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ひより
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鷹槻れん

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#ロマンスファンタジー
百はな🍑
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世羅 鈴🎨🎤
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【ノクス視点】
ウィローデールの町は浮き足立っていた。
石造りの家々には金糸を織り込んだ垂れ幕が下がり、広場では大人たちが長机を並べ、焼いた獣肉や果実酒の樽を次々と運び込んでいる。胡椒を効かせた肉の匂いが通りまで流れ、そこかしこで香ばしい煙が上がっていた。
別の一角では、若い竜族たちが巨大な木組みを組み立てている。四本脚に長い首、絶滅種として知られる古代の竜を象った山車らしい。まだ骨組みだけだが、その周囲では女たちが赤や金の布を縫い付け、鱗に見立てた金属片を一枚ずつ飾っていた。
背後からヴァルの声がした。
『旦那の変装、良くできるな』
「ガワは本物の竜だからな」
蝙蝠人形がくるりと空を旋回し、私の肩にとまった。本来、街中では目立つ光景かもしれない。
しかしここはヴィローデール。住民すべてが術式を持つ竜人の街だ。魔道具や傀儡人形は見慣れているのか、誰も気に留めない。
私は竜の因子を再生し、その鱗で着ぐるみを作っていた。ぱっと見は竜人に見えるだろう。間近で見れば違和感を覚えるかもしれないが、フードで誤魔化している。
市場には祭礼用らしい菓子が積まれ、老いた竜人は家の戸口へ新しい花飾りを結びつけている。通りの中央では楽師たちが太鼓や笛の調子を確かめ、まだ本番でもないのに陽気な旋律が何度も繰り返されていた。
誰もが忙しそうでありながら、嬉しそうだった。
千を超えそうな街の竜族すべてが、来るべき祝福の日に向けて心を一つにしている――何を祝うのかは知らないが。
『通信。フィオがブリムでフィールディングを捕捉した」
「……ならこっちは空振りか。このお祭りムードを見て、察してはいたがな」
『フィオの安否は訊かないのか?』
「心配はあるさ。だが、あの子は賢い。潜入も上手くやれるだろう……魔術の試し撃ち感覚で、彼女から目立つ真似をしない限りは」
『大丈夫ダヨ。無茶ハシテナイヨ』
「……ならいいが」
『しかしこれ、何の祭りかね?』
話題を逸らされてしまった気配があるが、実際、興味はある。
屋台のパンを買うついでに、店主に硬貨を握らせ尋ねた。
「何だあんた、旅行者かい? 再臨祭を知らずに来たのか」
「再臨?」
「行方不明の王子様が帰ってこられたんだ」
”王子様”というフレーズに、神経がざわつく。さすがに偶然だろうが。最近やたらと耳にする言葉だ。私は、かつて本で読んだ知識を思い起こす。竜は誇り高き種族で、彼らの王に忠誠を誓っている。
竜の王族は、今目の前にいる竜人とはだいぶ様相が異なる。四肢で大地を踏み、巨大な翼を広げ、雄々しい角を有する。生物としての進化の過程で二足歩行となる以前の、おとぎ話に登場する竜らしい姿を持つもの――俗に「原初の竜」と呼ばれている古代種だ。竜人とは比にならない強力な術式を継承してきたと記録されている。しかし――。
「原初の竜は数百年前に絶えたと聞くが」
「誰もがそう思っていた。しかし、つい十日前、その王子がこの街を訪れたんだ! 俺も偉大な瞬間の目撃者になった!」
屋台の店主も、王族を崇拝する者の一人らしい。嬉しそうに牙を覗かせる。
「血は途絶えていなかった! 竜の王統、原初の血を継ぐ御方が、生き残っておられた!」
「……信じがたい話だな」
「写真がある。彼こそが、我らの王子だ!」
店主が私の目の前に写真を掲げる。
写真に写っている彼は、とてもじゃないが、原初の竜には見えない。
何せ、人間の男だ。
瘦せこけた、疲れた顔の男が片手を掲げ、振り子のように鉄鎖を垂らしている。
地球儀を模したペンダントだろうか。鉄鎖の先には鉄の円環が縦横に交差し、白い宝玉を閉じ込めている。
写真の中に映るのは、ゴードン・フィールディングただ一人だ。
***
「王子様! よく御無事で!」
竜族の男がフィールディングに駆け寄る。濃紺の鱗に覆われた、大柄な竜人だった。頭には後方へ反った二本の角が伸び、左の一本は半ばから折れている。
「護衛を連れるよう伝えたはずです!」
本気で心配している様子の竜人を前に、フィールディングは不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「堅すぎるよ、レト。問題ないさ。いざとなれば君の術式で駆けつけてくれるんだし」
フィールディングが真珠玉をレトに翳した。すると、何か言おうとしたレトが口をつぐみ、悔しそうにうつ向いた。恨めし気にフィールディングに目線を向け、「……王子」とだけ呟く。
話から察するに、ワープゲートはフィールディングではなくレトと呼ばれた竜族の術式らしい。僕は小声で蝙蝠人形に話しかける。
「あのオジさん、王子様って呼ばれてる」
『共通点が見つかって良かったな。仲良くなれるぞ』
