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レトは勢いよく私を地面に向かって押し倒した。
優しそうな人だと思っていたのに、いきなり強引にされて驚いてしまう。
しかも、キスができるくらいに顔を近づけられて、私の身体の熱は一気に上昇した。
レトって……、積極的な人なのかな……?
ドキドキと鼓動がうるさく聞こえる。
こんなことをされるのは、初めてでどうしたらいいのか分からなくて……。
驚いた顔をしているくらいしかできなかった。
「はっ……!? かけら、ごめん……!」
何を思ったのか分からないけど、レトは謝った後に急いで両手を離した。
そして、視線を逸して眉を下げ、赤くなった顔の口元を手で隠した。
「こんなはずじゃ……。
かけらを心配して、すぐに寝かせようとしただけなのに……。
まるで節操がないやつだと思われてしまうね……」
「うっ、うん……。
何かされるのかと思っちゃった」
「やましいことをするつもりはないよ!
倒れていた人を襲うなんてことは、僕にはできない。
でも、無理しないで、横になっていて欲しかったから……」
どうやら、悪気があって押し倒したわけではないらしい。
心配してくれていただけのようだ。
一気に静かになって、風で揺れる草の音だけが聞こえてくる。
私はそのまま横になって、早い鼓動が落ち着くのを待つ。
お互いに顔を見ることができなくなって、しばらく沈黙が流れた。
「ねぇ、かけら……。
きみはどこに住んでいたのかな?
途中で倒れると大変だから送って行くよ」
「街から山沿いの方に出て……。
会社がたくさんある場所の近くのボロボロなアパートに住んでいたよ」
「ん? 聞いたことがない場所だね。
会社とアパートとか知らない言葉だし、僕の国にはない。
もしかして……、かけらは他の国から来たというのかい?」
「えっ……? ここは、なんていう国なの?」
「グリーンホライズン。
この世界で一番自然が豊かな場所だよ」
全く聞いたことがない名前が出てきて、ぽかんと口を開ける。
世界地図を思い浮かべて、どの辺にあるか考えてみるものの、パッと出てこない。
「どこかの国の田舎とか……?」
「ははっ、確かに自然が多いから田舎みたいな感じだけど……。これでも立派な国だよ。
グリーンホライズンを知らないなんて珍しい人もいるものだね」
レトは笑っているけど、私は思考と身体が固まっていた。
聞いたことがない国の名前が出てくるということは、信じたくないけれど……。こう思うしかない。
ここは、私が住んでいた日本ではないということ――
仕事中に階段から落ちた後、私の人生は終わってしまったのだろうか。
嫌なことばかり起こって、つらかった人生が……。
「もしかして、ここは天国にある一つの国?それとも地獄?」
「本当に大丈夫かい?
ここは死後の世界ではないよ。
だけど……、天国のように幸せな世界だったら、どれほどいいものか……」
レトの優しそうな顔が、少しだけ曇ったように見えた。
会社とアパートがない世界。
私が住んでいた国ではそんな場所はないはず……。
信じられないけど、ここは知らない世界なのかもしれない……。
つまり、ここには、嫌な職場と同僚がいない。
私は……、あの嫌な日々から開放されて自由になれたんだ。
ずっとつらかったから、離れられたのが嬉しくて口角が上がる。
夢かもしれないけど、この時間を楽しみたいと思えた。
今の自分の状況が少し分かって安心した時、ぐうっとお腹が鳴ってしまった。
聞かれてしまうほど、大きく鳴ったから恥ずかしくなってくる。
「ごめんなさい……。お腹が空いてるみたいで……」
「お腹が空くのは、誰でも一緒さ。
真上にあった太陽が西の方に進んでいるから、昼の時間が過ぎているのかもしれないね。
今からご飯の準備をするから待っていて」
「周りに草しかないのに!?
こんなところでご飯が作れるの?」