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「フラれた」「……嘘やろ?」
新年早々、親友のくうちゃんにファミレスへ呼び出されたかと思えば、開口一番にそれや。
耳を疑った。え? だって、こないだまでめっちゃ仲良いって自慢してたやん。初詣も一緒に行くねんて、あんなに嬉しそうに話してたやん。
「ほんまのほんま。これ見て、2026年になった途端インスタで結婚発表。ただの顔がええだけの一般人が芸能人気取りやで」
自嘲気味に、無理に作った笑顔。それでも手元の画面を何度も見返している彼にかける言葉が、どうしても見つからへん。
こういう時、優しいあいつらなら、なんて声をかけたんやろう。
「……俺が殺してきたろか?」
「え? ………え?!」
「いや、やから殺して、」
「ふっ、ふふっ! そんな……ふふっ、あははは!」
え、いや、何がおもろいん? 俺は結構本気で言うてんねんで。
くうちゃんは腹を抱えて、もはや声も出ないほどに笑い転げている。なんやねん、ウケすぎやろ。
「くうちゃん?」
「はぁ……。良かったわ。俺、一番に報告すんのはんちゃんで間違ってなかった」
「……なんやそれ」
よくわからんけど、くうちゃんの中で俺が「一番」で間違いなかったらしい。
急に照れ臭くなって、目の前にあったジュースを一気に飲み干した。ズルズルと行儀の悪い音を鳴らしきると、「きったない音させんな」と笑いながらコップを奪われる。
「……おかわり、またコーラでええ?」
「あ……次はコーヒーにしよかな。自分で入れてくるわ」
「そんな俺の前ではカッコつけんでええて。コーヒーの淹れ方も知らんくせに」
「うわ、また赤ちゃん扱いしよった。コーヒー飲めるようになったんですぅ~」
「あ~、じゃあ真っ黒いの淹れてくるわ。砂糖もミルクもいらんよな?」
「うぐっ……い、いらんし」
つい、見栄を張ってしまった。俺が最近ようやく飲めるようになったのは、コーヒー牛乳みたいな甘いやつ。それだって、同僚の飲みかけを間違えて一口含んでしまっただけやのに。
「ん、はい」
「あ、ありがとう」
戻ってきたくうちゃんの顔から、さっきまでの無理な笑顔は消えていた。代わりに浮かんでいたのは、いつもの優しくて甘い笑顔。
差し出されたコップの中身は、ミルクたっぷりの、くうちゃんみたいに優しくて甘そうなカフェオレ。ここは素直に受け取っておこう。
「……こちらこそありがとうな。正月やのに忙しかったやろ?」
「いや、夜中のうちに家族と初詣行ってたし、今日は寝正月満喫しようとしてたから全然構わんで。くうちゃんは? もう行った?」
「いや……予定が無くなったから、どうしよっかなって」
あー!!!俺のアホ!!
言葉に出した瞬間、後悔が襲ってきた。知ってたやん。彼氏と初詣行くって、クリスマス前あんなに楽しそうに話してたの、全部知ってたやん俺! 何思い出させてんねん。
気まずい沈黙を振り払うように、俺は身を乗り出した。
「……あ、じゃあさ、今からあいつら誘って行かん? 4人もおったら、誰かは暇してるやろ?」
「……はんちゃんみたいに?」
「そうそう、俺みたいな暇人が、っておい。これは自分で作り出した暇やからな? 決して誰からも誘われんかったわけではないで?」
「はいはい」
「やめて、人の事ボッチ扱いすんの! くうちゃんかて1人やんか」
「ほんまや、よかったぁ~仲間おって。是非この機会に友達になってもらえませんか?」
「え、俺、親友やおもてたのに、友達にすらなれてなかったんや、悲し」
おどけて見せると、くうちゃんがまたお腹を抱えて笑った。
その横顔を見て、心の底から思った。良かった、今日が暇で。一緒に初詣に行くような恋人もおらんで。仲間に誘いまくられるような人気者やなくて。くうちゃんが真っ先に呼び出してくれた、唯一の友達でいられて。
「で、どうする? 俺ほんまに行けるけど」
「でもはんちゃん、家族と行ったんやろ? そんな何回も神社行って、神様怒らへん?」
「……いや、ちゃうで? 元カレ殺しにいったろかって話」
「え、あれ、本気やったん?」
「まあ、社会的に抹殺するってのも、今時のやり方で簡単にできそうやけど」
「こら! そんな赤ちゃんみたいな顔して、らしくない事言わんの!! はんちゃんはずっと可愛い赤ちゃんでええの!!」
ほっぺをむぎゅっと力一杯押し潰される。ふざけているようでいて、くうちゃんは本気で俺を嗜めていた。
けれど、俺の腹の虫は収まらない。いや、ほんまにそれくらいされて当然の男やろ。こんなに優しくていい子のくうちゃんを裏切って、傷つけたんやから。
「……別に、くうちゃんが望んでへんならやらんよ。俺だって親友の嫌がる事やりたないし」
「ん、もうええねん。誰かに話したかっただけやから。世の中にはもっと大変な人おるしな。それに、男同士なんてこんなもんやろ」
「……くうちゃんは優しいな」
「ん? そうかな?」
本当に、優しすぎる。こんなクソみたいな奴に傷つけられていい人じゃない。顔だけで中身のない、インフルエンサーにもなれていない空っぽな男なんかに。
そういえば、と俺は手元のスマホを操作した。
「……みんなにメッセージ送ったら、速攻返ってきた。俺ら、ほんま全員似たもの同士やな?」
『一緒に初詣行く人!! ガスト集合!!』
投げたメッセージに、次々と既読がつき、親友たちの名前が躍り出す。その賑やかな画面を並んで見ているだけで、自然と笑顔が溢れてきた。
「ゆうと、『初詣って屋台出てるかな』やって。相変わらず食いしん坊やな。しゅうたももとちゃんも、まだ初詣行ってないって。新は……既読ついてるから、また返事くるかな」
「じゃあ、とりあえず返事きてるメンバーで集まろうよ。久しぶりで楽しみ。みんなどれだけ老けてるやろ」
「楽しみ方、結構エグいな」
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