「……耳にしすぎて食傷気味なんだけどな、あの呼び名。で、竜たちの目には、彼が竜族の王子に見えてる?」
『らしいな。幻とか、洗脳の術式なんかね?』
「催眠術だったりするのかな? あれ、振り子っぽいし」
もう少し考えを詰めたいけど、あまり余裕はない。眼前に剣を構えた竜族の男が飛び出し、剣を横薙ぎに振る。
僕は後ろに退いて躱した。分解の術式で足場を崩し、逃げ道を拓く――はずだった。
「あれ?」
一瞬思考が止まったのが命取りだ。僕の右肩に投擲ナイフが突き刺さる。
「……術式が、使えない?」
武装した竜人たちが、遠巻きに僕を囲い、ニヤニヤとした顔で僕を見ている。
『……魔術を封じる術式。そんなのあるなら、最初から使えよ』
ヴァルが毒づいた。
まあ屋内限定とか、何かしら制約があるのだろう。竜族の誰の術式かは知らないが、一時的にこの礼拝堂内では魔術が使えなくなっている。
「でもこれ、見た感じ、君たちも魔術を使えないんでしょ? 違う?」
視線を迷わせていると、竜人の一人が胸に手を当てながら答えてくれた。
「ああ。お互い魔術を使えない、フラットな勝負になった」
二十はいようかという竜人たちが武器を構え、少女一人を取り囲んでいる――逆転の目になりうる魔術はなし。果たしてこれはフラットなのか。
僕を囲む竜たちが、ジリジリと距離を詰めてくる。
「……ッ! 来るな!」
僕は全力で声を張り上げた。
竜の誰かが一歩踏み込むと同時に、拳銃を抜き放つ。竜の足元を弾丸が跳ね。動きを牽制する。
竜たちは余裕があるようで、ほくそ笑んでいる。リボルバー式の銃は残り四発。恐怖に震え、近づかせまいと撃ち尽くせば、後はもうなされるがままか。
「来ないでッ!」
礼拝堂に、再び僕の悲鳴が響き渡る。
威嚇に一発。続けざまに二発撃った。ちゃんと狙えてない。足止めとしては無駄撃ちになった。
僕の脳裏に、広場に転がっていた少年たちの死に顔が浮かぶ。彼らを殺すときもきっと、竜たちは今と同じで、ニヤニヤ笑っていたに違いない。
僕は銃口を天井に向ける。竜たちはつられて視線を上げ、そのまま固まった。
「……何だ、あれは」
廃教会の天井を覆いつくす無数の氷柱。そのすべてが刀剣の形に作り替えられていた。
建物内に乗り込まれるのを見越して、あらかじめ作っておいたトラップだ。五発分の銃声と渾身の絶叫はちゃんと効いてる。空気の振動で、氷柱はグラグラ。わずかな衝撃で、氷の刃は一斉に落ちてくる。
「……ふざけるなよ、小娘。あれが落ちれば、お前も無事では……」
僕は天井に発砲した。
竜人たちは悲鳴を上げ、我先にと教会の出口へと駆け出した。まず間に合わない。ジタバタしても意味はないと思う。どこにどれだけ氷の刃が降り注ぐかは完全にランダムだ。どこに立っていても変わらない。ただ、祈るしかないのに。
運命が運ぶところに従おうと思っていたら、同じように静かに佇んでる人がいた。
フィールディングだ。彼は僕に目を向け、笑い声を上げていた。また意味不明な笑いのツボかと、僕はため息をつく。
「俺、命を賭けた確率勝負には自信があるぞ」
フィールディングが楽しそうに言う。
へえ、予想外。あなたの笑いに共感できるなんて。僕もそうなんだ。今日初めて、貴方と分かり合えた気がする――せっかく、今になって、いろいろ声をかけてあげたくなったのに、何一つ言葉にできなかった。
無数の白い刃が、僕らの視界を覆いつくした。
***
目を開ける。
頬のすぐ横、眉間をぶち抜く位置から十数センチずれた場所に、氷の長剣が突き立っていた。
「……この手の賭けに勝つと気分がいい。神様に愛された心地がする」
『お前、結構な頻度で狂人に化けるよな』
身体を起こすと、ずきりと痛んだ。右肘から先がない。
千切れた先が手近にあったので、魔術でつなぐ。再生の魔術を宿した左手の方が消失してたら詰んでた。やっぱり僕は運がいい。
裂けた肉が蠢き、傷口が塞がっていく。
「……術式が使えるってことは」
『魔封じの術師は死んだ。多分、アレのどれかだろ』
ヴァルが翼で床を示す。
礼拝堂は見る影もなかった。
長椅子は砕け、床一面に氷の刃が突き立っている。その隙間には竜人たちが折り重なるように倒れていた。
片脚を失い目を潰された竜人が、千切れた脚を探して這っていた。そのすぐ傍には、背中を串刺しにされた男が、喉の奥からひゅうひゅうと奇妙な音を漏らしている。
動いているものは意外と多く、呻き声もずっと聞こえる――同時に、長くないのもわかる。
倒れた竜人たちを一人ずつ見渡す。でも、探している顔は見当たらなかった。
「……あのレトって竜は?」
『フィオが目覚める少し前、王子様を連れて逃げたよ。アイツも運が良かった。足が一本落ちるだけで済んだらしい』
「行先は?」
ヴァルの蝙蝠人形が、不気味で可愛いにんまりとした笑みを浮かべた。
『決まってる。ウィローデールの再臨祭さ』
コメント
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第6話①読み終えたよ〜!!✨ フィオちゃんの氷の刃トラップ作戦、めっちゃ格好良かった😭💕 銃声と悲鳴が実は布石だったって展開に「やられた!」ってなった! フィールディングとの「確率勝負に自信ある」で通じ合うのもじわじわくるw ノクスも「王子」呼ばわり食傷気味なのウケる〜! 再臨祭の謎が気になりすぎる!!次の話も楽しみにしてるよ⋆♡