渋々赤いカーペットが敷いてある階段を上って、二階にある姉のフローリスの寝室へ向かう。
白い壁の廊下を歩くと、途中で赤毛を二つに結んでいるお姉様と遭遇した。
「あらあら、シプリートじゃない。この美しくて可憐なアタクシに何か御用かしら?」
美しいと自称しているが、顔にはそばかすがあり鼻もお団子なのでそんなに美しくはない。ブサイクとはいえないが、八方美人な性格なのであまりモテない可哀想な女だ。
弟のシプリートは大嫌いで、大人とは思えない対応をしてくる生意気なところがある。
嫌だが、早速事情をボソボソと話す。
「えっと……その……嫁のエミリをロボットから救って欲しくて」
「ふん。そんなもん、ちゃちゃっと一人で行って一人で解決すればいいでしょ。アタクシのような可憐なレディは戦いになど行きませんわ」
「その通りですよ、お姉ちゃん!!」
隣から茶髪のミディアムヘアの次女リリアンナがひょっこり顔を出して、両手でピースする。どうやら二人で廊下を歩きながら会話中だったらしい。
リリアンナと初めて出会った時は明るくて優しい女の子というイメージだったが、今は姉と一緒にいることが多くなったせいかたくさん嫌味を言うようになった。環境って大事だな。
「つーかシプリートって、ほんと弱くて嫌になりますわ!男なら強くあるべきですよ!」
そう言われてムッとしたが、ここで怒ると彼女は大きな声で泣き出すだろう。当然泣き真似なのだが、本当に厄介である。
しかも二人の甲高い笑い声には、イライラさせられる。
「そういうわけだから、ワタクシたち二人は助けになど行きませんわ」
「ええ、二人で話していたほうがいいもの。男は男同士で話せばいいのよ」
二人はそう言って、その場から離れて階段を降りていく。
はあと深いため息をつき、最後に末っ子のアンジェに助けを求めることにした。
こんなに時間かけていては、姫が死んでしまうかもしれない。本当はこんなことせずにすぐ行けばいいのだが、やはり血生臭い戦いになりそうなので仲間は必要だ。
そのまま廊下を歩いて右に曲がり、また前に進むと背が低い青いロングヘアの女の子が面白くなさそうに椅子に座っていた。両脚をユラユラさせている。彼女こそ末っ子のアンジェだ。
彼女が一歳の時からこっそり部屋から抜け出してよく遊んでいたので、姉弟妹の中で一番仲が良いのだ。
「よ、アンジェ」
そうにっこりと微笑んで声をかけると、彼女はパッと明るい笑顔を見せる。
「シプリートお兄様!」
「何をしていているんだ?」
「城が壊れるかもしれないって言われて、ここにいろって。意味わからないでしょ?普通机の下に隠れろって言わない?」
「ハハ……メイドさんらしいや」
「ねえねえ、また一緒に遊ばない?」
椅子から立ち上がって、シプリートに抱きつく。
ラベンダーのいい匂いがして、心が落ち着くし胸がバクバクと高まる。妹は可愛いな。
焦る気持ちが現れて、肩に両手をつける。
「いや、そんな時間はないんだ!実は僕の嫁のエミリがロボットに連れ去られたんだ!」
「えっ!?嘘……。あんなにお兄様幸せそうだったのに!それを壊すなんて酷い!アタシも手伝う!」
彼女は元気よくそういうと、彼女も仲間になった。アンジェは頼りになるし、昔からシプリートを募っていたのでこうなることは分かっていたがな。
だが、彼女はまだ幼く魔法も学んだばかりで弱い。力になれるかわからないが、頼もしいのには変わりない。
彼女が成長できる冒険になれたらいいな。
旅に出ると話したら、資金をたくさんもらう。
豪華な城の外に出ると、そこにいたのは弟のドミニックだった。彼には何回もいじめれていたので、正直関わりたくない。
ドミニックは後ろを振り向いたが、視線を合わせることはない。彼は頬を少し赤らめていた。
「じ、実は……エミリを助ける協力をしに来た。べ、別に助けたいわけじゃないが、兄さんが俺の魔法を誉めてくれたのが理由だ。仲間になったわけじゃないからな」
彼は照れ隠しをしているようだ。
本当はシプリートのことを兄弟として好いているが、恥ずかしいのでツンツンしたデレが発動しているのだろう。相当嬉しかったに違いない。
こうして弟ドミニックも一緒に行くこととなった。そこへ住民に聞き込みをしていた、メイド服を着ているカロリーヌが帰ってくる。
「仲間は集まりましたか?」
「ドミニックとアンジェとザールの三人だよ。ザールは修行中でもうすぐ来ると思う」
「そう。体力作りは、必要ですものね。ファンファーレならぬファイトですね」
「まー、確かにそうだな」
「ねえねえ、お兄様!こんな女を置いて早く見つけに行きましょう!」
アンジェが嫉妬でイラついた様子を見せていた。カロリーヌと話していることが気に食わないのだ。腕を握りしめ、その場から去ろうとする。
その腕にある両手を振り払い、彼女にロボットの行方を尋ねる。するとその場で膝をつき、土下座した。
「申し訳ありません。情報は得られませんでした」
「わざわざ畏まらなくていいよ。仕方ないな、このメンバーで地道に探そう!」
「はい、そうしましょう」
彼女が立ち上がると、メモ帳が落ちていた。アンジェがそれを拾うと、そこにはこう書いてあった。
「ロボットはカノーカ王国方面へ向かっていた」と。
どうやら情報が得られないと言っていたのは嘘だったようだ。なんでだよ!やはり天然なカロリーヌらしいな。
現実主義者のドミニックはそれに怒りを露わにする。
「おい、メイド。嘘はダメだろ。本当のことを言えばいいんだ」
「私の名前はメイドではありません。カロリーヌです。高カロリーとでもお呼びください」
「ええ……」
「嘘もたまには必要です。しかし嘘を使いすぎると狼少年の物語のようになってしまう。もう嘘は申し上げません」
狼少年とは狼が来たと何度も住民に嘘をつき、最終的に狼に襲われたが知らせてもまた嘘だと思われて助けてもらえず絶命するという話だ。
黒いスカートの裾を掴んで、可憐にお辞儀する。
彼女は嘘をつきたくてついたわけではない。カロリーヌは仕えてからどこか抜けており、こういうことはよくあったので疑問に思うことはない。むしろいつも通りで安心している。それに反省もしているようだし、許してあげよう。
彼女自身シプリートを死なせなくなかったからという理由があるのかもしれない。
楽しく会話をしていたら、太っている男が走ってやってきた。ゼエゼエと荒い呼吸をしているザールだ。
鍛え終えたらしいのだが、初めて出会った時とあまり変わっていない。短時間だから無理もない。随分意気込んでいることだけはわかる。
「ハアハア……さて、いきましょう!」
この言葉を筆頭に、彼らはルミリア帝国を離れて貿易が盛んなカノーカ王国へ向かったのだった。
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