何でここにいるのかだって?
HAHA!ヒーローは遅れてやってくるのさ!
「アルシュパ!?あそこで待っててって言ったじゃない!」
その件に関してはほんとすんません。僕、良い子じゃないですね、はい……すんません。
「ごめんなさい。お、お母さんが怖い顔して走ってったから、心配になっちゃって……」
とりあえず、本音3割の謝罪を述べまして、と。
「おやどうしたんだい、僕ぅ? お母さんを探しに来たのかな? ごめんねぇ、お母さん今おじさん達とお話ししてて忙しいんだぁ」
うわ何こいつムカつく……。その汚ねぇ面に右フックでもぶちかましてやろうか、とも思ったが五歳児の繰り出すパンチなんて高が知れているので、俺は疼く拳を何とか収め代わりに口で殴る事にした。
「お話し? へぇ、最近の大人は誘拐のお話なんてするんだ。……おじさん、僕さっき『心配になっちゃって』って言ったよね? それで、今さっきおじさん達の危ないお話を聞いちゃった。……もうそろそろ誰か来るんじゃないかな?」
あれ? 俺って5歳児だよな? 大人を脅し始める5歳児って……まぁ、某死神みたいな子供って割といるしな! 二次元の話だけど!
「チッ……おい! 撤退だ!」
「は? お前、信じんのか今の話!」
「こんなとこでヘマしちゃ堪らねぇからな」
「クソッ……ガキが! 覚えてろよ‼︎」
……はぁ、よかった〜引いてくれて。今後、報復とかそういう厄介事が起こらない事を祈るばかりだ。……あれ、今のってもしやフラグ……?
「アルシュパ!大丈夫?怪我はない?」
メアルが俺に近づき心配そうに尋ねた。
「僕は大丈夫だよ! お母さんこそ大丈夫だった? とっても怖そうな人達だったけど……」
「えぇ、大丈夫よ。お母さん、こう見えて結構強いんだから!」
メアルはそう言ってグッドポーズをした。
結構強いねぇ……メアルは見た目がふわふわ系お姉さんだから、ちょっと想像できないな。……そういえば俺は両親の職業を知らない。まさかそういう系の職業なのだろうか……。俺は考える事をやめた。もう少し大きくなったら聞こう。
「ところで、そのお姉さんは大丈夫なの?」
今回の被害者であろう女性が、こちらの様子を伺うようにチラチラとこちらに視線を送っている。そんな女性の様子が気になってメアルに尋ねてみた。
「あら! そうだったわね!」
そう言うとメアルは女性に向き直り
「お嬢さん! もう大丈夫よ!」
と、微笑んだ。いきなり声をかけられてびっくりしたようだが、その微笑みを目にしてかなり緊張が和らいだようだ、彼女も小さく微笑み頭を深く下げて礼をした。
「先程は、本当にありがとうございました」
「そ、そんな、私はするべき事をしたまでですから! ……本当にご無事で良かったです」
メアルが少し焦ったように、けれど嬉しそうな笑みを溢して言った。俺も笑顔でお辞儀をした。
「するべき事……。するべき事を判断できる人間になる、メイジュルプルス魔法学院のスローガンです。あの、こんな事を言えるような立場じゃないですけど! お子さんを是非、メイジュルプルスに! 我が校はあなた方のような方々を心待ちにしています! あ、あくまで、良かったら……ですけど……」
メイジュルプルスの女生徒であるという彼女が突然やたらと必死に勧誘を始めた。
え、普通に何で⁉︎ というか熱量が、熱量がすごい……コレで断るの、何だが罪悪感が……いや、俺は何も悪い事してないはずなんだけどさ……。でも、正直なところこの世界の学校には興味が少……いや、かなりある。とはいえ、こういう事を決めるのは保護者だからな、とりあえず俺は黙って様子見だけしておこう。
「学校なんて嫌よ!」
……ん?
「学校なんて行っちゃったらアルシュパと過ごせる時間が少なくなっちゃうじゃない! ただでさえ最近クァペールは仕事が忙しくて一緒の時間が少ないっていうのに、アルシュパまでいなくなったら私……」
そうだ、俺の両親は親バカなんだった。まあ、こちらとしては嬉しい限りですけれども。
「無理なら、しょうがないですよね……」
あ、この子すごい。すごい罪悪感煽ってくる。
「ゔっ……」
メアルが精神的ダメージを負ったみたいだ。さぁ、メアル選手! この面倒くさい状況をどう対処する⁉︎
「……まぁ、アルシュパが行きたいって言うなら、話は別ですけどね……」
俺に振るのかよ!……いや、そりゃ興味はあるけどさ……さっきのメアルの話を聞いて、こう何ていうか……俺が学校に行くおかげでメアルが寂しがると思うと……ねぇ? はい、俺も両親大好きっ子ですよ悪かったな! ……でも、学校にはやはり行ってみたいのだ。
「……ぼ、僕はちょっと興味あるかも。もしお母さんとお父さんがいいって言ってくれるなら、行きたい……かな」
さっすが俺! 謙虚な5歳児の演技も上手いぜ!
「そんな……そんなこと! いいって言うに決まってるじゃない! お父さんもそう言うに決まってるわ、ええ! だから、やりたい事があったら遠慮せずに言うのよ! わかった?」
勢いすご……。と、とりあえず許可は取れたな。 ……なんか親バカすぎて色々心配になってきたわ。今後はあまり甘やかされ過ぎないようにしよ。
「ありがとうお母さん。でも僕は今の生活だけで十分幸せだよ! それよりお母さん達の方こそもっと僕を頼ってほしいな! 手伝ってほしい時とか、言ってくれたら全然手伝うから!」
ふと思ったんだが、五歳でこんな事言うって達観しすぎてないか? 俺が五歳の時、親の事なんて一切考えた事なかったと思うぞ。良い子ムーブも程々にしないとな……。あぁ……俺が一人っ子で本当に良かったわ。
「……なんでうちの子ってこんなに可愛いのかしら……‼︎」
す、すごい! すごい頭を撫でられてる……‼︎
「強制してしまったようですみません。でもこれで安心ですね」
「安心?」
「……私、近々卒業するんです。だけど、最近学校内が荒れていて、少し心配だったんです。だから、あなたのような子が入ると聞けて、ちょっと安心しました」
嫌だ! 俺荒れてるところに行くの嫌だ!
「そうだったんですね……。大丈夫、任せて下さい!もし何かあったら私がなんとかしますので!」
なんでアンタが意気込んでんだ…。
「……ん? あ! もう時間すぎてる! 早く帰らないと!」
何か思い出したようにメアルが腕時計を見ると、驚いた様子でそう言った。その様子を見て気になった俺がメアルに時間を尋ねると、 予定より2時間も帰る時間が遅れている事を知る。……そういえば今日は家にクァペールが……これは怒られるルートだなぁ。
「じゃあ、そういうことで! さようなら!」
俺達は女生徒に軽くお辞儀をすると、そそくさとその場を去り長めの帰路を走った。
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