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——時は、容赦なく流れていった。
消えることのない悲しみと愛を、
あの日、あの瞬間に置き去りにしたまま、
報われぬ日々だけが、ただ重なっていく。
奇しくもユイは、
セイカがこの世を去った時と、同じ歳になっていた。
風に揺れる絹のような黒髪は、ばっさりと切られ、
左頬に刻まれた傷が、以前にも増して目を引く。
変わらぬものは、ただ二つ。
今もセイカの着物しか身に纏わぬこと。
そして、誰とも深く関わらず、城の私室で独り過ごすこと——。
城の廊下を進むユイの背に、サルビが声を掛けた。
「殿。こたびの戦は小規模なもの。
我らが出向く必要はないのではありませぬか」
「……」
一瞬の沈黙ののち、低く冷たい声が返る。
「……いや。行く」
その声音に、サルビはそれ以上言葉を継げなかった。
戦と聞けば、ユイは必ず先陣を切った。
まるで——
誰か早く、自分を殺してくれと願うかのように。
(ああ……誰か、早く俺を殺してくれ)
だが、誰一人として、ユイを討ち取ることはできなかった。
幼い頃から、血反吐を吐く思いで剣を磨いてきた。
すべては、兄を守るために。
その兄を——
守れなかった。
いったい、どれほどの命を斬ってきたのか。
何百か。何千か。
もはや、数える意味すら失われていた。
かつて「カンジュ一の美男子」と謳われたユイは、
今やカンレイ全土で、こう呼ばれていた。
——カンジュの鬼。
(俺が、ほんの少し力を抜けば……
すべて、終わるのだろうな)
だが、愛する兄の遺言が、呪縛のようにユイを縛りつける。
そして何より——
誰よりも誠実だった兄の鎧を纏い、戦場に立つ以上、
不誠実な生き方だけは、決してできなかった。
「ばあや。明日の朝、発つ」
そう告げると、
ユイは再び、独り私室へと籠もっていった——。