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「僕には自分のスタイルがある。人の真似はしないし、誰かに似ようとも思わない。」 ブラジル代表において、歴代最多得点記録を保持するネイマールの名言だ。サッカーは一人でやるスポーツではない。しかし全員でやるスポーツでもない。それはサッカーを本気でする人達だけが知っている。
2025年10月。全然高校サッカー選手権大会神奈川県大会 準決勝。神奈川県随一の強豪「私立黒鷹川学園」とノーシードからの下克上で勝ち上がってきた「神奈川県立橋倉高校《かながわけんりつはしくらこうこう》」の試合は後半75分を迎えた。1年生ながら世代ナンバーワンLWGの呼び声が高い幡山 狂介《はたやま きょうすけ》。助走ほぼ0からでも撃てる高精度のシュートと圧倒的のフィジカルとボールキープ力。彼の実力は誰がどう見ても規格外だった。しかし彼にはひとつ欠点があった。
――チームプレーをしない。――
サッカーにおいてチームプレーをしないというのは致命的だった。
スコアは2-3。
この2点とも幡山の強烈なミドルシュートでの得点だが黒鷹川学園に喜ぶものはいなかった。
後半75分。
黒鷹川学園のベンチは沈黙していた。
2点を叩き込んだはずの1年生エースの名前が、称賛ではなく苛立ちとともに呟かれている。
「……また、あいつかよ」
「パス、出せただろ……」
ピッチ中央、幡山狂介は荒い息を吐きながらも、まるで周囲の視線を気にも留めていなかった。
ボールは俺のところに来ればいい。
来なければ、奪えばいい。
それだけだ。
橋倉高校は明らかに狙いを定めていた。
二人、三人と幡山を囲み、パスコースを切りながらボールを持たせる。
「止められるなら止めてみろ」
そんな挑発に応じるかのように、幡山は無理な体勢からでも仕掛け続けた。
77分。
右SBの味方がフリーで上がっていた。
中央にはCFが走り込んでいる。
だが幡山は見ない。見ようともしない。
ドリブル突破――
足を引っかけられ、転倒。
「ファウルだろ!」
幡山が叫ぶが、主審は笛を吹かない。
スタンドから橋倉高校の応援が一斉に湧き上がる。
黒鷹川学園のキャプテン・鷲尾拓磨が幡山のもとへ駆け寄った。
「狂介! 落ち着け! 今のは切り替えだ!」
「……うるせえ」
「周りを使え! 一人じゃ――」
「黙れ。点取ってんのは誰だと思ってんだ」
その言葉に、鷲尾の表情が歪んだ。
80分。
黒鷹川学園は前がかりになる。
焦りからパスが乱れ、橋倉高校にカウンターの隙を与えた。
――失点。
4点目。
2-4。
スタンドが静まり返り、次の瞬間、橋倉側の歓声が爆発する。
幡山はピッチに立ち尽くした。
「……クソ」
82分。
再開直後、幡山は無理やりボールを奪いに行く。
相手MFの足元へ、滑り込むようなタックル。
ガツン、という鈍い音。
「っ――!」
相手選手が倒れ込み、主審の笛が鋭く鳴った。
「ファウル!」
幡山は立ち上がり、主審へ詰め寄る。
「今のどこがだよ! ボールいってんだろ!」
「危険なタックルだ。イエローカード」
主審がカードを掲げる。
それを見た瞬間、幡山の中で何かが切れた。
「は? ふざけんなよ!!」
「下がれ、幡山!」
鷲尾が腕を掴むが、幡山は振り払った。
「こいつら止められねえからって、判定まで橋倉寄りかよ!」
「暴言だ。今すぐやめなさい。」
主審の制止を無視し、さらに一歩踏み込む。
「サッカー知らねえ奴が笛吹くなよ」
――ピッ。
短く、冷たい笛。
主審の手に、赤。
レッドカード。
一瞬、時間が止まった。
「……は?」
幡山は信じられないという顔で、赤いカードを見つめる。
次の瞬間、スタンドがざわめき、黒鷹川学園のベンチが総立ちになる。
「狂介……」
「何やってんだよ……!」
幡山はゆっくりと首を振った。
「……俺が悪いのかよ」
「違うだろ……!」
しかし主審は指を指し、退場を命じる。
85分。
幡山狂介、退場。
ピッチを去る背中に、橋倉高校の応援がさらに大きくなる。
黒鷹川学園のユニフォームは、ひとり分少なくなった。
数的不利のまま、試合は終了。
スコアは2-4。
準決勝敗退。
ロッカールーム。
重苦しい空気の中、誰も口を開かなかった。
最初に沈黙を破ったのは鷲尾だった。
「……狂介」
「何だよ」
幡山はベンチに座り、スパイクも脱がずに俯いている。
「今日の負け、誰のせいだと思ってる」
「俺以外にいんのか?」
その言葉に、控え選手で1年生の柳 葵《やなぎあおい》が声を荒げた。
「ふざけんな! パス一本出してくれりゃ――」
「俺が出なくても勝てるって言いてえのか?」
「そうじゃねえ! 俺たちは――」
「俺たち? 勝ったのは“俺”だろ」
バンッ、と音を立てて鷲尾がロッカーを殴った。
「違う!!」
「……」
「お前のサッカーは、チームを壊してる!」
幡山はゆっくり顔を上げた。
「じゃあ聞くけどさ」
「……」
「俺がいなきゃ、ここまで来れたか?」
誰も答えられない。
「結局そういうことだろ」
「狂介……」
「俺は俺のやり方でやる。
それが気に入らないなら――」
幡山は立ち上がり、ロッカールームの出口へ向かう。
「このチーム、向いてねえわ」
扉が閉まる音が、やけに大きく響いた。
――こうして、
世代ナンバーワンと呼ばれたLWGは、
チームからも、高校サッカーからも、孤立していく。