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そう言うぎこちなさを感じさせられる全てが、羽理の不慣れさを象徴しているようで、愛しくてたまらないのだ。
「なぁ羽理。……キス、しても……いいか?」
それでも四角四面にそう問いかけてしまったのは、もしも羽理に本当はそんなつもりがなかった場合、彼女の意志を無視することになってしまうと懸念したからだ。
自分も大概スマートじゃないなと頭の片隅で苦笑しつつ……。
今まで自分はどんなふうに女性と口付けをするタイミングをはかっていたのだろう?と考えてしまった大葉だ。
(思い出せん!)
だが、さすが恋愛初心者の羽理というところか。
そんなグダグダな大葉相手に、コクコクと恥ずかしそうに懸命にうなずいてくれる。
(可愛すぎだろ、荒木羽理!)
手慣れた女性なら「聞かないで!」とか「察しなさいよ!」とか叱られていても仕方のないところだ。
大葉はゴクッと生唾を飲み込もうとしたのだけれど……緊張していて飲み込める唾液がなくて。
そのことにも妙にドキドキと心臓を跳ねさせてしまう。
ギューッと身体を固くしてキス待ちをしてくれている羽理をこれ以上待たせるわけにはいかないと、目一杯男らしさを振り絞って羽理の唇に自分のそれを重ね合わせたのだけれど。
ふわっふわのマシュマロみたいな羽理の唇の感触に、気が付けば夢中になって何度も何度もついばむみたいに唇を重ねていた。
「や、んっ。たい、よ……息、出来なっ……」
別にディープな大人のキスをしているわけではないのに。
唇を離すたび、いくらでも呼吸のタイミングはあっただろうし、もっと言えば鼻で息すればいい。
だが、それすらままならなかったんだろう羽理が、真っ赤になって大葉の胸元をトントンと叩くから、大葉はその初々しさに羽理のことを胸が苦しくなるくらいに好きだ!と再認識した。
「羽理! 何で俺はお前がこんなに可愛くて堪んないんだろうな……!?」
私に聞かれても困りますっ!と返されかねない気持ちを、もどかしさごと言葉に乗せた大葉は、羽理を抱き起こして衝動のままに腕の中へ閉じ込めた。
「あ、あのっ。あのっ……」
突然の大葉の暴挙に真っ赤になってあわあわする羽理の唇に、もう一度だけ――。
そこだけは丁寧な動きでゆっくりと……。
大葉はその温かさと柔らかさを堪能するみたいに真心を込めて口付けを落とした。
さっきまでのついばむみたいなキスとは違って、重ね合わせたまま離される気配のない唇に、羽理がたまらずちょっとだけイヤイヤをして「ふ、ぁっ」と呼気を落とした瞬間、無防備に開かれた羽理の唇の隙間へスルリと舌を差し込んだ大葉だ。
「ひゃ、んっ……」
そのことに驚いたように慄いて縮こまる羽理の舌先が可愛くて堪らなくて、じゃれるみたいに二度三度、軽くくすぐるだけの軽めのフレンチキスをする。
唇を離す時、名残惜しさにわざとペロリと羽理の小さな唇を舐めてやれば、羽理が呆然とした様子で大葉を見詰めてきた。
「――羽理?」
余りにぼんやりした様子の羽理を心配した大葉が「大丈夫か?」と、問い掛けたと同時。
「わ、私、……大人のキシュ、初めてしましら……」
と、羽理がどこかうっとりとした舌っ足らずな口調で言うから。
大葉は思わず手のひらで顔を覆って、(頼むからこれ以上俺を煽らないでくれ!)と、心の中、グッと理性を総動員して懇願せずにはいられなかった。
そうしておいて、これはもう無理だな?と早々に白旗を上げて……。
「なぁ、羽理、お願い? このまま……抱かせて?」
羽理を片腕で抱きしめたまま、自身の顔を覆っていた手を移動させた大葉は、愛しい彼女の頬から首筋に向けて意味深に指先をツツツツッ……と滑らせた……。
三十路も半ばを越えてこんなに〝したい!〟と思うような状況になれるだなんて、正直自分でも驚きだ。
準備してある避妊具は全部で六個。普通に考えれば十分過ぎる個数だが、羽理が相手なら何回でも出来てしまいそうだと思えるのが怖い。
とはいえ――。
大葉はそこでオロオロと不安そうに自分を見上げている羽理を見下ろすと小さく吐息を落とした。
(まずは最初……一回目がうまく出来るかどうかが問題だよな?)
処女を相手にするのは、大葉だって初めてなのだ。
上手く……出来るだろうか?