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冗談抜きで泣きました...素敵な作品すぎてもう😭😭😭😭
夜中、ふと目が覚めた。隣では珍しく、竜崎が大人しく眠りに着いている。普段はいつも僕が先に寝ていて、竜崎は僕が寝てもなお隣でずっと仕事をしているのだから一緒に布団の入って寝るのなんて極偶にしか無い。いや、僕自身が寝てる間に一時間ほど布団で休憩を取ったりはしているのかも知れないが。でも、もし竜崎が仮眠を取るならば、椅子に座ったままいつもの体制で数分だけしか眠らない気がする。本当に毎日のようにこんな生活をしているんだったら、目の下の消えることのない濃すぎる隈にだって納得行く。竜崎の生活習慣には呆れるばかりで、最初の頃は怒ったり、何度も注意したりしていたが今はもうその気にすらなれない。この間なんて、シュークリームを買ってきて、その上に追いホイップクリームをして食べていたのだ。それを見た時は流石の僕でも嫌悪感を顔に出さぬようにするのは難しかった。僕の顔を見て、竜崎は「何ですか…」と不満気に聞いてきたのだから隠せていなかったに違いない。大体、アイツはいつも………まあそんな事はどうでも良い。こんな面白い状況、中々お目にかかれないのだから、ごちゃごちゃ竜崎の生活習慣についたって考えたって無駄だ。取り敢えず竜崎の顔を何回も通り過ぎるように、手を左右に振ってみたが特に反応が無い。本当に寝ているようだ。いや、アイツだったら寝たふりなんて事もあるかも知れない。僕の様子を調べる為に…とか。まあ、アイツがそんな意味のない無駄な事をするとは思わないが…。
数分じっと竜崎の様子を見ていたが、起き上がる気配もないし、身体を1ミリも動かす気すらしない。…そう言えば、こんなに竜崎の顔をまじまじ見るのは初めてかも知れない。センター試験の日では、目の下に大きい隈がある変なヤツ。と言う感想しか抱いていなかったが、意外と整った顔立ちかも知れない。その長めの前髪と、目の下の隈、そして突飛な言動とその姿勢が顔本来の印象を薄めてしまっているだけで。横から眺めていたら、外国人だと分かるくらいには鼻も高いし、目も意外と大きい。僕が隣に居るから捜査本部のみんなも気づかないだけで、元はいいのかも知れない。ミサが化粧をしたら意外と化けたり…と考えて、思わずクスクスと笑ってしまった。なぜか、緊張していた雰囲気が解れたような気がした。
「竜崎」
取り敢えず、名前とは呼べないソレを口に出して呼んでみてしまった。寝ていても、寝たフリをしていても、絶対に返答が無いのは分かっていたが、体が勝手に…いや、衝動的に、と表す方が正しいだろうか。いつの間にか溢れるように呼んでいた。……予想通り沈黙が流れる。ここで、特に話す事も無いのに竜崎から「何ですか月くん」と返事が来た方が困っていた為、安堵が混じったため息を一つ吐いた。
「寝ているのか、寝たフリなのかは分からないが、好き勝手に隣でお前に話しかけていてもいいか?」
ぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。当然、竜崎はうんともすんとも言わない。
「何も言わないなら勝手に肯定だと捉えるからな。…コレで本当に寝てた所を起こしてしまったら謝るけどさ。」
そう言って、僕は、僕自身の昔話をし始めた。
小学校4、いや5年生だったかな?その時から僕は周りと自分自身は何かが違うと気付いていた。…コレも、世間が聞いたら自意識過剰だの自惚が酷いなど言われそうだな。でも、本当にそうだったんだよ。そんなに幼い時でも僕はもう孤独を感じていた。僕自身を偽って過ごしていたよ。例を挙げるとすれば…何の面白味の感じられない戯言や下ネタに、周りに合わせて笑ったり、頷いたりしていた。竜崎にだって覚えはあるだろう?いや、君は周りに合わせるようなヤツじゃ無いか。分かっているのに態々聞いてごめんな。…少し話がズレた。まあ、その頃道徳の時間にクラスみんなでとある一つの童話を軸に、議論が行われたんだ。外国の竜崎でも知ってはいるだろう。有名な「桃太郎」と言う物語の話だ。
