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「俺、はんちゃんとは定期的に会ってるけど、その他なんて年1みんなで会えればええ方。ゆうとなんて結婚してへんのに毎年お父さん感増していってるやん? やから1番楽しみ」
くうちゃんは懐かしそうに目を細めた。
「わかる。レストラン切り盛りしてそうやし。でも俺はみんな定期的に会ってるかなぁ。もう30前やのに皆んな高校の頃とぜんっぜん変わらへん。特に、くうちゃんと新(あらた)はずっと綺麗なままや」
「んふ、ありがと。はんちゃんもずっと赤ちゃんみたいに可愛いで?」
「赤ちゃんみたいは余計やろ? 素直に『可愛いで』だけでええねん」
「え? なになに、2人付き合ってたっけ?」
デレデレとカップルごっこをしてふざけていたら、背後から聞き覚えのある声が降ってきた。
「うわ、爆速に暇人がおった」
「忘れたか。おれんちガストの真裏やからな。庭みたいなもんや」
「『俺のガスト』て高校時代も言うてたな」
ひょっこり現れたのは、もとちゃんだ。
「あけましておめでと、もとちゃん」
「おうおめでと、空(そら)。相変わらず……あれやな」
「……きもい、もとちゃん。言うといて照れんといて」
「何がやねん。あれやなて言うただけやろ」
「はっきり言わんとこもきもいわ~」
「ええから、はんちゃん横つめて、ここ座らせてえな」
ぐいぐいとお尻で押され、俺は渋々横にずれた。
「あれやな」なんて含みを持たせて照れるもとちゃんの態度は、三十路手前とは思えないほど思春期全開で、正直うけつけない。けれど、くうちゃんはそんなやり取りを面白そうに、声を立てて笑っている。カッコいいとか綺麗とか言われ慣れているからか、少しも動揺しないあたりは流石やな。
「他の3人は? 来るって?」
「うん、多分。新だけまだはっきりせんのよな。既読は人数分ついててんけど」
「ん? 新……正月は海外旅行って言うてなかったかな」
「え~でも既読ついてんで? もう帰ってきてる?」
「ほら、彼女、わがままや言うてたから、日本はよ帰りたい~とかわめいたんちゃう?」
「え?! 新、彼女おんの?!」
さっきまでニコニコと話を聞いていたくうちゃんが、突然ガタンと音を立てて身を乗り出した。
そうか。新に彼女ができた話は、こないだ俺たちが集まった時に出た話題や。あの場にいなかったくうちゃんは、今の今まで知らんかったんや。
「おるおる。めっちゃ可愛い子。顔がええからどんなわがままでも許せるって惚気てたで」
「まじか……」
くうちゃんが、目に見えてショックを受けたような顔をする。
元々ライバル視していた新に先を越されたのが悔しいのか、それとも別の感情があるんか、どっちなんやろ。
「で、そらは? おんの? 」
デリカシーという言葉を知らないもとちゃんの問いに、俺の背筋が凍った。
「もとちゃん!! その話は!!」
ドリンクバーの機械が低く唸る音と、遠くで響く食器の音だけが、やけに耳に付く。
ボックス席の狭い空間で、くうちゃんがポツリとこぼした。
「ん、おらんよ、年末に別れた。多分」
その言葉を聞いた瞬間、それまでストローの袋を無意味に弄んでいたもとちゃんの顔が、パッと輝く。
「よおっしし!! お揃い!!……ん? 多分?」
「もとちゃん、待って、その話はもう……」
気まずそうに視線を泳がせるくうちゃんに、俺が助け舟を出そうとするが、もとちゃんは身を乗り出して食い下がる。
「多分?」
「別れてへんのに、結婚してもうた。俺の知らん人と」
吐き出されたくうちゃんの告白。
……あーあ、またくうちゃん涙目になってるやん。
俺はテーブルの下、スニーカーの先でもとちゃんの足を思いきり踏みつけた。
「え、じゃあそら、不倫してるってこと? それは見過ごせへん」
なんなん。足踏まれてるっていうのに、こいつ全然動じへんやん。
その話に全集中しすぎやろ。踏まれた足の痛みより、くうちゃんの「フリー宣言」の方が重大って事か。
「……俺の中ではもう終わってるから、それはないかな。クリスマスらへんで、俺が気づいてないとこでフラれてたんかもしれん」
「……じゃあ、俺らとお揃いでええって事?」
「うん、お揃いの独り身。はんちゃんともとちゃんと一緒」
そらが自嘲気味に笑うと、場に漂っていた重苦しい空気が一気に霧散する。
なんや、急に鎮火したやん。
……え、もしかしてもとちゃん、ちょっと喜んでる?
メニューの端を指でなぞりながら、なんかニヤニヤしてへん?
「あ、そや、これ。いちごだらけのパフェあるねんて。俺、今デザート食べたいねんな。頼んじゃお。ポチっ……あ、まぁええ、まぁええ」
慌ててタッチパネルを連打するもとちゃんの様子が、どうにもおかしい。
「さっきから一人で何言うてんのもとちゃん。もとちゃんて甘いもん苦手やなかったっけ?」
「ん~、まぁ食べたくなる時もあるやん? はんちゃん大好きやろ? はんちゃんの分も頼んどいたから」
「え、いーなー、はんちゃんだけズルい。俺も食べたかった!」
「へぇ~、そらも甘いの好きなんや。知らんかったわぁ」
もとちゃんは、くうちゃんの言葉を適当に聞き流しながら、チラチラとくうちゃんの様子を伺っている。
待って。さっきからもとちゃん、目ぇ泳いでない?
……なんか、激辛メニューでも紛れ込ませたんか? それとも、もっと質の悪い何かか……?
不意に、電子音のメロディを響かせて、ネコ型の配膳ロボットがテーブルの横に停車した。
「きた! これ、知ってる? ネコのロボットが運んできてくれんねんで?」
「知ってるわ。何時からここにおるおもてるん」
もとちゃん、本気でドヤ顔してたのに。一瞬でシュンと落ち込んだやん。
もう、ほんまにかっこつかへん人なんやから。
くうちゃんが身を乗り出して、ロボットのトレイを覗き込む。
「おいおい、元宮(もとみや)さんよぉ。三つあるやんけ。いちごパフェ、三つあるやんけ」
にやにやしてるくうちゃん、めっちゃ嬉しそう。
もとちゃんもまたドヤ顔して、少し照れくさそうにパフェを配り始める……。
なんなん。もとちゃんってこんなに気が利く人やった?これが「大人になった」ってことなんかな。
「ん、俺、いちごあんま好きちゃうから、そらに全部あげよう。残りの甘いとこははんちゃんにあげよう」
もとちゃんは、自分のパフェからいちごを丁寧にすくい、くうちゃんの器へ。そして、生クリームたっぷりの本体を、俺の前に置いた。
「いや、結局食わんのかい。……まぁ、喜んでもらうけど」
「俺、いちご一番好きやねんな。お祭り行ったらいちご飴めっちゃ買うし、いちごの乗ったケーキしか食べへんし」
嬉しそうにパフェを頬張るくうちゃんを見て、もとちゃんは満足げに目を細める。
「俺、それ、知ってたぁ~」
もとちゃん、ちょけてるけど。……これは、ポイント高いわ。
くうちゃんの好みを把握して、自然に、でも好意を悟られんように俺にも甘いものを回す手際。
それに比べて、俺は。
気の利かへん、物騒な言葉しか出てこんかった。
……なんか、胸の奥が少し、チリッとする。
もとちゃんの視線が、一瞬だけくうちゃんの唇に落ちたような気がして、慌ててパフェを口に放り込んだ。
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