「大丈夫かい!?」
「ううっ……」
誰かに肩を揺さぶられていることに気づき、重たい瞼をゆっくりと開ける。
深い眠りから目が覚めて知ったけど、私は誰かに体を支えられていた。
それだけではなく、手も重ねられていて相手の体温が伝わってくる。
なぜなのか、そのぬくもりが心地よいと思えた。
「生きていてよかった……」
安心するような声で話し掛けてきたのは、若い大人の男性だった。
しかし、会社の人ではなく、全く知らない人で目を丸くする。
私を真っ直ぐに見つめてくるグリーンの瞳。
微かな風で揺れるブラウンのショートヘアー。
そして、目鼻立ちがはっきりしている。つまり、イケメンだ。
でも、タートルネックを着ていて、肩や腕を守る銀色の防具を装備している。
中世時代の格好だろうか。
どうして戦いに行くような服装をしているんだろう。
それでもかっこいいイメージの方が勝って胸が高鳴る。
「なんで……、私を……?」
「きみは、この草原で倒れていたんだよ」
不思議に思って周囲を見渡してみると、会社がないし、同僚たちもいない。
辺りは緑色の草だらけで、穏やかな風が吹いている。
それに雲が見当たらないほど、綺麗に晴れている。
なぜ私は草原にいるんだろう……?
「まだ仕事を始めたばかりだったのに……。
どうやってここまで移動してきたんだろう……」
「寝ているうちに、誰かに連れて来られたとか?
まだ、ぼーっとしているみたいだし、もう少し寝ているといいんじゃないかな?」
「そう言われても……。
この状況が分からないから、ゆっくり寝ていられなくて……」
「もしかして、記憶喪失……?
この辺りは平地で木と草しか生えていないから、特に危ないものはないと思うんだけど……」
さっきまで会社で仕事をしていた記憶はある。
それに、頭も痛くないからその可能性はないだろう。
おかしいのは、目が覚めたら知らない場所にいたこと。
あと、中世時代のコスプレをしている男性が急に現れたことだ。
「私も何があったのかさっぱり分からなくて。
でも、助けてくれてありがとうございます。えーっと……」
「僕の名前はレト。旅をしている者だよ」
胸に手を当ててから会釈をして、爽やかな笑みを向けてくれた。
でも、名字を言うつもりはないのだろうか。
とりあえず、私も名前だけ教えよう。
同僚の女に酷いことを言われたせいで、自分の名前を口にするのが嫌だけど……。
「私は……、かけら。
二十一歳で会社で働いているよ」
「会社っていうのは、僕の国ではないから分からないけど……。歳は僕と同じだね」
「本当!? 私より歳上なのかと思った」
「そうかい? でも気楽に話せそうだ。
よろしくね、かけら」
「こちらこそよろしく」
私の名前について、レトは何も思わないのだろうか……。
何の躊躇いもなく口にしてくれる。それだけでも嬉しく思えた。
「ところで、かけらの着ている服は珍しいね。
どこで買ったの? スノーアッシュ?」
「スノー……? ごめんなさい。よく聞き取れなかった。
これは仕事中に着るように指定された服だよ」
「へぇ……。そんなに立派な服を着ているんだ」
今、私が着ているのは会社から支給された半袖と長ズボン。つまり、作業服だ。
どこにでもありそうな形をした服が気になるなんてレトは不思議な人だ。
服の話をして気づいたけど、草の上に座っているからズボンが汚れているかもしれない。
恥ずかしいから土を落とそう。
立ち上がろうとすると、急に目眩がして地面に尻餅をついた。
「まだ立てないのかもしれない……。
どうしちゃったんだろう、私……」
「本当に大丈夫かい?
そんな状態だったら、まだ横になっていないとダメだよ!」
「きゃっ……!」
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