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「どうしてそんなに大きくなっちゃったんですかー!?」
「フェルちゃんがやらかしたからよ」
はい、ティナです。前世で見たCMの真似をしてみたら、メリルさんに冷静な突っ込みを貰いました。うん、現実逃避は止めよう。先ずは。
「フェル、何を飲ませたのさ?」
「リーフに伝わる栄養剤をプレゼントしたんです。味はちょっと苦味がありますが、変な成分は含まれていない……筈でした」
取り敢えず土下座を止めて貰って、フェルから事情を聴く。
カレンは楽しげに巨大化したり小さくなったりを繰り返して、その度に白衣を着た皆さんが愉快に騒いでいるのが背景だ。
なんだこのカオス。ばっちゃんを連れてきた覚えはないんだけど。
「アリア」
『残念ですがデータが不足しています。更なるサンプルの回収を提案します』
「却下だよ」
ただでさえ私のやらかしでジョンさんはアメコミヒーローみたいになっちゃったし、朝霧さんなんてブ◯リーだもん。
それよりも。
「アリア、カレンの体に異常はないんだよね?」
『バイタルは平均値を維持、むしろ良好と言える数値を出しています。ケラー室長、朝霧氏、更にカレン嬢にメリル女史。地球人の適応力は想定以上です。やはり更なるサンプルの回収を……』
「だからしないって。ん?待って、メリルさん?」
私が恐る恐るメリルさんを見たら、彼女は笑顔のままその場でノーモーションで高々と大ジャンプを披露してくれた。
……えぇ……これってまさか……。
事も無げに着地したメリルさんは、兄妹らしくジョンさんに似た困ったような笑顔を浮かべた。
「栄養スティック、凄かったわ。ティナちゃんが私達に色んなものをホイホイあげるから、フェルちゃんも真似しちゃったのかもしれないわね」
私はまたしても静かに土下座を敢行することになった……なんか私=土下座ガールなんて不名誉極まりない図式が成り立ちそうで頭が痛くなってきたよ。
いや、被害者の皆さんはそれ以上なんだろうけどさ。
土下座を済ませたあと、カレンに聞き取り調査を行ってみたけど体に不調はないらしい。むしろ信じられないくらいに好調なんだとか。
「マナを保有できるなら、他の魔法も使えるんじゃないでしょうか
?」
「他の魔法!?すっごく興味があるよ!」
フェルの呟きにものすんごく食い付いてきたカレン。まあ確かにマナを持つなんて前代未聞だし、巨大化の魔法が使えるなら他のも使えるかもしれない。でもなぁ。
「私達が教えることは出来ないかな」
アードには、魔法の使用や習得には厳格なルールがある。自分のプロフィールに習得した魔法を記載することが義務付けられているし、他者に教えて良いのは専用の資格を保有する人だけだ。
まあ、家事に使うような簡単な生活魔法については親子で教えても構わないけど、基本的には専門の機関でプロに学ぶ。
魔法は悪用しようとすればなんだって出来るからね。そのための防護魔法もあるんだけど。
当然私とフェルは交流のためある程度の自由行動が許されているけど、だからってアードの決まりを守らなくて良いなんて考えは持てない。
「そっかー……残念だなぁ」
「ごめんね、カレン。こればっかりはどうにも出来ないんだ」
当たり前だが魔法適性がアード史上最悪最低な私は資格を持つ筈もなくて、フェルに至っては開拓団時代にほとんど独学で習得したらしい。桁外れの保有魔力量と言い、相変わらずチートである。
そう伝えるとカレンは残念そうにしたけど、この件だけはやらかしじゃ済まないからね。
可能性があるとするなら、カレンをアードへ連れていくか……資格を持つアード人を地球へ招くしかない。もちろんその前に解決しなきゃいけない問題はたくさんあるけどさ。
「ううん、仕方ないよ。ティナ達の故郷のルールなら、破ったら大変なことになっちゃうから」
「ありがとう、カレン。どんな効果が現れるか分からないから、しばらくは注意してね。体調の変化には特に用心してほしい」
「分かってる。お父さんや朝霧さんだって定期検診を受けてるから、私も受けるよ」
「定期検診受けてたの!?」
「そうよ、ドクターに依頼して定期的に検査してるわ。けれど、安心して。兄さん達はもちろん、私達も異常はないの。むしろ身体がビックリするくらい好調なのよね」
なんだか不便なことを強いてしまった。やらかしの代償は大きいなぁ。
私達はしばらくカレンと談笑して秘密基地から立ち去ることにした。長居をしてたら困るだろうし。カレンはもうしばらくこの施設で経過を観察するらしい。一度訪れたから、次に来るのは簡単だ。場所もしっかりとマーキングしたし、フェルが居なくても一人で来ることが出来る。カレンが退院(?)しても定期的に顔を出そうかな。なにか役立つアドバイスがあるだろうし。
私達はメリルさんを異星人対策室のビルへ送ったあと、プラネット号へ戻った。ボイジャー関係の発表を控えてる最中だけど、アードから超長距離のメッセージが届いたからだ。
ゲートを介したメッセージのやり取りは比較的早いけど、それでも片道三日はかかる。
メッセージの送り主は、お母さんとばっちゃんの連名だ。
「ティナ、メッセージには何と?」
「ちょっと待ってね、フェル」
前置きなんかを一切省いたメッセージには、そろそろ帰って来なさいってストレートに書かれていた。お母さんらしくて笑っちゃった。
んで、ばっちゃんのメッセージは……なんか色々余計なこと書かれてるけど、要点をまとめると取り敢えずアードで動きがあったら戻ってきてね☆って書いてあった。
……そこまでに書かれた数万字は明らかに余計だ。ばっちゃんのスリーサイズやら恋バナなんて知りたくもない。寒気がした。
「一旦戻って来いってさ」
「何かあったんでしょうか?」
「詳しくは書かれてないけど、無視したらあとが怖いからね」
幸い合衆国が用意してくれたタンカー1隻分の食品は全てトランクへ格納済み。出来ればボイジャーのお披露目や他の観光地を巡りたかったけど……仕方無い。次の機会にしよう。
「フェル、直ぐに戻るよ」
「分かりました!」
フェルがブリッジへ上がるために走っていくのを見送って、ジョンさんへ手短にメッセージを送って私もブリッジへ急いだ。
『本星からの急な呼び出しにより、一旦地球を離れます。次の来訪の時期は分かりません。ごめんなさい』
ティナからジョンへ送られたこのメッセージは捉え方次第ではアード本星の関与すら示唆するものであり、交流失敗とも解釈できるため合衆国要人の頭痛と胃痛を招く結果となった。