店内の低い音楽が重く響き、ビートが緊張を煽る。暗がりの中、
カラフルなライトが店内を断続的に照らし、周囲にいる不良たちの無表情な顔が一瞬ずつ浮かび上がっていた。
ポテトが一歩引きつつも勇気を振り絞り、
「そ、捜査に協力をお願いします」とたどたどしく言った。しかし、
ジョージはポテトを鋭く睨みつけ、「警察なんか連れてきやがって…ビビらせたいのか?」と冷笑し、
立ち上がってその場を去ろうとした。
その瞬間、ワトリーがジョージの足にしがみついた。
「お願いなのだ、友達が危ないのだ。なんでもいいから教えてほしいのだ!」
ジョージは驚いたように振り返り、「おい、離せよ!」と叫んだが、
ワトリーは力強く足にしがみついたまま離れない。「いやなのだ!教えてほしいのだ!」
ジョージはワトリーを振り払おうと必死に手を動かすが、ワトリーは両腕と両足でがっしりとしがみつき、
まるで離れる気配がなかった。それを見た他の仲間たちが、ワトリーを引き離そうとするが、
彼は必死にしがみつき続ける。
ついにジョージは堪え切れなくなり、
「このやろう!」とワトリーの頬を殴った。ゴン!――それでも、ワトリーは離れない。
3匹がワトリーを囲んでさらに攻撃を加えようとしたそのとき、
ポテトが叫んだ。「ちょっと!暴行罪ですよ!」
ジョージの仲間の一匹がポテトを羽交い締めにして薄笑いを浮かべ、
「最初にやってきたのはそっちだろ?正当防衛ってやつだよな」とからかった。
ポテト「ワトリーもう離れて!!」
ワトリーは必死にジョージの足にしがみつき「いやだ!絶対に離れないのだ」
ジョージが地面に倒れ込こむが、しがみつくのをやめないのを見て、
ジョージと仲間の3匹は苛立ちを募らせ、何度も足を振り下ろしてきた。
「こいつ、どこまでしつこいんだ!」ジョージは吐き捨てるように言い、
さらに強く蹴りを入れた。ワトリーは苦痛に顔を歪めながらも、その場から離れようとしない。
そこへ、ジョージの仲間の一匹が懐から光るナイフを取り出した。
金属の輝きに気づいた店内の客たちは騒然となり、悲鳴があがる。
「キャー!」
「ワトリー、危ない!離れて!」ポテトが声を張り上げた瞬間、店内の明かりが一斉に消え、
辺りは闇に包まれた。心臓の鼓動が暗闇に響くような静寂が続き、
次の瞬間、誰かの影が立っているのが見えた。
「おい、電気つけろ!」ジョージが叫ぶと、店の明かりがパッと戻る。
そして、誰もが息を飲んだ。そこに立っていたのは、仮面をかぶったカオリだった。
仮面の奥から鋭く光る目が不気味に動き、異様な雰囲気が場を支配していた。
「う、うああ!」ジョージとその仲間は、明らかにひるんでいた。
「カオリ、どうしてここに?」ワトリーが驚いたように声をかけると、
ポテトがぼそりと答えた。「たぶん…先輩が教えたんだろう」
カオリは仮面の下から低い声で語り始めた。「今宵・・この場にてお目見えいたしますは、
蛇の化身にして・・・毒を纏いし哀しき娘に・・・ございます。」その言葉は、
かつて彼女がサーカス団で使われていた紹介のフレーズだった。
何十年も耳にしていたフレーズが、彼女の中でよみがえったのだろう。
ワトリーが不安げに言った。「カオリ、何を言ってるのだ?」
カオリは仮面をゆっくりと取り外し、その姿をあらわにした。蛇のように見える鱗が頬を覆い、
火傷の跡があちこちに残り、口元には鋭い牙がむき出しになっている。
その牙からは粘液がぽたぽたと垂れ、見る者の背筋を凍らせた。
「ひ、ひぃ!くるな、化け物!」ジョージと仲間たちは震えながら後ずさり、怯えた顔を見せる。
「カオリ、やめて。もう、そんなことしないで」とワトリーは必死に声をかけたが、
カオリはじっとジョージたちを見つめたままだ。
「な、なにをする気だ…?や、やめろよ!」ジョージの声が震えた。
カオリは一歩ずつゆっくりと近づき、冷たく、静かに囁くように言った。
「私の毒は…甘くしみ込む」
「お前を…永遠に苦しめる」
(サーカスの薄暗いライトが揺れ、静まり返る観客席に低く重厚な声が響く)
「皆さま、今宵の宴にようこそお越しくださいました!
さあ、これよりご覧いただきますは、この世ならぬ奇跡の一幕!
舞台に上がるは、毒を纏いし哀しき娘、
その唇より滴るは、命を奪いし猛毒、
されど、その体内に秘めし力は、病を癒し、
欲を呼び覚まし、運命を変えると謳われる。
彼女の運命を狂わせしその毒が、
いま皆さまの目の前でその真価を放ちます。
手足を縛られ、声を封じられた彼女が、
その毒をもって、この世に抗う姿を目撃せよ!
さあ、目を逸らすことなかれ!
彼女の一滴が、あなたの未来を変えるかもしれぬ――」
(会場の照明が暗転し、一筋のスポットライトがカオリを照らす。
彼女は震える手足に包帯を巻き、哀れな姿で舞台中央に立つ。)
かつて「蛇女」と呼ばれたカオリの人生は、暗く痛ましい過去に彩られている。
彼女はその特異な体質を利用され、サーカス団に囚われていた。ショーではVIP客を相手に、
カオリが毒を吐く姿が見世物とされ、その毒はその場で競りにかけられた
彼女の体には特異な性質が備わっており、その唾液や汗などの体液からは、
強い毒性を持つ物質が抽出されると言われていた。
その効能とは――性欲を劇的に高める力。さらに一部では、それが子孫繁栄や性にまつわる病気の治癒に
まで効果があると噂され、資産家や海外のセレブたちが巨額の財を投じて手に入れようとしていた。
彼らにとって、その「蛇女の毒」は、単なる薬ではなく、繁栄や生命力の象徴であり、奇跡そのものと信じられていたのだ。
しかしこの毒は直接的には命を奪うほどの危険性を秘めているため、適切に薄めなければならない。
下手に手を出すと、生涯その毒で苦しむか、命を落とす。
しかしサーカス団にとってカオリは商品に過ぎない
毎夜、体液を採取する行為は彼女にとって拷問に等しく、身体と心を削る日々が続いていた。
だが、資産家たちにとってはその苦しみなど知る由もなく、ただ彼女の力が生み出す薬だけが価値として認められていた。
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