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子猫たちに出会って、5日目。
今日が、最後の日だった。
来週からは部活が始まって、もう朝と夕方の日課になった子猫たちの世話はおしまい。
今日の登校前、もうほんとにお別れなんだなぁって、寂しいねって、ふたりでおもいっきりさんびきのあたまを撫でて。
明日には、仁人が見つけたっていう、動物を保護してくれる施設に子猫たちを預けに行くって。
そう、約束したのに。
今日は最後だから。
体験入部を用事があるからって休んだ。
子猫たちに、とびっきりのご馳走を買ったから、あいつより先に側溝で待って、サプライズで一緒にあげようと思ってた。なのに。
立ち尽くすのをやめて、自転車を止め、側溝に降りる。
なんで。
朝には確かにふわふわで、あったかかったのに、今はもう冷たくなって、動かないブチとミケとシロの頭を撫でながら、泣きそうになる。
でも、それと同時に、泣いてる暇なんてないと袖で顔を拭う。
…あいつが。
仁人がくるまえになんとかしなきゃ。
側溝から飛び出して、杉林の木の根本を両手で夢中になって掘る。
爪に土が食い込んで気持ち悪いし、木の根が邪魔で、気持ちばっかりが焦って、うまく掘れない。
でも、早くしなきゃ。
早く早く早く。あいつが来る前に、なんとか。
「…はやと?」
しばらく掘り続けていたら、急に後ろから声がして、あーあと。
さっきよりも更に泣きそうになった。
あーあ、間に合わなかったや。
「なにやってるの?なんか探し…」
ゆっくり振り返った先で、仁人は俺を見たあと、側溝の下に視線を向けて。
その大きな目を、見開いた。
目の前の光景に、息が止まる。
がしゃん、とどこか遠くで自転車の倒れる音を聞きながら、ふらふらする足で側溝に降りて、膝をつく。
「なん…で、」
震える手で、さんびきのあたまを撫でる。
冷たい。もう、朝みたいにあったかくもないしふわふわじゃない。
他の生き物に傷付けられた痛々しい姿に、どんどん目の前がぼやけていく。
「……じんと、」
肩に手を置かれて、隣に立つ勇斗を見上げるけど、言葉が出ない。
なにしてるんだろうと思った。
いつもの場所で、なんだか必死で木の根元を掘ってるから、何か無くして探してでもいるのかと思ったら。そっか。
僕に見つからないようにって、1人で埋めてあげようとしてたんだ。
…ほんと、どこまでやさしいんだよ。
勇斗から、もういちど子猫たちに視線を移す。
溢れ出すのは、後悔ばっかりだ。
もっと早くに場所を移動してあげていたら。
うちに連れて帰ってあげられていたら。
そしたら、
「ごめんね。……ほんとに、ごめん」
ぽたぽたと、涙の雫が子猫たちに降りかかる。
「…泣くなって、じんと」
そう言って、隣にしゃがんで、背中を撫でてくれる勇斗の目にも涙が浮かんでいて。
それを見たら余計に、涙が止まらなくなった。
こうして、僕と勇斗と子猫たちの。
夢みたいに楽しかった時間が、
ほんとうの意味で、おわりをむかえた。
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