クラスで行われた話し合いはこう言うものだ。
「果たして桃太郎が行った行動は正しかったのか」
…そんな意味のない話し合いをして何になるのかと僕は呆れたよ。鬼は村の人々を殺して金品を奪ったのだから倒されて当たり前だと。
けれども周りの意見は違った。間違ってもいないが正しくもない。別の解決方法があった筈だってね。先生に指名されて意見を発するクラスメイトはみんなこう言うんだ。「鬼にだって事情があった筈だ。もう少し穏便に解決出来なかったのか」と。こう言うものもいた。「もし、鬼が食糧に困っていて、仲間に食べさせてやる為に奪ったのだとしたら、人間が分けてあげて共存するべきなのだ」と。
理解できない。鬼が、「人を殺して食糧を奪った」のだから、手を伸ばしてやる必要も、わざわざ気にかけてやる必要も無いのに。そこに「もしも」なんていらない。必要なのは鬼が何をしたか、だ。そして、もう一度同じ過ちを犯す可能性のある鬼に慈悲を掛けてやるつもりは無いって。
そんな事を考えている時に不意に先生に指名されたから、僕も焦ってみんなに合わせたそれっぽい事を言ったよ。序盤に当てられなくて助かった。危なく僕は変人になる所だったからね。
…少し昔語りが長引いちゃったな。まあ、小学生の時にそんな事があったんだ。
普段、全力で竜崎からの言葉を否定しているから、自分で言うのも可笑しな話だけれど、僕、本当はキラだったんじゃ無いかってたまに自分でも疑ってしまうんだ。もちろん、キラとして人を殺した記憶も無いし、僕が、今その大きな力を手に入れたら同じ事をするとも思えない。けれど、僕は根本的な考え方はキラに似ているんだ。FBIを殺したり、竜崎を殺そうとした事には賛同出来ないが、犯罪者を排除して、世界をより良くすると言う考え方には、多少なりとも納得出来てしまうんだ。理解、出来てしまうんだ。
暫くの間僕は無言を突き通した。溢れ出る感情を押し殺す為に。声に出てしまわないように。
「竜崎、僕は…僕は…。」
今の僕の声はとても悲痛に満ちた声をしていて自分でも乾いた笑いが出るほどだった。もし竜崎が今起きているのだとしたら、笑いを堪えるのに必死だろう。それでも言葉を続けた
「怖いんだ、もし本当に僕がキラだったとしたら、お父さんを傷つけてしまう。お母さんや妹に迷惑をかけてしまう。みんなに迷惑を掛けるのが、そして、みんなを落胆させてしまうのが。途轍もなく怖いんだ。」
目頭が熱くなり、思わず向く。
「…今日の僕は可笑しいな。変な話をしてごめん。」
そう言って震える声を押し殺す。視界が滲んでいくのが分かる。嫌だ、いやだ、いやだ…!泣きたくなんて無い…。
急にごそ、と言う音が聞こえ、気付いたら視界が黒く染まっていた。頭は暖かい何かに優しく触れられ、体には別に誰かの体重が少し掛けられている。
「…こんなに月君が追い詰められているなんて知りませんでした。」
聞き馴染みのある落ち着いた声でそう話しかけられる。
「いつもの大人顔負けの音付きぶりで忘れていましたが、月くんだってまだ子供だったんですね。」背中に手が回され、とんとん、と落ち着いた一定のリズムの振動が優しく伝わってくる。コレじゃあまるで僕が赤子のようにあやして貰っているみたいだ。
「月くんが幾ら苦しんでいたって、月くんへの疑いを全て晴らす訳には行きません。ですが、少なくとも今のあなたの言動は、世界の誰よりも『正義』に一番近いと、私は思います。」
竜崎の熱と同時に、優しさが体の奥底にじんわりと広がって行く。こんなの、5歳の時、補助輪無しの自転車をこぐ練習をしていた時に、転んで擦り傷が出来た時以来だ。僕は勝手に、竜崎の服を少し湿らせた。お前だって勝手に僕の話を聞いていたんだからおあいこだぞ。