもの冷たい表情でリオを見て、いいともダメだとも言わず、リオの手を外して無言で足早に離れて行く。
リオも走って自室に戻り、鞄に少しのお金と着替え一式を入れ、アンを抱いたまま食堂に走ってパンと水をもらい鞄に入れた。そしてアトラスが宿直している部屋へ行き声をかけ、扉が開くなりアンを押しつけた。
「え?え?なに?どうしたの?」
「アトラス!しばらくアンをお願い!」
「いいけど…半刻くらい?」
「違う!数日になると思う!」
「えっ!どこかへ行くの?」
「ギデオンが行方不明になったって!だから捜しに行くんだっ」
「ちょっと待って!それなら俺が行くよ!リオは危険だから城で待っててっ」
「ゲイルさんが行くから、他の者はステファン?さんと城で待機だって話してたよ」
「そうなの?ステファン様が城にいるなら安心だけど。だからってゲイル様がリオを連れて行くとは言わないはず…」
「いいからアンをよろしくなっ!アン…必ず戻って来るから、良い子で待ってろよ。ごめんな、離れたくないけど、危険だからおまえを連れて行けないんだ」
「アン!」
アンがアトラスの腕の中で暴れる。
アンが落ちないよう、アトラスがあたふたとしている間に、リオは勢いよく扉を閉めると、|厩舎《きゅうしゃ》に向かって全速力で走り出した。
ゲイルは、はっきりと来るなとは言わなかったが、先に出発してしまうかもしれない。リオ一人では、どこへ向かっていいのかわからない。だから遅れないように急がなければ。
鞄が揺れないよう無意識に抱え込んで、リオは苦笑する。
今、アンを預けてきたばかりなのに。いつも一緒にいたから、もう寂しい。でも数日の我慢だ。アンを危険な場所へは連れていけないから。それにアトラスに任せていれば安心だ。
リオは、慌てていたために|縛《しば》るのを忘れていた金髪を|靡《なび》かせながら、城の外へと飛び出した。